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漫画界の原稿料が上がらない問題

◉よしもとよしとも先生が、こんなツイートをされていらっしゃいました。個人的にはファンの先生なのですが。これ、後半は部分的に同意です。自分は基本的に作品には対価が、健全な利益が必要だと思うからです。ただし、作品によってはノーギャラでも描きたい作品が、作家にはありますからね。実際、ガロは原稿料は出ませんでしたが、それでも描きたい・発表したい作家がいましたので。

前半は、ちょっと違うなと思います。有料ソフトと無料ソフトで、優先されるべきは自分の使いやすさとかだと思いますし。そもそも、こういう発言で「なら経費はかかっていないから、原稿料は上げる必要が無い」なんて思う編集者がいるとしたらアホですし。それ以上に、原稿料が上がらない理由は、出版業界や日本国の構造的な問題であって、個人に帰するのは難しいかな、と思うからです。

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■クロヨンにトーゴーサンピン■

まず、昭和50年代から原稿料の相場は、大卒初任給に比較して上がり幅が低いという問題があります。原稿料はオープンにはされていませんので、元出版社勤務の編集者として、作家さんやら先輩編集者に聞いた、個人的な感触に過ぎません。でも、週刊少年誌の売れっ子作家の原稿料とか、40年前とあまり変わっていません。むしろ、平成不況と出版不況が続いて、ジワジワと下がっています。

またその頃から、クロヨンだトーゴーサンピンと、マスコミが自営業を脱税犯扱いしてきた歴史があります。クロヨンとは黒部第四ダムの略称……ではなく、サラリーマンなど給与所得者は所得の9割を税務署に補足されているけれど、自営業者は6割しか補足されず、農林水産業者は4割しか補足されていない、という意味です。トーゴーサンピンはサラリーマン10割・自営業者5割・農林水産業者3割・政治家1割、という意味です。

■給与所得者の増加と自営業主■

なら、オマエラもリスク取って自営業者なり農林水産業者になれよと思うのですが、自分自身がサラリーマンである新聞記者・テレビマン・ラジオマンとかは、不公平だズルいという意見しか書きません。ローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンが世の中の基本でしょうに。でも、政府も源泉徴収しやすいサラリーマンを優遇してきました。

結果、上のリンク『主要労働統計表 - 厚生労働省』のPDFによれば、自営業主は1970年には285万人いたのに、2007年には155万人に減っています。また、国税庁によれば1982年(昭和57年)には3399.5万人だった給与所得者数は、1997年には4526.3万人に、2018年(平成30年)には5911.4人に増えました。労働者人口自体も増えているのですが、寄らば大樹の陰。自営する人間は54%に減り、給与所得者は1.73倍以上に増えたわけで。

■漫画は物価の優等生なのか?■

さて、1970年の漫画の新書版単行本は、当時の広告を見ると岩波新書より高いんですね。下記リンク『年次統計 新書価格』によれば、1970年の岩波新書は150円で、1990年代半ばまで500円前後で横ばいだったものの、2013年には797円弱まで上がっています。その頃の漫画の新書判は240円か250円で、100円ぐらい高いんです。これが1973年の第一次オイルショック以降には、320円に値上がり。

自分が小学生だった1980年には、単行本は360円がすでに主流で、当時としては長期連載の『男組(1974-1979年)』がまだこの値段、320円だったんですよね。この後、消費税3%の導入で390円前後に、5%へのアップで420円前後へと上昇。今はAmazonでジャンプコミックスは484円ですね。で、岩波新書はばらつきはあるけれど、900-1200円ぐらいが多い印象です。

■物価変動と本の単価と原稿料■

1970年から2020年の50年間で岩波新書は5倍から8倍の値段になってるのに、漫画は2倍になっていないんですね。もちろん、ぐんぐん伸びた漫画市場と、どんどん売れなくなった新書市場と、構造的な差はあります。しかし、大卒初任給は1970年には3万9900円だったのが、2003年には20万円を突破し、平成不況で伸び悩んではいますが、だいたいその前後を維持しています。

大卒初任給が5倍に(ついでに一人あたりのGDPは8倍に)伸びてるのに、漫画の単行本は2倍にすらなっていない。こうやって見ると、本の価格を抑え過ぎたのも原稿料が上がらない一因に思えます。オイルショックの値上げで、ある種の値上げ恐怖症が生まれたのだろうと推測します。西村繁男編集長の『さらば、わが青春の『少年ジャンプ』』にも、ジャンプが他社よりページを薄くしてでも10円安くして、業界トップに登りつめた故事が書かれていますが。

■漫画は安くないと売れない?■

漫画は安くないと売れない、という思い込みとフォビアが、そもそもあったのでしょう。こういう部分を無視して無料アプリ使用を批判しても、意味があるか疑問です。元宝島社の編集者で現在は映画評論家の某氏が、講談社の社員の平均年収が1500万円と、以前にバラしていましたが。漫画家の原稿料も印税率も上がらないのに、社員の給料だけ上がっていては、そりゃあ歪みは出ます。

ただ、ここはもう変わらざるを得ないでしょうね。漫画家も同人誌や個人出版で、自分の利益を確保する。そうなると、出版社的には「育ててやったのに、売れたら自分で商売始めやがった」とか、不平不満が出るでしょうけれど。それは、MLBに挑戦するプロ野球選手に文句を言う日本の球団関係者と同じ。それが嫌なら、自分でリスク背負うより妥協できるメリットを出しなさいよという話。原稿料か印税かサービスかは、個々で考えて。

実際、出版社を通さずにヒットを出す作家、エロ同人誌の片隅でジャンプで100万部ヒットした印税より多くを稼ぐ同人作家が、出始めています。今は数が少ないと、馬鹿にしていても意味がないです。ウチも、実験的に石原苑子先生の『祖母から聞いた不思議な話』を電子書籍で出してみたら、Kindle Unlimited入りしたら、電子書籍総合ランキングで『呪術廻戦』や『宇崎ちゃんは遊びたい!』などのアニメ化作品に混じって、31位になりましたし。

ウチの講座は『こぐまのケーキ屋さん』のカメントツ先生もOBですし、結果的に出版社や雑誌を通さずヒットする可能性を、証明しちゃったのですが。でもこれは、やはり時代の必然だと思います。個人が自己責任で作品を世に問い、個人で出版・流通させられる時代です。それも、世界を相手に。コチラのnoteやコラムも、参考になる……人もいるでしょう。興味があれば、お読みください。

どっとはらい( ´ ▽ ` )ノ

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