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バズっても売れない本の理由

◉2018年の、こんなツイートが偶然に流れてきました。田中圭一先生は「もうSNSマンガは飽和状態で、レッドオーシャンに入っているのでは?」と危惧を表明されていたわけですが。まだコロナ禍も起きず、2020年の電子書籍の売上爆上がりで、1995年の売り上げを超えるような伸びを見せるとは、予想もできなかった4年前。この間、本当にいろいろなことがありました。マンガ業界も、ウェブトゥーンなど新たな潮流が。当時のツイートに加筆修正して、イロイロと思うことを書いてみます。全部で6000文字近いので、かなり読み応えはあります。

なんとなく、今年に入ってから「SNSで大人気のマンガを紙の単行本にしても思ったより売れていない」状況とか「Twitterで毎回バズるマンガを描いている人が単行本を出しても思ったより売れない」状況が目立ってきている気がする。もうSNSマンガは飽和状態で、レッドオーシャンに入っているのでは?

https://twitter.com/keiichisennsei/status/1058533524754452480?s=20&t=1oatu-gKuq-npykhDhglUA

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■目先の受け狙い■

とても重要な指摘ですね。 出版業界は1995年前後をピークに、漫画の雑誌数も部数もどんどん落ちており、編集者もわかりやすい「売れる根拠」がほしい時代になっていました。 SNSの時代は、バズったというのが売れる根拠に思えるのでしょうが、要するにそれは編集者の責任転嫁であり、編集者や出版社の自信のなさのあらわれなのでしょう。自分が良いと思ったから、売れるようにしようという、そういう気概とか覚悟がない編集が、増えてるのでしょう。田中先生の疑問に対して、別の方向から考察(の・ようなもの)を。

テレビではある時期から、毎分視聴率なるものが導入されるようになりました。1分ごとの分刻みの視聴率が確認できるようになり、「つまらないと視聴者は○分でチャンネルを変える」なんて分析が、まことしやかに語られました。 精密な研究では、そうでもないのに……。結果、お笑い番組ではわかりやすい一発ギャグがあるタレントが持て囃され、そして短期間で消費されていきました。SNSでのバズった作品というのは、この一発ギャグみたいなモノではないかと、自分は思っています。それは言い換えると、あっという間に消費され、忘れられる作品です。

かつて、島田紳助さんが駆け出しの頃、ライバルとなる先輩漫才師たちを徹底的に分析したそうですが。そのとき、ある先輩漫才師を「わかりやすい、飽きられやすい」と評したとか。わかりやすいというのは、逆に言えば底が浅い。刹那に消費して終わりで、リピーターにはなりづらい。この分析は的確で、大人気だったその漫才コンビはテレビでの仕事がどんどん減っていったとか。良くも悪くも、紳助さんはその後何十年も、一線で活躍されましたからね。

■呼び屋と聞かせ屋■

単行本を買ってまで手元に置きたい作品になれるのは、一握りでしょう。それでは、一発ギャグで消える芸人やバズったけれど売れない漫画家と、売れる芸人や漫画家の差は、いったいどこからくるのでしょう? 笑点の司会をされている春風亭昇太師の師匠で、私立春風高校の校長先生でもあられた春風亭柳昇師匠が、興味深い指摘をされています。芸人には「呼び屋」「聞かせ屋」がいる、と。

呼び屋というのは、メディアで話題になり、寄席にお客さんを呼び込む芸人。綾小路きみまろさんがブレイクしたとき、新宿末廣亭に登場するとき、行列ができました。そうやって寄席に来た人に、全く知らなかったけど面白い芸人がいると気付かせ、寄席へのリピーターにしてしまうのが、聞かせ屋。念のために書いておきますが、どちらが偉いの話ではなく、どちらも大事な存在です。 また、呼び屋と聞かせ屋はゼロイチでどちらかにパックリ分かれるようなモノではなく、両方の要素を持つ人も珍しくはありません。

また綾小路きみまろさんは、若き日のツービートが共演する時、先にきみまろさんが上がると、ジジイ死ねババア死ねの毒舌芸が中和されてしまうので、順番を変えてもらっていたと、『誰でもピカソ』で語っておられましたね。それだけの実力者でした。そもそも、五十路を過ぎてブレイクしたというのが間違いで、もともとそのトーク力で、演歌歌手のコンサートの前説や司会、キャバレー回りの営業で大人気で、早くに白亜の大豪邸を建てています。あくまでも、テレビで知られたのが遅かっただけ。一知半解する人のために、書いておきます。

■リピーターを呼ぶ芸■

例えば博多華丸・大吉は、華丸がモノマネという分かり易い呼び屋の芸を持ち、大吉は淡々と語り突っ込む役割で、聞かせ屋の芸を持っています。一発ギャグや奇声を発する訳でなく、語りで楽しませる芸は、解りやすさは乏しいですが、そのぶんリピーターを生む深みがあります。呼び屋と聞かせ屋は両輪です。落語家によっては「間口と奥行き」という言い方をする方もいらっしゃいますね。間口―入り口の広さがあると、多くのファンを呼び込めますが、すぐに行き止まりでは出ていってしまいます。分け入って入る

残念ながら、一発ギャグを繋げば視聴率が落ちないだろうなんて浅はかな考えと同じで、バズっただけでは単行本は売れません。でも、そういう薄っぺらい考えの編集者は多いです。自分が人事異動で去るまで受ければ、その後は野となれ山となれで、作家なんて知ったことじゃないんでしょうけれど。呼び屋と聞かせ屋、両方大事な由縁です。この、リピーターを呼ぶ芸については、ある江戸時代の人物の逸話を元に、講座でも一項を設けて語っていますが。飯の種なのでそこは割愛ですが。ひとつヒントを言えば、客の求めるものだけ提供しても、ダメということです意外性がないと。

例えば、フジテレビでやっていたドリフ大爆笑。ガキの頃は雷様のコントが、ちっとも面白いと思えなかたのですが。今見ると、もう高木ブーさんの味わいとか、いかりや長介さんのトークの上手さとか、今見ると楽しくて楽しくて。ようやく、自分がそういう芸がわかるレベルになったということなんですよね。これは同じく小学校時代、お笑いスター誕生のイッセー尾形さんとか、ちっとも面白くなくて。小学生の自分らは、なぜ勝ち抜くんだと不満タラタラでしたが。今見ると、その一人芸の凄さに面白くて面白くて。こういうのが奥行きであり、聞かせ屋なんでしょうね。

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ということで、無料はここまで。以下は有料です。といっても無料部分でも考えるヒントにはなったでしょうし、有料部分も大した内容でもないので、興味がある人だけどうぞm(_ _)m

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