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キャラクターが一人も出てこないのにちゃんと面白い物語があるなら、それはどんな物語なのか?

・1800字強+α


・私が中学の頃から、就寝前にたまにする妄想の一つに「もし、キャラクターが1人も出てこないのにちゃんと面白い物語があるなら、それはどんな物語なのか」という妄想がある。今なら、よく考えれば答えを出せる気がする。

 漫画で考えてみよう。まず確定なのは、連続したコマは基本的に時空間が連続している必要があるということだ。仮に1コマごとに全く別の場所、全く別の時間を描いていいなら、それでは文脈が作れず、画集になってしまう。文脈が通っていない画集は物語とは言えない。串の通っていない焼肉は串焼とは言えない。

 連続したコマは時空間が連続しているということは、そこにはカメラマンがいる。一人称視点は一人のカメラマンであるということは暗黙的に認めなければいけない。ただしそれは実体のない神視点のカメラマンであり、カメラマンは作中のオブジェクトに干渉したり、読者に語り掛けたりしてはいけないことにしよう。それならギリギリ「キャラクターが一人も出てこないのにちゃんと面白い物語」という前提条件には反していないだろう。

 面白さとはどう作るのか。個人的には、面白さ(それも、画的な面白さは除く)とは、脳の更新されさ(されさ?)のことであり、脳の更新を引き起こす描写には主に3つの類型があると思っている(しかしそれはまだ研究途中)。

 それは①共感性の描写、②意思決定→結果のセットの描写、③知識の描写の3つだ。それらは厳密には連続していて不可分だし、分類しようと思えばもっと細かく分類できるが。

 しかしそういった描写は、やはりキャラクターがいない空間で描くのは不可能に近い。しかし、「キャラクターがいたけど今はいない空間」で描くことはできるかもしれない。

 実際、考古学者や進化生物学者はそうやって物語を作っていることだろう。物言わぬ証拠品たちを時系列順に並べることで、昔の人が何をしていたのか、どの時代にどんな生き物が絶滅したのかなどを読み取ると、そこには存命のキャラクターがいなくても物語が見えて来る。

 Unpackingというゲームもそういう楽しみ方をするゲームだろう。プレイしたことないからわからんけど。

 それと同じで、その神視点のカメラマンが、例えば「殺人現場」「異常な宗教を持つ集落」「なぜか人のいない宇宙船」などを巡ることで、キャラクターがいないのに物語が見えて来るような、考古学的な面白さのある物語は作れそうだ。


 しかしここまで考えておいてなんだけど、そんな漫画を描いたとしても、作者も「証拠が自然にたくさん残るストーリー」を考えるのに疲れるし、読者も高い読解力を求められて頭が疲れ、目が滑る気がする。

 冒頭で「漫画で考えてみよう」と仮定したけど、小説の方が良い気がする。言語的説明に頼っても卑怯な感じがしないし、神視点の語り手がキャラクターとして認識されることはない。漫画だと、与えられた絵から意味ある情報を抜き出すという処理を読者がやらないといけないので疲れる。

 今、良いことに気がついて一人で感動しているのだけど、「変な家」に代表される雨穴さんのホラー作品の多くはかなりそれだ!

 語り手をキャラクターとしてノーカウントとして良いならいけそうだ。語り手は、残された断片的な情報を組み立てて、キャラクターのいない空間に物語を作って読者に聞かせる。これは面白くなりうる。変な家が面白いのだから。

・このあたりをひとまずの落としどころとしよう。


・中学の頃の自分への報告:君がたまに妄想している「もし、キャラクターが一人も出てこないのにちゃんと面白い物語があるなら、それはどんな物語なのか」という問いについては、「キャラクターが過去にいて、その痕跡が残っている」という前提を受けれて良いなら一つ納得できる案が出せたよ。ただ、「過去にもキャラクターは存在しない」という前提で案を出せと言われたら、案を思いつくまでに更に数十年の時間を要すると思う。それほど難しい。


・アイデアの断片:とある石ころに着眼するだけの物語

 その石ころに、マイクという名前をつけよう。マイクが以前に日の光を見たのは、2億8千万年前のことだった。なだらかな下流に身を任せ、転がり丸まったマイクは、緩やかに海へと流入した。海底から見える光は徐々に薄れてゆき、やがてマイクは砂利に埋もれながら、プレートの間へと沈んでいった。そのマイクが今はどういうわけか切り立った崖から頭を覗かせ、風雨に晒されている。
 それはもはや、マイクと呼んでいいのか微妙な代物であった。マイクは地中で強い圧力を受け、一度は他の砂利と固められて岩石の一部となったが、このときに自他の区別がつかなくなった。その岩石のどこからどこまでがマイクと呼んでいいものなのかわからない。やがて岩石は割れ、また小さな石ころとなったのだが、マイクのクはどこかへ分離し、元は別の石であるアリスのスが合体したままだった。これはスマイと呼称していいだろう。とにかく、スマイが以前に日の光を見たのは、2億8千万年前のことだった。
 スマイは僅かな窪みにハマっていて、たった10cmの坂を上ることさえできれば崖下まで一直線に落ちれるという瀬戸際にいるが、当然ながら石ころなので坂を上ろうという意志はない。こういうのを局所最適解という。

・やはり生きたキャラクターがいないと意思決定が発生しないから、ずっと「だから何?」と言われたら終わりの文章だ。レトリックとか豆知識とか類似性の指摘とかで面白さをごまかすくらいしか改善案が思いつかない。が、それは漫画で例えるなら「絵を上手くすることで面白みを作る」くらい本質的でないアプローチだ。



・皆さんも、何か思いついたら教えてください。物語に依存しない面白さ(画的に面白い、リズムが面白い、メタ的に面白い(この作者がこの媒体で書いてるから面白い)など)のみが面白さである場合、却下です。

・おわり

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