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お引っ越しラルちゃん(後編)・それぞれのクリスマス

【お引っ越しラルちゃん(後編)】

『ゴチルゼル…』
ゴチルゼルがラルトスの身体をサイコキネシスで浮かせた。
『わっわったすけて~!』
『ダメッ!ゴチルゼル…!』
ふわりと浮いたラルトスはゴチルゼルの腕の中に落ちた。

『う…?』
『アンタ達の話聞こえたよ、聞くつもりなかったんだけど…ごめんな』
『ゴチルゼル…』
メリープに呼び掛けられて、ゴチルゼルはそれに答えるように頷いた。
『ムなら奥の部屋でリゼットと荷物作ってるから、行きな』
ラルトスはゴチルゼルにお辞儀をして、ムの元へ向かった。

『ネイティにはウチから話すよ』
『ゴチルゼル、本当に良いのですか?』
メリープが不安そうにゴチルゼルの方を見ると、彼女はふっと笑った。

『リゼが許しているんだし、もういいんだ。それにあいつ、結構面白そうじゃん』

***

部屋に入ったラルトスは、空のモンスターボールを転がしながらムの元へ近付いた。
「ルッ!ラル!」
「ラル…?」
「あら、入ってきちゃったの?」
リゼットがラルトスに触れようとした瞬間、ラルトスがボールのスイッチを押した。
ボールが開き、ラルトスは中に入ってしまった。
しばらくして、カチッと音がした。

『ラルトス、自分でボールに入りましたね…』
『マジか、やっぱり面白いやつだな』
こっそり様子を見ていたメリープとゴチルゼル。
メリープは驚いたように目を見開き、ゴチルゼルは愉快そうに笑った。

「ラルトス、ムと一緒にいたいのかもしれないわ」
「そっか…出ておいで、ラル」
ムがボールを投げると、中からラルトスが飛び出した。

「ラルッ!」
「これからよろしくね、ラル」

ふわりと笑うムに、ラルトスは両手を上げて答えた。

『ダメって言われても荷物に紛れてついてくつもりだったけどね!』



【それぞれのクリスマス】

エルメスシティのロジエから、聖歌隊に入ってみないかと誘われて、それからエルメスシティに通うようになったム。
最近は聖歌隊に所属する子どもたちとも、少し仲良くなってきた。
「ねえねえ、ムちゃんはクリスマスどうやって過ごすの?」
聖歌隊の子どもの一人が、ムに話しかける。
「うん?まだ、きまってないの」
「うちはね、バトルランドに行くんだ~!」
バトルランドとは、ポケモンバトル等が楽しめる遊園地である。
「ふうん、いいね」
「夜はね、仮面舞踏会があるんだよ!でもね、それは大人じゃないと、参加出来ないんだって。大人になったら、デートで行ってみたいな…」
カメンブトウカイってなんだろう。
よくわからないけど、きっと素敵なものなんだろうなと思いながら、ムは友だちと別れた。

***

ラルトスがキャンディを欲しがるので、エルメスシティに来るといつもキャンディを買う。
「あら、いらっしゃい」
「こんにちは、ミルティユ。キャンディくださいな」
ムはミルティユからキャンディを受け取ると、ラルトスに手渡した。

「ねぇ、ミルティユ。カメンブトウカイって、しってる?」
「あのバトルランドのでしょ?知ってるわ」
ミルティユは仮面舞踏会がどういうものかムに説明をした。
仮面を着けて参加するパーティーであること。
参加する人たちは皆偽名を名乗ること。

「でも大人じゃないと参加出来ないのよね…だから私、毎年クリスマスイブの夜は、エルメスでパーティーとお泊まり会をするの。ムちゃんも来ない?」
パーティーと聞いて、ムよりも先にラルトスが反応した。
『パーティー!ケーキ!いきたい!』
ラルトスの反応にムは少し驚いて、それからミルティユに返事をした。
「あ、ムもいいの…?」
「もちろん!あっ、でもお家の人がいいって言ったらだけど、大丈夫かな?」

二人で話していると、ペラルがムを迎えにやって来た。
「やあ、可愛らしい二人が一体何の話をしているんだい?」
「ペラルさん、こんにちは。今ムちゃんをクリスマスパーティーにお誘いしていたの」
「そうなんだ…良かったね、ム」
「うん。でも、パパとママ、ゆるしてくれるかな…」

***

ミルティユにはまた連絡をすることにして、ムはペラルと共に彼の店へと向かった。
花の良い香りがする。
店の中に入ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おかえりぃペラル、ムちゃん」
「あっ、セゾンの…」
「ただいまナツヤ。店番ありがとう」
ナツヤは用があり近くに来たので、ペラルの店に寄ったところであった。

にこやかなトレーナーたちのそばで、ラルトスは一人難しい顔をしながら『どうやったらパーティーに参加出来るか』を考えていた。
『リゼットとファキョウも、お出かけでもしたらいいのにな…例えば…』
テーブルに置かれた、バトルランドのチラシが、ラルトスの視界に入った。
『仮面舞踏会とか…?』

テーブルによじ登り、ラルトスはチラシの「仮面舞踏会」の文字を見つめる。
それに気付いたナツヤが、ラルトスに声をかけた。

「ラルちゃん仮面舞踏会行きたいん?大人っぽいんやね」
仮面舞踏会という単語を聞いて、ムはハッとした。
「さっき、話してたの。大人になったら、デートで行きたいなって、友だちが言ってた。デートって何?」
「デートはね、好きな人と一緒にお出かけするってことだよ。そうすると、もっと仲良くなれるからね」
ペラルの説明を聞いて、ムは彼の方を向いた。
「なかよく、なれる?じゃあ、ペラルとナツヤ、今度ムとデートしようね」
にこりと微笑みながら、ムがそう言うと、二人の大人は「そう来たか」と笑った。

***

帰宅したムは早速、リゼットにクリスマスパーティーとお泊まり会の事を話した。
「せっかくお誘いいただいたんですもの、行ってらっしゃいな」
「本当?」
ムは一瞬喜んだが、その後あることに気が付いた。
「あっ、でも…ママはどうやってクリスマス過ごすの?」
「え?そうね…どうしようかな…?」
ムはミルティユに、リゼットも一緒にクリスマスパーティーに参加して良いか聞こうと電話を手に取った。
その時、ラルトスがバトルランドのチラシのある部分を指差しながら、リゼットに何か訴えるように鳴いた。

「何?…仮面舞踏会?」
「わかった…!ラルはママとパパが仮面舞踏会でデートしたらいいって、言ってるんだね」
ラルトスは両手で大きな丸を作った。

『リゼが来たらきっと早く寝なさいって言われる…ラルはみんなと夜更かしをするって決めてるんだ…』
ラルトスは二人に顔が見えないようにうつむきながら、少し悪い顔をした。

「確かに、顔わからないからパパラッチ来ないし…ゆっくりお話出来るかもしれないけど…」
「ペラル言ってた。一緒にお出かけ、デートすると仲良くなれるって。ママとパパ、仲良くなったら、うれしい」

ムの穏やかな笑顔を見て、リゼットは何かを決めたようだった。
そして自分の携帯電話を取り出して、電話をかける。

「ファキョウさん、私と仮面舞踏会に行きませんか」

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