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常温常圧超伝導? LK-99の熱狂

◉一部界隈では話題になっていたのですが、韓国の研究者が常温常圧での超電導を実現したという論文を発表。騒ぎになっています。常温常圧という言い方は、2019年にドイツのマックス・プランク研究所がランタン水素化物が170 GPa(170万気圧)の超高圧下ならば、250 K(摂氏−23度)で超伝導状態になることを発見、科学雑誌『Nature』で報告したためです。少なくとも高圧下での超伝導状態は可能性が出てきたため、常温常圧での超伝導という言い方になったようですね。

【常温常圧の超伝導を実現!? 謎の物質「LK-99」の再現に“素人”まで参戦、過熱するDIY競争の舞台裏】WIRED

驚きの“発見”に全世界が注目

ソーシャルニュースサイト「Hacker News」に、「LK-99」という超伝導体である可能性を持つ物質に関する投稿があったのは2023年7月のことである。その投稿には、査読前論文の掲載サイト「arXiv(アーカイヴ)」に掲載された査読前論文へのリンクが張られていた。

https://wired.jp/article/inside-the-diy-race-to-replicate-lk-99/

ヘッダーはnoteのフォトギャラリーより、ノーベル賞のレリーフですかね。

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■常温常圧は無理?■

今のところ、情報は交錯していて。韓国超伝導低温学会は、LK-99を常温超伝導体ではないと結論付けたという情報も入っています。ただ、これも常温ではないが、けっこう画期的な素材の可能性はあると、中を入れる人もいて。個人的には、熱量保存の法則から、常温常圧での超伝導状態は、難しいと思います。ただ、現在のところ135 K(摂氏-138.15度)の超電導物質が、もっと高い温度で安定的に利用できるようになれば、利便性はグッと上がりますから。窒素の沸点は77K(摂氏-196.15度)ですから、液体窒素で冷却できる超伝導物質なら、リニア新幹線も運用コストの安定とか、かなり期待できますし。

個人的には、けっこう期待しています。Natureやサイエンスと言った、超一流の査読付きの科学論文誌ではなく、査読前論文の掲載サイトarXivに発表され、多くの研究者が追試を始めて、部分的には効果があるかもという結果も出て、がぜん盛り上がっている。個人的には、Natureの権威が揺らぐとは思いませんが、スピード感という意味で興味深いです。Natureやサイエンスは査読に時間がかかりますし、それが信頼性を担保しているのですが。こうやって査読前の論文が世界で共有され、追試される。ネットの集合知を見る思いです。

■日本でも高温超伝導で新発見■

この研究とは別に、東京大学・東京理科大学・理化学研究所という日本を代表する研究機関が、銅酸化物系の高温超伝導体で、旧来の説を覆す測定結果が出たという、興味深い研究が。こちらの研究論文は、Nature Communications誌に発表されたとのこと。査読論文ですから、これはこれですごい研究なんですけどね。銅酸化物超伝導体は、1986年4月にジョージ・ベドノルツとアレックス・ミューラーによりが発表されたそうですから、けっこう早くに発見されていたのですが。すでに、線材化が成功するぐらい、研究されていた素材の、常識が覆るってのも、科学の醍醐味ですね。

【高温超伝導体における37年間の「常識」覆す測定結果=東大など】MIT Technology Review Japan

東京大学、東京理科大学、理化学研究所の共同研究チームは、銅酸化物(CuO2)高温超伝導体において、電荷が微少かつ均一に分布する乱れの無い極めて綺麗な結晶面を見い出し、その電荷の振る舞いを解明。これまで確立されたと考えられていた銅酸化物高温伝導体の電子相図が、CuO2面に乱れがある場合に特化したものであったことを明らかにした。

研究チームは今回、乱れのないきれいなCuO2結晶面を有する多層型銅酸化物高温超伝導体に着目。レーザー光電子分光を用いた電子構造の精密測定、および強い磁場を用いた量子振動測定の結果、注入される電荷が、反強磁性秩序が消える遙か手前の限りなく微量でも、金属的に自由に動き回れることを見い出した。

https://www.technologyreview.jp/n/2023/07/27/313441/

興味深いですね。もちろん、科学の素人である自分には、詳しいことはわかりませんが。核融合の研究でも活躍中のレーザーが、こちらでは電子構造の精密測定に用いられているわけです。科学というのはもう、一人の天才科学者が一気に時計の針を進めるのではなく、他の研究分野や測定方法など、総合的に組み合わされることによって、進んでいくんですね。数学回の大問題であったミレニアム懸賞問題のひとつ『ポアンカレ予想』を、グリゴリー・ペレルマンは微分幾何学や物理学的アプローチで解決したのですが。ペレルマンが天才なのは疑いないですが、数学の位相幾何学ではなく、物理学のアプローチというのが、学際的ですね。

■実用化は先だけど■

現実的には、理論が一般にも検証され、再現性が高まって、そこから興行的に応用できるのは、ずいぶん先ですからね。例えば、カーナビ。あれって、実はアインシュタインの相対性理論が正しいことを前提として、生まれたシステムなんですよね。特殊相対性理論の発表が1905年で、一般相対性理論が1915年から16年にかけて。Global Positioning System=GPS(全地球測位システム)が完成したのが1993年ですから、理論から応用に至るまで、ライト兄弟のライトフライヤーから始まる航空機の研究からジェットエンジン、V2ロケットやスプートニクの研究とかを経て、ようやく結実したわけで。

そう考えれば、常温常圧超電導とか、夢としては期待したいですが、実用化となると、難しいでしょうね。最近にわかに騒がれだした核融合に関しても、30年後に実現すればいいな、それより早ければもっといいな、ぐらいの認識が大事なんでしょう。フォン・ブラウン博士は、自分自身が月に行くという夢は、叶えられませんでした。でも、フォン・ブラウン博士の研究があって、アポロ計画が成功し、宇宙開発が進み、予想もしなかった人工衛星とGPSによるカーナビが、生まれたわけで。科学はそうやって、予想もつかない面白さを自分たちに見せてくれるということで。

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