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アニメと声優とコンテンツビジネスと

◉今回の参議院選挙出馬に向けて、積極的に動かれている赤松健先生ですが。日本のオタク文化のもうひとつの山である、アニメ業界にも鋭く切り込んでいらっしゃいます。Twitterのスペースを利用して、現役の声優さんたちを交えての本音トーク。切り口としては声優からなのでしょうけれど、アニメ業界のブラック体質自体が問題になっていますしね。ここにきちんと斬り込めるのは、国会議員のでないと難しいでしょう。

【「1万5000円からギャラ上げられない」 現役声優が訴えたアニメ現場の「過酷な労働実態」】J-CASTニュース

 漫画家の赤松健さんと声優の榎本温子さん・神田朱未さんの3人が、2022年2月28日にツイッターの「スペース」上で交わした会話の中で、現役声優の厳しい労働事情が話題になった。

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、アニメスタジオの録音用のマイクの写真です。やっぱ本格的で、メカメカしいですね。

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■アニメ業界の問題点■

自分はアニメ自体は好きな方だと思いますが、アニメ業界の内部にいたことはないですから。元アニメーターの漫画家とか、間接的に情報を聞く程度。その点においては、元ガイナックス社長の岡田斗司夫氏と、元京都アニメーションの監督である山本寛氏の公開トークとか、興味深く拝聴は出来ましたが、それが真実かは判断できません。そもそも、アニメ業界のかなり深いところにいた方が、アニメ業界の貧乏体質の理由が、説明できていない印象。

製作委員会方式が問題だと、一応の結論は下記でリンクしたYouTube動画では出ているのですが。岡田斗司夫氏は、音響部門が金を持っていくといい。元アニメーターの友人などは、デザイナーが多く持っていくといい。要するに内部にいる人間も、経営部分はほとんどタッチせず、作品を作っていられれば幸せと言う職人気質の人間が大きいのでしょうね。そして日本のアニメは、そういう家内制手工的な手法でなんとかなってしまってきた部分も、大きいのでしょう。

リスクとリターンは、これはもう当然の話で。製作委員会方式でリスクを減らすと、そのぶんリターンが減るのも当然といえば当然。また製作委員会方式だと、船頭多くして船山に登るになる面もあるようで。庵野秀明監督のスタジオカラーが、リスクを取って自前の資金で制作にこだわるのも、リターンの計算ができる有名監督である面も、大きいのでしょう。古巣のガイナックスの空中分解ぶりを見ても、アニメ制作はリスクが大きいようで。

■供給過多の声優たち■

声優のギャランティーが安いというのは、それこそ永井一郎さんなどが、アニメの再放送のギャランティーをテレビ局に認めさせたのと同じように、もともと安い世界だというイメージはあります。当時も、ギャランティを暴露されていらした記憶が。『声優名鑑2021』によれば、男性声優が607人、女性声優955人掲載されており、男女計1562人とのこと。ただ実際は、この名鑑に載っていないような新人も多数おり、実数はもっと多いようですが。2000人前後でしょうか?

声優専門の専門学校などができ、供給過多になっているのでしょうね。そこの講師のコネで卒業間近に、通行人Aとか村人Bみたいな役でデビューさせ、プロデビューさせてやったという体裁を整える……などという話を、20年以上前に聞いた記憶はありますが。今は知りません。でもその話を聞いた頃から、20年ほどでさらに声優の数は4倍に。それは供給過多になるでしょうね、としか。芸能事務所などが、タレントを声優にする面もあるでしょうし。

供給過多で、買い手市場の面もあるでしょうけれど。ギャランティーが上がらないのは、払えるけれど払っていないのか、そもそも無い袖は振れないのか、そこを分けて考えるべきでしょう。これはアニメーター、とくに動画マンの安いギャランティに関してもそうで。アニメーターはブラック商売の代名詞のようになっていますが、20代を乗り越えれば30代以降はそこまでひどい平均収入ではないのが、分かっています。プロ野球の育成選手と一軍レギュラーの年俸が違うのは、当たり前の話ですから。カビの生えた共産主義思想的な発想で、批判するのも違うと思っています。

■コンテンツビジネス■

昔教えていた、漫画とアニメーションの専門学校での話を、ちょっとしましょうか。そこに来ていた中国人留学生、30代の半ばで、高校出たての他の留学生よりも明らかに歳がいっていたのですが。その女性、英語とフランス語がペラペラで、日本語は勉強中。というかもともとプロデューサーで、コンテンツビジネスということで日本とアメリカに留学して、アニメの現場を学んでいたのでした。

『カンフーパンダ』を見て、中国共産党のお偉いさんが「なぜ我が国でこのような作品が作れないのか」と嘆いてから10年以上。中国では映画館が毎日オープンし、コンテンツビジネスの重要性を理解しています。確かに表現規制の問題もありますが、本当に優れたクリエイターは規制の裏をかいて、権力者に気付かせませんから。かの『無法松の一生』だって、大林宣彦監督によれば規制があった戦前版の方が、規制の無くなった戦後版より心に響いたとか。

中国は日本を反面教師として、アメリカのディズニーやドリームワークスやピクサーなどを参考に、大きなコンテンツビジネスとして映画やアニメを捉えています。でも日本の政治家とか文化人や学舎の主流派は、漫画やアニメを子供向けのレベルの低いものだといまだに思っています。実際には、映画などのコンテンツビジネスは対米貿易赤字が莫大で、漫画やアニメがなんとかそれを取り戻しているという状況なのに。

■哲学なき日本の軽さ■

昨年の国内コミック市場は6759億円、2020年のアニメ市場は2兆5000億円。そりゃあ自動車産業や住宅不動産などと比較すれば小さいかもしれませんが、バカにできない市場を形成しています。西村博之氏などは、古文漢文は教師の雇用のためだけにあるなどと、寝言を言っていますが。古典文学の教養が、紫式部と清少納言から樋口一葉などを経由して、萩尾望都先生や吾峠呼世晴先生などに受け継がれているという視点が、まるでない。そういう連続性が、文化を支えているのです。

世界のIT技術者に関して言えば、インドが人材の一大供給地なのですが。これはインドがもともと0の概念を発見し、二桁の九九があるなど数学が強い文化があり。仏教などでも瞑想を重視するなど、理論的に深く考察を重ねる文化が、背景にあります。仏教哲学の深奥さなど、自分などはかじった程度ですが、それでも驚かされます。ギリシャ哲学などと比較しても、全く別の体系でありながら深いです。中観論や唯識論など、西洋の心理学や大脳生理学を数百年も先取りしていますし。

日本でも近年、化学や医学でノーベル賞を受賞する科学者が増えていきましたが、日本の歴史を学べば、縄文時代の土器や石器の昔から、化学的な素材研究の強さがあり。室町時代から医学の研究が盛んなのが分かります。法学部ならば、過去の法律や条文、判決文などには古文漢文の知識が必須。要するに西村博之氏は、一知半解の薄っぺらい知識で、物を言ってるに過ぎないのです。孫氏の兵法にしても六韜三略にしても、現代に生きる知見が豊富です。

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