常温常圧超伝導? LK-99の熱狂
◉一部界隈では話題になっていたのですが、韓国の研究者が常温常圧での超電導を実現したという論文を発表。騒ぎになっています。常温常圧という言い方は、2019年にドイツのマックス・プランク研究所がランタン水素化物が170 GPa(170万気圧)の超高圧下ならば、250 K(摂氏−23度)で超伝導状態になることを発見、科学雑誌『Nature』で報告したためです。少なくとも高圧下での超伝導状態は可能性が出てきたため、常温常圧での超伝導という言い方になったようですね。
ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、ノーベル賞のレリーフですかね。
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■常温常圧は無理?■
今のところ、情報は交錯していて。韓国超伝導低温学会は、LK-99を常温超伝導体ではないと結論付けたという情報も入っています。ただ、これも常温ではないが、けっこう画期的な素材の可能性はあると、中を入れる人もいて。個人的には、熱量保存の法則から、常温常圧での超伝導状態は、難しいと思います。ただ、現在のところ135 K(摂氏-138.15度)の超電導物質が、もっと高い温度で安定的に利用できるようになれば、利便性はグッと上がりますから。窒素の沸点は77K(摂氏-196.15度)ですから、液体窒素で冷却できる超伝導物質なら、リニア新幹線も運用コストの安定とか、かなり期待できますし。
個人的には、けっこう期待しています。Natureやサイエンスと言った、超一流の査読付きの科学論文誌ではなく、査読前論文の掲載サイトarXivに発表され、多くの研究者が追試を始めて、部分的には効果があるかもという結果も出て、がぜん盛り上がっている。個人的には、Natureの権威が揺らぐとは思いませんが、スピード感という意味で興味深いです。Natureやサイエンスは査読に時間がかかりますし、それが信頼性を担保しているのですが。こうやって査読前の論文が世界で共有され、追試される。ネットの集合知を見る思いです。
■日本でも高温超伝導で新発見■
この研究とは別に、東京大学・東京理科大学・理化学研究所という日本を代表する研究機関が、銅酸化物系の高温超伝導体で、旧来の説を覆す測定結果が出たという、興味深い研究が。こちらの研究論文は、Nature Communications誌に発表されたとのこと。査読論文ですから、これはこれですごい研究なんですけどね。銅酸化物超伝導体は、1986年4月にジョージ・ベドノルツとアレックス・ミューラーによりが発表されたそうですから、けっこう早くに発見されていたのですが。すでに、線材化が成功するぐらい、研究されていた素材の、常識が覆るってのも、科学の醍醐味ですね。
興味深いですね。もちろん、科学の素人である自分には、詳しいことはわかりませんが。核融合の研究でも活躍中のレーザーが、こちらでは電子構造の精密測定に用いられているわけです。科学というのはもう、一人の天才科学者が一気に時計の針を進めるのではなく、他の研究分野や測定方法など、総合的に組み合わされることによって、進んでいくんですね。数学回の大問題であったミレニアム懸賞問題のひとつ『ポアンカレ予想』を、グリゴリー・ペレルマンは微分幾何学や物理学的アプローチで解決したのですが。ペレルマンが天才なのは疑いないですが、数学の位相幾何学ではなく、物理学のアプローチというのが、学際的ですね。
■実用化は先だけど■
現実的には、理論が一般にも検証され、再現性が高まって、そこから興行的に応用できるのは、ずいぶん先ですからね。例えば、カーナビ。あれって、実はアインシュタインの相対性理論が正しいことを前提として、生まれたシステムなんですよね。特殊相対性理論の発表が1905年で、一般相対性理論が1915年から16年にかけて。Global Positioning System=GPS(全地球測位システム)が完成したのが1993年ですから、理論から応用に至るまで、ライト兄弟のライトフライヤーから始まる航空機の研究からジェットエンジン、V2ロケットやスプートニクの研究とかを経て、ようやく結実したわけで。
そう考えれば、常温常圧超電導とか、夢としては期待したいですが、実用化となると、難しいでしょうね。最近にわかに騒がれだした核融合に関しても、30年後に実現すればいいな、それより早ければもっといいな、ぐらいの認識が大事なんでしょう。フォン・ブラウン博士は、自分自身が月に行くという夢は、叶えられませんでした。でも、フォン・ブラウン博士の研究があって、アポロ計画が成功し、宇宙開発が進み、予想もしなかった人工衛星とGPSによるカーナビが、生まれたわけで。科学はそうやって、予想もつかない面白さを自分たちに見せてくれるということで。
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