霧に包まれた町

・はじめに

Twitter企画、アルカナ地方を旅する者たち【https://twitter.com/Arucana_poke/status/1140104902707798016?s=19 】の交流作品です。

《内容》

・霧に包まれた町:トリスメタウンに来たチェルシー
・ごはん屋さん:フクさんとコウさんのお店に入る
・羨ましい:飴玉もらった
・思い出:昔を思い出すチェルシー
・何がなんでも:キテルグマとヒメグマの話
・悪い夢:夢見が悪い
・万が一:万が一の事も考えないといけないと思ったって話

《お知らせ》

今回、こちら【https://twitter.com/ortr_toru/status/1263734147698159616?s=19】
の作品の内容を少々含んでおりますが、都合により「ムが悪い科学者に連れ拐われたとゲッカさんに話した」描写をパラレルとして扱わせていただきました。

・霧に包まれた町

チェルシーは今日、トリスメタウンへ行ってみることにした。
この町でも、友達のムは目撃されている。

霧が濃くて、何だか不気味。
美しいムには似合わない町だな、とチェルシーは思った。

年に一度、この町では大きなハロウィンイベントが開催されるらしい。
その時は、もう少し華やかなのだろうか?
そんな事を考えてながら、霧に包まれた町をてくてく歩いてゆく。

歩いていて目に飛び込んで来たのは、大きな建物。
看板を見ると、図書館だとわかった。
入ってみると、蔵書も充実している立派な図書館だった。

図書館の近くにある池は、満月の夜に幽霊が出るという噂があるらしい。

もしも満月の夜に来たら、亡くなった祖父に会えるだろうか?
チェルシーは一瞬考えて、すぐに首を横に振った。

「いやいや、そんなわけないでしょう」

***

・ごはん屋さん

時計は正午を指している。
そろそろ昼食を済ませようと、チェルシーは目についた定食屋に入った。

「いらっしゃいませ」
中に入ると、自分と同年代に見える、茶髪の女の子が声をかけてくれた。
落ち着いた雰囲気は、どことなくムと似ている。
「こんにちは」
チェルシーがにこりと笑うと、女の子もにこりと笑った。

「日替わり定食、お願いします」
「わかりました。おじいちゃん、おばあちゃん!日替わり定食ひとつです!」

女の子はぱたぱたと駆けて行き、厨房にいる老夫婦に注文を伝えた。

「あいよぉ」
「ノインちゃん、お客さんにお水持っていってぇ」
「はぁい」

三人のやり取りを聞いていると、仲の良さが伺えた。
自分も、祖父とムと話している時、あんな感じに見えたのかもしれない。
少し涙が出そうになった。

***

・羨ましい

「はい、お水どうぞ」
「ありがとうございます」
潤む瞳を誤魔化しながら、チェルシーは出された水を一気に飲んでしまった。

「あんらぁ、お客さん見かけねぇ顔だねぇ。旅の人かねぇ?」
厨房から出てきたおばあさんが、机に近付いてきた。

そういえば、前に出会ったゲッカという男性にも似たようなことを聞かれた。
何と答えるのが正解なのか、正直言ってわからない。
「そんなところです」
チェルシーが答えると、おばあさんはふんわりと笑って、沢山の飴玉をくれた。

チェルシーの祖母は、彼女が物心つく前に亡くなってしまった。
もし、祖母がいたらこんな感じなのだろうか。

「あめちゃん食べなぁ」
「あっ、ありがとうございます」
あまりに沢山飴玉をくれるので、取りこぼしそうになる。

「おばあちゃんったら」
先ほどノインと呼ばれた少女が、クスクスと笑った。
笑うと少し幼く見える。

ムは、穏やかに微笑むことはあっても、声を上げては笑わない。
もし、ムが声を上げて笑ったら、こんな風に幼く見えるのだろうか。
今度ムと出会えたら、あの子の笑った顔が見たい。


***

・思い出

そうこうしている間に、日替わり定食が出来上がった。
鮭の塩焼き、味噌汁、ご飯、お漬物。
シンプルなメニューだけど、とても美味しい。

定食を味わっている間も、チェルシーは三人を見つめていた。
店を入る前は、ムの事を聞こうと思っていたのだが、今はそんな気になれない。

あの三人を見ていると、祖父とムと過ごした優しい日々を思い出す。

自分にも、確かにあった。
温かくて優しい気持ちで、大切な人と過ごしていた時間が。
祖父が亡くなり、ムと離れ離れになって忘れかけていたけど。

ムが連れて行かれなければ、自分はずっと穏やかでいられた?
祖父が亡くなった時、悲しい心をムに聞いてもらえたのだろうか。
もしも、あの時…なんて、考えるのは虚しいことだとわかっている。

食事を終えたチェルシーは、ムについて何も聞くことなく、定食屋を去る。
そしてアストラシティのホテルまで戻り、ベッドに倒れ込んだ。

***

・何がなんでも

テーブルに置かれたゴージャスボールがかたかた揺れて、中からキテルグマとヒメグマが出てきた。

『チェルシー寝ちゃったよ?』
『寝かせておく、ま』
キテルグマは彼女にそっと布団をかけた。

『ムを取り戻すなんて、勢いで飛び出してきたけど…本当にそんな事出来るのかな?』
『何がなんでも、やるんだま』
キテルグマは弱気になるヒメグマに、力強く言った。

『…確かに、あの家に戻るのもイヤだしね!チェルシーが好きな服を馬鹿にしている、あの家には』
ヒメグマは、頷きながらそう言った。

チェルシーが着ている和風のワンピースは、彼女のお気に入り。
しかし彼女の家族は、それを「みっともない」と言った。
唯一、その服を褒めていたのは彼女の祖父だが、もう亡くなってしまった。

やる気になったヒメグマを、キテルグマはポンポンと撫でる。
ここで、ヒメグマの腹が鳴った。


『ポケモンフーズでも、食べますかぁ』
『そういえば…科学者は、鳥を飼ってるらしいま。会ったら、焼き鳥にして食べてしまおう』
『へぇ~!じゃあタレの焼き鳥がいいな!』

ヒメグマがにっこりすると、キテルグマはふうっとため息をついた。
『お子ちゃま…焼き鳥は、塩が一番美味しいま』
キテルグマとヒメグマは、しばらくタレか塩かで揉めた。

***

・悪い夢

ムが、自分を忘れる夢をみた。
もうムには、友達が沢山いるから。
チェルシーはいらない。
そう言われる、夢。

目が覚めたら、ホテルのベッドの上で一安心する。
しかし、現実になるのではないかと怯えてしまう。
悪い夢を見た後というのは、そういうものである。
それでも眠らない訳にいかないから、再び目を閉じた。

二度目の夢には、ゲッカが出てきた。
夢だとすぐ気付いた理由は単純。
彼は部外者であるはずなのに、ムが科学者に連れ拐われたことを知っていたからだ。

「ムが悪い科学者に連れ拐われた」というのは、関係者以外には言っていないトップシークレットである。

本来、警察に言うべき案件だろう。
しかし、ムは購入されたデザインベビー。
警察にそこをつつかれたら、厄介なのである。
だから警察は勿論、警察に通報する可能性のある一般人にも言えない。


ああ、夢で良かった。
現実で知られたらわたし、ゲッカさんともう会えなくなってしまうから。

***

・万が一

「もし科学者が、ムという子を懐柔していてムという子がキミを拒否したら?」

夢の中のゲッカが問う。

そんな事、あるはずないと言いたいけど、何とか症候群ってあるじゃないですか。
ストックホルム?でしたっけ?
拒否することがあっても、それは本心じゃないって。

ねぇ、そうでしょ!!!

二度目の夢から覚めたチェルシーは汗だくで、体はぐっしょり濡れていた。

「はあ…シャワーを浴びなきゃ…」

熱いシャワーを浴びながら、今この地方の何処かにいるムについて考えた。
ムが、科学者のそばを離れたがらなかったら、わたしはどうすればいい?

「万が一の事も、考えなきゃですね」
きゅっ、とシャワーを止めて、チェルシーはシャワールームを後にした。

髪を乾かし衣服を整え、ノートを開いた。
チェルシーは物覚えが悪いので、忘れないように様々なことをノートに書いている。

「万が一の時の対応」
ノートに新しい項目を足した。

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