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ムのホワイトデー、その後

*内容

Twitter企画、アルカナ地方を旅する者たち【https://twitter.com/Arucana_poke/status/1140104902707798016?s=19 】交流作品です。

*おやつにカップケーキ:ソウゴくんにホワイトデーのお返しをもらったム。
*海辺をおさんぽ:散歩していたムは、一人の男性に出会います。
*いつか会えたら:男性のお話を聞くム。


*おやつにカップケーキ

ソウゴがムに手渡した、ポッチャマのぬいぐるみ。
それを手にして、ムはリゼットの元へ向かった。
「ママ」
「あら、ソウゴくん帰っちゃったの?」
「あのね、ムのクッキーおいしかったって。それでこれ、お礼って」
リゼットはムの手元のぬいぐるみと、メリーが持つカップケーキの箱を見た。

「せっかくだからそれ、おやつにいただきましょうか」
リゼットは温かい紅茶を淹れて、カップケーキを皿の上に置いた。
ムは椅子に座り、隣にポッチャマのぬいぐるみを座らせた。
そして、カップケーキを一口食べる。
「…おいしい」

ふわふわとした食感。
優しい甘さが口の中に広がってゆく。
「ソウゴ、がんばって作ってくれたのかなあ」
そう思うと嬉しくて、自然と笑みが溢れてしまう。

リゼットはそんなムの様子を見つめながら、紅茶で喉を潤した。

「ソウゴくん、ポッチャマのぬいぐるみもくれたの?」
「うん、青い色が、ムっぽいって思ったんだって」
カップケーキを食べ終えたムは、ポッチャマのぬいぐるみを再び抱き抱えた。

「そうねぇ、確かに青ってムの色だわ」
「青って、ム以外だと何の色?」
それからはじまる青探しゲーム。

空、海、ターコイズ、スーパーボール。
ブルーベリー、ソーダアイス、ネモフィラの花。

「色々、あるんだね」
そう言って、ムは笑う。
サファイアの瞳では、色はおろか物の形さえわからない。
わからないけど青色は、きっと素敵な色なのだと思った。


*海辺をおさんぽ

最近のムは、一人で散歩が出来るようになった。もちろん、メリーやラルはそばにいる。
防犯ブザーを持って、セキュリティも万全。
散歩コースは主に、バベルタウンの海辺。

いつものように歩いていると、かちゃんと何かが落ちる音がした。
前を歩く男性が落としたロケットだ。
「メリー」
メリーはロケットを拾い、男性へ渡した。
「おや、ありがとうメリープさん、お嬢さん方」
男性は穏やかに微笑み、礼を言った。

「それ、なあに?」
「これはね、写真を入れておけるものなんだ。娘の写真を持ち歩いているんだ」
そう言って男性は、ロケットを大事そうに鞄にしまった。

「今日はその写真の人、一緒に来たの?」
ムがそう訪ねると、男性は少し悲しそうな声で言った。
「娘とは…しばらく会っていないんだよ」
男性は、海の方を見つめる。
ムは、男性にある提案をした。

「おやつ、一緒にたべよ」


「…これが笛ラムネ。コームが教えてくれたの」
「へえ~懐かしいな。娘もこれ好きだったんだ」
ぴいぴい、笛になるラムネ。
食べると爽やかな味がする。
アスファルトに腰掛け、みんなで食べた。


*いつか会えたら

ラムネを食べ終えたメリーとラルは、波と追いかけっこを始めた。
その間ムは男性に、彼の娘の話を聞いていた。
「私たちは、あまり平和でない地方で暮らしていた。毎日事件が起こる…それでも、何処か他人事だった。ずっと平和に、妻と娘と暮らしていけると思っていたよ」

娘は科学者だった。ポケモンの遺伝子を研究する、ポケモンの科学さ。
研究者とも言い換えられるかな。

ある日、彼女の勤める研究所で、ポケモンが大暴れする事件があった。
悪い人が研究所に入り込んで、ポケモンがパニックを起こしたらしい。
その事件が起こってすぐ、娘から電話がかかってきた。

「大切なものを守るために遠くへ行く」
それだけ言って、娘は電話を切ってしまった。それが娘の声を聞いた最後。

しばらくして、事件が世間に知られて、うちにも取材が来たり、イタズラ電話がかかるようになった。
仕方ないから、電話番号を変えて引っ越しをしたよ。

「…大切な子がいなくなって、さびしいね」
「そうだね…でもあの子は、この広い世界のどこかで、きっと元気でいるんだ。私はそう、信じているよ」

「ムも、その子に会ってみたい。友だちになれるかな?」
ふわりと微笑みながら、ムがそう言うと、男性は涙声で答えた。
「きっと、なれるよ…。ありがとう」


「それじゃあ、さようならお嬢さん」
「うん、さようなら」
ムは男性に向かって手を振った。

「ム?」
後ろから、知っている声がする。
「キリヒコ、この前はホワイトデーありがとう」
キリヒコの方を向いて、ムが笑う。
「えっ?ああ、どういたしまして…あの人、誰?」
先ほどまでムが話していた男性はもう、後ろ姿が小さく見えるだけで、キリヒコは男性の顔を確認出来なかった。
「んと、メリーがあの人の落とし物を拾ってあげたの」


「…やあ、おはようデデンネ」
「ンネェ」
男性のコートのポケットから、デデンネが顔を出した。
くしくしと、眠そうに目を擦っている。
「ふふ、久々に小さい子と話したよ。何だか昔のリゼットを見ているようで懐かしかった」
デデンネは男性のその一言を聞いて泣き出した。
「泣かなくていいんだよ…」
そう言いながら男性は、優しくデデンネの頭を撫でる。
それでもデデンネの涙は、しばらく流れ続けた。


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