見出し画像

実業之日本社過去最高益と出版ビジネス

◉実業之日本社、老舗の経済系出版社だったのですが、2016年に株式会社シークエッジインベストメント(旧株式会社善光)を中心としたシークエッジ・グループの傘下入り。それが、過去最高益に。

【実業之日本社、過去最高益の決算】新文化オンライン

第115期(2020.2.1~21.1.31)の決算概要を発表した。売上高は29億5200万円(前年比8.7%増)。営業利益は5億9400万円(同27.7%増)、経常利益7億5300万円(同43.0%増)、当期純利益は6億3600万円(同116.0%増)。16年4月にシークエッジ・グループの一員になって以来、過去最高益を更新した。
108巻で計4000万部を超えるコミック、新田たつお「静かなるドン」が、電子ストア「ピッコマ」での仕掛け販売をきっかけにヒットして大きく貢献した。その売上げ(実業之日本社への入金額)は、当期だけで6億円を超えたという。

個人的には、ちょっとだけ関係が無いわけでもない──知り合いが勤めていた──会社なので、この数字自体はよろこばしいのですが。その内容に、思うところはあります。

◉…▲▼▲▽△▽▲▼▲▽△▽▲▼▲…◉

■収益の5分の1が過去作で■

売上高は29億5200万円(前年比8.7%増)とのことですが、その中に新田たつお『静かなるドン』が占める割合が6億円って、極端ですね。加えて、人気作家の東野圭吾先生の新刊が22万部のベストセラーとのこと。『疾風ロンド』などなんでしょうけれど、858円円の本が22万部とすると、1億8876万円になりますね。既刊もけっこうありますから、たぶん、こちらの売上も2億円ぐらいはあるでしょう。イラスト集やイラストコミックも好調とのこと。

29億5200万円円のうち、たぶん3分の1がこれらの売上って、経営としてはちょっと危なっかしいですよね。『静かなるドン』は2012年12月18日で連載が終わった作品ですから、過去の遺産で食ってる部分もありますし。そこはまぁ、ボーナスのようなものとしても。電子書籍やらピッコマの読み放題サービスで、5分の1に当たる売上を叩き出すビジネスチャンスを、失っていたということですから。

■失われるビジネスチャンス■

ここ数年、本作りのデジタル化に対応できず、廃業したりビジネスチャンスを失っている出版社や編集プロダクションを、ちょいちょい見かける気がします。デジタル化というと、なにか難しい気がしますが、そうではなく。自社の本や雑誌をデジタルデータにして、それを流通させやすいようにするだけなんですけどね。もっと言えば、紙の本を作るときにもInDesignなどを導入して、デジタルデータで入稿すると、電子化は簡単にできちゃうんですよね。

その習得が難しいかと言われれば、少なくとも大学や専門学校で、中国人留学生に教えても90分の講義15回でだいたい、ひととおり使えるようになります。Illustratorと併せての講義で、余裕を見ての作業ですし、ベテラン編集者なら版下づくりの基本は抑えていますから、もっと短時間で学べるでしょう。そう考えると、食わず嫌いで何億円ものビジネスチャンスを失ってる側面がないのか? 出版社はや編集プロダクションは、考えるべきでしょうね。

■読み放題サービスの可能性■

全100巻で6億円なら、1巻あたり600万円ですか。この数字を見れば、例えば新田先生にページ3万円で180ページ描いてもらえば、540万円の原稿料になりますが。たぶんそれが、この新規読者に訴求し、本の売上にKindle  Unlimitedやピッコマで、新たな富を生むはずなんですよね。もし、実業之日本社にデジタルに強い人間がいて、電子書籍にもっと早くに軸足を移していたら……と思わずにいられません。連載も終わらせずにWebで続けていれば、とも。

写研(写真植字研究所)がデジタル化の波に乗り遅れて、分派だったモリサワに吸収されたように。もったいないんですよね。石原苑子先生の『祖母から聞いた不思議な話』も、Kindle  Unlimitedで高く評価されて、定額サービスという形式は、新たな潮流になるでしょう。もちろん、無料で読んだけど本も買った、というのが理想ですが。

■不易流行は世の常なれども■

田中圭一先生のこちらの指摘も、重要ですね。時代の変化についていけなければ、新美南吉の『おぢいさんのランプ』の問題に直面しますから。

個人的には、縦スクロールも本質は日本の巻物や、欧米の巻子本ロトゥルス(rotulus)の縦巻き上げ形式と同じだと思っています。こちらの歴史も古く、イギリスのマグナカルタ(大憲章)などもこの形式で書かれていますしね。日本では絵巻が長らく主流で、手紙も折りたたみますが基本はひとつづきのスクロール形式で読むものでした。同時に、冊子のコデックス(codex)の歴史も長く、そう簡単に廃れるとも思っていません。

あんがい、折りたたみ液晶が普及したり、巻取り方式のスライド液晶が普及すれば、横スクロールも右捲りか左捲りかはわかりませんが、あんがい簡単に定着して縦スクロールを駆逐するかもしれません。そうなったときに生きるのは、縦スクロールでも横スクロールでも通用する、表現の基礎力。1947年に発表された手塚治虫先生の『新寶島』があんがい、縦スクロールでも読めるので、自分はあんまり心配していません。コマ割りの文法を押さえておくことが大事かと。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ