ゆるコンピュータ科学ラジオなど 感想

・3100字弱


・オブジェクト指向は、世界を写実的に描く営み。ルネサンスと同じ。【プログラミングパラダイム・シフト3】#66

・やはり「わかりやすく説明している人」を見ることによってしか出ない脳汁があるよな。私はオブジェクト指向については体で理解しているつもりだけど、それはそうとオブジェクト指向について説明している動画を見るのは面白い。「自分はここまでわかりやすく、そして興味深い説明はできないなぁ」という感動がある。基本的に「難易度が高いことをしている人」全般って面白いので、説明能力が異様に高い人を見たときの面白さは、大道芸人を見た時の面白さと近いのかもしれない。

・説明のアプローチも上手い。パラダイムシフトって名前も意味もかっこいいから、パラダイムシフトの話だという表題だけで米が進む。

 私はもともと「学識を説明するのに、歴史から説明する必要はないだろ」と思っていた。例えば線形代数の説明をするのに「どういう経緯で線形代数が生まれたのか」という説明までしてしまうとノイズになるだろ。そしてそれは全ての学識においてそうだろ。と思っていた。

 でもこのラジオを聴いているうちに、やはり歴史から説明した方が興味の引かれ度合いが全然違うなと思うようになった。

・実際、私が線形代数を習った時の先生は、それが何に使えるかを全く話さない先生だったので、テストが終わってからは頭から抜け落ちてしまって、いま線形代数の問題を出されても解けない。

 しかし、もし先生が「昔はこういう困難な問題があって、こういう需要がありました。その問題をスマートに解決したのがトルコ人の考案した線形代数なのです」という具合に、その学識が存在しなくて困っていた時代の説明から入っていたら、私の興味もめちゃめちゃ引かれていたと思う。


 まあでも数学に限ってはそういう説明が難しいか……

 ある程度数学のできるプログラマの先生や先輩は、口を揃えて「数学は何の役に立つのかの説明が難しく、色々に使えるとしか言いようがない。何かを解決したいときに、何の知識を必要とするかというのは、対象の知識を知っていないとわからない。言い換えるなら、必要に応じて知識を身に着けるというのが難しく、既に知っている知識から問題を解決するという逆引きしかできない。だから、数学は理由がわからなくても学ぶと良い」というような旨の話をする印象がある。

 全部そうかもな。上の意見を少し加工すれば「必要に応じて検索すればいいから、知識は要らない」系の持論を述べている人への反論が作れるな。



・オブジェクト指向の強烈な武器「ポリモーフィズム」で、ペンギンと鳩を同様に扱える【プログラミングパラダイム・シフト4】#67

・すげー。プログラミング言語に詳しい人と自然言語に詳しい人が会話することによって、色々な類似性を指摘しあっている。オタクなので、遠い2つの概念の類似性を指摘されるとニコニコしちゃう。

・やはり畑の違う人間同士が自分の専門分野について喋ると核融合が起きるよな。Connecting The Dotsだよな。

 Connecting The Dotsを知らない人はジョブズのスピーチについて調べて下さい。

当然ながら、私が大学にいる時点では、将来を見据えて、点と点を繋ぐことは不可能でした。しかし10年後に振り返ってみると、その繋がりは、とても、とてもハッキリと見えます。繰り返します。将来を見据えて点と点を繋ぐことはできません。後になって振り返ってみないことには、繋ぎようがないのです。

だから将来、どうにかして点と点が繋がると信じなければなりません。根性、運命、人生、カルマ(業)、何であれ信じなければないのです。点と点がいつか繋がると信じているからこそ、自分の心に正直になれるのです。たとえそれが常識外れの道だとしても、それが(他の人との)違いになるのです。

https://asu-yoku-laboratory.com/connecting-the-dots


・話が変わるけど、何かについて一線級の知識理解や技能を持つことでオンリーワンな人間になることは難しくても、複数の何かについて同時に知識理解を持つことでオンリーワンな人間になることはできると個人的に思っている。

 落語と音響学に詳しい人は、落語を面白くする方法を音響学的な観点から論じれるかもしれないし、掃除と統計に詳しい人は掃除の統計データを作れるかもしれないし、俳句とプログラミングに詳しい人は俳句生成アルゴリズムを組んでバズれるかもしれない。

 ジョブズの言ってることを拡大解釈すると、これは凡人でも安定してオンリーワンな人間になれる希望のメソッドだと個人的に思っている。

 漫画を描く以外に「もう一芸」を持っていない漫画家は、「本当の漫画」を生涯描けないと思う。



・他人のチャンネルはムチャクチャにしたほうがいい【コラボの感想】#218

 よくコメント欄でされる「大学でこんな講義があったら受けたかったのに」という旨のコメントに対する、「Youtubeで話している内容は、本の面白くてキャッチーな部分を抽出して喋っているから面白いのであって、大学の授業の代替にはならない」みたいな意見が両チャンネルで一致していて、本当にいいねと思った。


・量子コンピュータで学ぶ、真実の複雑さ。電気代が100万かかるのに省エネって何?【量子コンピュータ3】#58

真実はいつも複雑で、それほど面白くはない

・これはあまりにも名言すぎる。

・学問において、疑問に対して厳密な答えを出そうとしても、「ooは必ずxxである」という歯切れの良い答えでなく、「例外もあるので一概には言えません」「専門家の中でも意見が割れています」「たぶん正しいけどソースをすぐ出せません」のような歯切れの悪い答えしか出てこないことが往々にある。

 しかも全ての科学知識は間違っている可能性を孕んでいる。質量保存の法則でさえ厳密には間違っていたし、クォークは3つでなく6つだったし、電子は原子核の周りを回っているものではなく、原子核の周囲に確率的に分布しているものだ。今は暫定で正しいとされている科学知識は全て仮定である。電子があるという仮定を受け入れるとあらゆる事象の説明の辻褄が合うというだけだ。

・量子コンピュータ回では特にそれが顕著だった。物理学者ファインマンは「もしも量子力学を理解できたと思ったならば、それは量子力学を理解できていない証拠だ」と言ったらしいけど、まさにそんな感じの、雲を掴むような話が続く回だった。

・量子コンピュータが従来のコンピュータより優れている点は「ある種の問題においては速そうであると思われている」という歯切れの悪いことしか言えなくて、決して「Googleの論文によると、量子コンピュータは従来のコンピュータより1億倍速い!」といったわかりやすくて面白い理解の落としどころがあるわけではないらしい。

 有識者ほど歯切れが悪いことを言い、エンターテイナーほど歯切れの良いことを言うので、人々は有識者よりエンターテイナーに惹かれがちで、難儀な話だねと思っている。

 人々は理解の落としどころを探していると思う。ひろゆきや岡田斗司夫は、「歯切れの良い理解の落としどころ」をコンスタンスに提供してくれるから信者がつくのだと思う。彼らは科学よりも宗教に近い。科学は疑う所から始まるが、宗教は信じる所から始まる。

 信者に送るべき言葉はやはりこうだ。

真実はいつも複雑で、それほど面白くはない



・おわり

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