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日本のアニメが「中国で負ける日」

◉ハフィントン・ポストが、中国アニメ界について報じています。中国のアニメ界伸長は自分も指摘していますし、部分的に同意できる部分はありますし、貴重な証言は参考になります。ハフィントンらしい、周回遅れで甘い記事だとは思いますが…………。

【日本のアニメが「中国で負ける日」が来る。「天才に頼らない」戦略が、圧倒的な差を覆そうとしている】ハフィントンポスト

中国側は日本から技術や経験を学び、日本が抱えてきた構造的な課題も解消しようとする。巨大市場を失いかねない日本は「口を開けて金が入るのを待つ」時代から脱却できるか。
高橋史弥(Fumiya Takahashi)

個人的に思うことを、つらつらと書きます。中国は他の産業もそうですが、国内だけで経済が回るシステム構築が目標ですから、日本が市場を失うのは必然です。ヤオハンと同じで、最初からノウハウ吸収と自家薬籠中の物にするのが目的ですしね。

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■日本は中国に媚びるべきか?■

自分も、アニメーターを目指す中国人留学生を数百人、教えた経験がありますから。彼らの真面目さと情熱は、居眠りばかりの日本人学生とは比べ物になりませんし、中国が急速にアジャストしてきているのは、このnoteやTwitterでも何度か書いてきました。『羅小黒戦記』への評価も、高いですしね。そもそも、『カンフー・パンダ』を観た中国のエライさんが「なぜ我が国にこの映画が作れんのだ」と嘆いた2008年からもう、干支が一周りしています。

でも、ハフィントン・ポストの勝ち負けの視点は、ズレていますね。たしかに中国は大きな市場で魅力的ですが、その中国に媚びたアメリカのハリウッドや企業や組織が、心ある人から批判されています。朝日新聞別働隊たるハフィントン・ポストとしては、中国政府の民族浄化とか言論弾圧には目をつぶり、中国の検閲に適う作品を作れと言うつもりでしょうかね? 日本は幸いなことに、中国市場に金玉を握られていませんので。

■追う者の強み、追いつくのは早い■

中国は、物作りの次はサービス産業、その中でもコンテンツビジネスだというのはハッキリ解っていて、人材も集まっていますしね。富野由悠季監督も、中国の最高学府でトップたる北京大学で、アニメ研究会の部員が600人も在籍しているのに驚いたとか。彼らは、アニメーターとしての実務作業はイマイチでも、法務部や管理部や営業販売部や人事部や知財部や海外交渉で、大きな能力を発揮します。そう、官僚として優れた資質を持っているわけです。

岡田斗司夫さんも指摘されていましたが、富野監督は手塚治虫先生の虫プロで、TVアニメ黎明期から全盛期を観てきた人ですから、今の中国があの頃の日本のどのレベルか、リアルに予想できますからね。早晩、中国は日本に追いつくというのは、現場のトップであった富野監督の予想でもありますから。そういう意味では、ハフィントン・ポストの記事は目新しくもないし、深くもないなぁというのは、正直な感想です。

■作話の才能は神様のギフト■

コンテンツビジネスという点で自分は、京都アニメーションが独自の小説のレーベルを立ち上げ、そこから『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』というヒット作を生み出したように、小説・マンガ部門をアニメ制作スタジオが持つ、あるいは小説・漫画のコンテンツを持つ出版社がアニメ制作部門を持つというのは、充分に有りえると思います(もちろん難しい点もありますが)。あと、高橋史弥氏の記事がイマイチだと思うのは、この点ですね。

作品を生み出すのは、やっぱり個人の才能なんですよね。天才に頼らない戦略と華々しく見出しを打っていますが、作話ということのナメ過ぎです。東大と兄弟には毎年、合計6000人ほどが合格しますが、日本に漫画家は3000人から6000人しかいませんし、アニメーターも似たような数字。小説家はわかりませんが、もっと少ないでしょうね。医師国家試験に合格し、厚生労働省に登録している人は31万人以上います。それだけ希少な才能なんですよ。

■日本アニメ界の問題■

もちろん、日本のアニメーションの現状が良いとは、一言も言っていません。実力のない人間は淘汰されるべきだと思いますし、5年目以内のアニメーターは見習いであって、前座みたいなものだと思います氏。ただ同時に、一流のアニメーターは数千万とか億単位で儲けていいと、自分は思っています。それだけの、希少な才能なんですから。でも、再配分のシステムができていない。また若い人が育っていないというのは、元アニメーターの宮尾岳先生も指摘されています。

出版社がアニメ制作会社を持とうとしても、そこに創作者としての楽しみがなければ、儲かってもやりがいがない仕事になってしまうでしょうし。日本は、その作家性が強みでもありますから。もともと、アニメ制作スタジオはすぐ独立して始めるところが多く、集団作業ではあるのですが、やはり作家性の強い天才を支えるシステムという部分が。ブラック化しやすい側面はありますしね。今後、中国もそうなる可能性がありそうです。こんな指摘も。

■今後の変化に期待■

そもそもアニメ業界の貧乏体質、山本寛監督は製作委員会方式が問題だといい、岡田斗司夫氏は音響が多く持っていくといい、元アニメーターの友人はデザインナーが持っていくといい、バラバラ。要するに、内部にいる人間が原因が解っていないのですから、そりゃあ治りはしないです。あとは、大塚康生氏や高畑勲監督らの世代が、手塚治虫に責任転嫁し、業界を健全化する方向には動かなかったことも、大きかったでしょうね。ここらへんは、宮崎監督らの世代が生きてる内は、内部批判は少ないでしょうけれど。

その状況を、庵野秀明監督ら以下の世代は変えようとしていますし、そこに自分も期待します。たぶんですが、旧帝国大+一工レベルの大学を出たレベルの人間が、事務方として決定的に足りないんでしょう。そこら編の事務方を、それこそ阪急グループの小林一三が部下を欧州やアメリカに何年も派遣して、ショービジネスを徹底的に学ばせ、宝塚音楽学校を今でも通用するシステムに育てたように。南カルフォルニア大学やピクサーに何年も修行に出せる余裕が、欲しいですが。難しいでしょうね。

日本は日本の事情があるので、そこにあった方法論を模索しないと、難しいでしょうね。どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

売文業者に投げ銭をしてみたい方は、ぜひどうぞ( ´ ▽ ` )ノ