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ジーンズと出版の話

◉YouTubeの『山田五郎 オトナの教養講座』が人気で登録者30万人の山田五郎さんですが。自分は出版業界人として、その広範な知識と多芸多趣味な部分、バランスの取れた見識を尊敬していまして。TBSラジオ『荒川強啓デイキャッチ』のレギュラーをされていた頃は、毎週楽しみに拝聴していました。出演されていたデイキャッチャーズボイスのコーナーは、音源をポッドキャストで落としてあるので、今でも時々聞き返します。

その2013年12月5日の回で、国産ジーンズメーカーEDWINが2013年11月26日、事業再生実務家協会に対し事業再生ADR手続きの利用を申請したことに絡んで、なぜ一時はLEEとWranglerなどアメリカのメーカーさえ傘下に収めたEDWINが、そんな事になったのか、語っておられました。さすが講談社のホットドッグ・プレスの元編集長、ファッションに詳しいです。2011年5月2日の、BOBSONの民事再生法の適用申請などとも絡めて、語っておられるのですが。これがまんま、電子書籍時代の出版業界を考察する材料になる内容でして。

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■カウンターカルチャーとジーンズ■

EDWINの場合は、投資の失敗による粉飾決算が理由で、BOBSONとは、ちょっと違うのですが。それでも、国産ジーンズメーカーの苦境という点では大きなくくりとして同じ。そもそもジーンズは、アメリカのゴールドラッシュの時に生まれた、馬車の幌を転用しビスで止めた頑丈な作業着で、オシャレなファッションの対局にありました。逆にその点が、60-70年代はヒッピーなど反体制やカウンターカルチャーに好まれ、自由の象徴として若者のファッションになった、と山田さんの指摘。

Appleコンピュータの創業者の一人であるスティーブ・ジョブズは、タートルネックのセーターとジーンズがトレードマークでしたが、これは「ワイシャツにネクタイを締めて背広を着るような社畜には、俺はならないぞ」というヒッピーの意思表示の意味もりました。名作『理由なき反抗』のジェームズ・ディーンもLEEのジーンズを愛用していました。敗戦後に日本に入ってきたジーンズも、最初はGIが履いてるズボンとしてジーパンと呼ばれ、やがて若者文化を象徴するマスト・アイテムとして普及しました。

■ジーンズメーカーは寅壱だった?■

それが大手衣料メーカーになった躍進の理由は? ジーンズは本来が、メインカルチャーの衣類ではなく、ある意味で大衆文化(ローカルチャー)の文化を象徴するファッションですから。当時の背広とかポロシャツなどを作っていた大手ファッションメーカーは、手を出さないアイテムでした。このため、岡山で作業着や制服を作っていたメーカーが、ジーンズを制作することになります。BOBSONもBIG JOHNも、岡山のメーカーなのは偶然ではないです。

現代でいえば、ガテン系の作業着を作っている寅壱などが、作り始めたようなイメージでしょうか? 山田さんによればEDWINなども元々は、中古衣料を扱っていた会社だそうで。このためジーンズメーカーは、デパートやファッション・ショップといった、従来の衣類の販売ルートではなく、独自の販売ルートを開拓する必要がありました。そこで、ジーンズショップが誕生する訳です。ここらへんは、現在のWorkmanが楽天から撤退し、自社サイトで直販するのにも、ちょっと似ていますかね。

■ジーンズショップの成功とクビキ■

ジーンズショップを開拓するにあたって、日本のジーンズメーカーは、ショップが商品を返品できる、買取制度ではない形の販売網を構築しました。当noteの出版業界関係の記事を読んでる方には、ピンとくるでしょうけれども。これって、売れなかった本を本屋が取次会社に返品できる、出版社の再販制度とほぼ同じです。ショップ側としては、ジーンズを買い取る必要がないのですから、リスクがぐっと減らせる。結果、ジーンズショップは80年代から90年代に全盛期を迎えるのですが……。

ジーンズが若者だけでなく、大人も子供も着る一般的なファッションとして浸透するにしたがって、かつてはジーンズを作らなかったメーカーや、扱わなかったショップでも流通するようになります。これで、ジーンズショップのアドバンテージが崩れたのです。ジーンズショップは、高級品やビンテージものでは高級ショップやセレクトショップに劣り、安い衣料としてはユニクロなどの安価なファストファッションのショップに負けるという、上からと下からと削られる状況になってしまった訳です。

■成功体験に固執すると失敗する?■

90年代には、安くて頑丈な大衆の衣類であったはずのジーンズが、ビンテージものなら10万円を超える価格で取引され、この時点ですでに大衆だけのローカルチャーの文化でも、反体制のファッションでも無くなってしまっていた……と。ジーンズショップの衰退が始まります。その結果、ジーンズメーカーもまた衰退していくのは必然。そして、国産ジーンズメーカーは、なまじ強固で独占的な販売網を構築していたがゆえに、時代の変化に対応できなくなってしまっていたと、山田五郎さんの分析。

ジーンズが売れなくなったわけでも、高級品に転換できなかったわけでもない。ジーンズショップ全盛期に構築された販売網、これを捨てきれなかったために国産ジーンズメーカーは衰退したと。出版社と取次会社が本の製作と販売を独占した結果、Amazonという黒船の出現によって、その独占してきた流通経路が破壊され、迷走していたこの10年の動きに、似ていませんか? そして出版社は丸紅などと組んで専門店・高級店の開拓や、少部数をファストファッション的なAmazonに任せる動きがあります。

■高級店・大衆店・専門店の在り方■

日本の出版と流通は、出版社と取次会社が握っていて、これはこれでクオリティの保証になっていたのですが。でも、クオリティの保証は何も、出版社が担っているわけではなく。端的に言ってしまえば、担当編集者と校閲マンが担っています。ここをアウトソーシングできれば、何も出版社から・取次会社を通して・書店に置く必要はないわけです。電子書籍で販売し、紙の本は特定の専門ショップだけで、充分な利益を出している同人作家もいます。

例えば、京都アニメーションは京アニショップと提携した書店のみで、自社のKAエステマ文庫の印刷書籍を販売していますし、富山のP.A.WORKSは『クロムクロ』の電子書籍を自社で販売しています。他業種が出版社や専門店を兼ねる時代に、とっくに入っています。Amazonは電子書籍を今後、一冊からオンデマンドで印刷書籍にして、販売する動きもあります。ジーンズショップの時代から、専門店や大衆店の時代に入ったように、出版もそうなりつつあります。

■これからの個人出版は何処へ行く■

思うに、これから個人出版を始める人は、ジーンズ業界の失敗と成功に学ぶなら、先ずは高級路線を目指すべきでしょうね。例えば、DMM同人とか、やはりエロ系は強くて、ページ数の割には単価が高く、印税だけで1億円を超えるであろう対価を得ているグループが、いくつか見られます。別にエロをやれと言ってるわけではなく、数は少なくても金を出す人がいるニッチを見つけられれば、そこが武器になると。

・10000人から1円もらう商売
・1000人から10円をもらう商売
・100人から100円をもらう商売
・10人から1000円をもらう商売
・1人から10000円をもらう商売

これらは同じなんですよね、売上的には。どれが上とかしたとかではなく、自分が描きたいものが、それに該当するか否か、それを見極めるべきです。その上で、何が出来るかを考えていけば、自ずと作家自身の選択すべき方向は見えそうですが。もちろん、専業作家になる・兼業作家になる、いろんな選択肢があると思いますし、個人の資質や環境によって、千差万別でしょう。自分もまた、試行錯誤の最中です。ペット物など、ニッチを狙えるジャンルだと思うんですけどねぇ。

■オマケとして■

既得権益や過去の栄光にしがみつくと言う点では、体制側が槍玉に挙げられがちですが、実際はカウンターカルチャーの側も、この既得権益に執着しているのではないか……と、山田五郎さんは指摘しています。放送は2013年12月ですが、山田五郎さんは特定秘密保護法案に対する反対運動も、反体制側の司法の60年代70年代から相変わらずのデモに頼る手法に、疑義を呈していいます。8年近く前の時点でのにこの指摘は、山田さんの慧眼ぶりを示しますね。

特に参院選の野党共闘の大敗ぶりを見ると。あるいは、誰に教わったのか、ダンボールに手書きのプラカード作って、抗議をする若者とかを、マスコミが聞きとして報じる姿を見ると。こんなすごい番組を潰した、TBSラジオの目の曇り具合も併せて。自分にはあれ、荻上チキ氏に帯番組を持たせるための、ワンクッションにしか見えませんでしたけどね。まぁ、メンツを見ると左寄りのタレントが多く、本気であれで勝てると思ってた可能性がありますが。だとしたら、もっとマヌケですが。野党共闘で勝てるつもりだった、山口二郎法政大学教授と同じ。

実際に山田さんが指摘されたこの辺りから、反体制側の人間による昔ながらのオタクコンテンツ批判や炎上が、表現規制反対派によって反論・反撃されるようになります。人工知能学会会誌の表紙批判が2013年、スバルCM批判が2014年、キズナアイの問題が2018年。2014年末には、ヘイトスピーチを行う団体に対するカウンター活動と呼ばれる運動の中で、大学院生リンチ事件が発生しています。衆院選の大敗で、ツイフェミ内の内ゲバのような動きを見ると、2021年はターニングポイントだったと、後から思えそうです。

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