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連載小説「戊辰鳥 後を濁さず」

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土木業界を離れることとなったため、今までの仕事の経験をもとに初めて小説を書きました。 全85話で完結。約55000字となりました。街から文学が生まれるのではなく、街づくり文学を目…
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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第1話

あらすじ 戊辰鳥 後を濁さず ―つちのえたつとり あとをにごさず― 第一部「釜場」 三月十五日(金)  農家であり地主であるトキ家の跡取り娘として生まれた私は、二十歳の時、祖父の養子となり、祖父からボロアパートを一棟譲り受けた。  表向きはトキ家の血を絶やさないためとなっているが、実際は広大な土地を持つ祖父から相続を受けるためである。  医師が祖父に宣告したおおよそ三年後までに私は相続税として多額のキャッシュを用意しなければならない。そのため、ボロアパートを解体し、そ

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第7話

三月二十一日(木)  250万円はイニシャルコストだったらしい。  ボコボコとぬるま湯が湧き出る限り、その処理のランニングコストがかかる。その内訳はぬるま湯を中和する炭酸ガス代と装置自体の電気代だ。年間50万円近くかかるらしい。他にもこの区画が埋まるくらい大掛かりな水槽を用意して、酸性の錠剤を混ぜる方法もあった。そちらの方がランニングコストはかからないが、急ぎということでジンベエザメはこの方法をとった。  取り壊す前のアパートは築四十年のボロアパートで部屋は四室だったが

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第18話

四月一日(月)  全くもって煮え切らない試合だった。  ピンチはチャンス。その逆も然りでチャンスの時間帯にリスクを負って攻め切ることができなければ、カウンターでピンチを迎える。チャンスはピンチだ。  だが昨日の試合は、ピンチはピンチ。どのみちピンチ。という試合内容だった。リスク覚悟で討って出る勇者の姿に憧れるが、実際ピッチに立つと、これがまた難しい。  現に、「ぱっと見で売約済みの区画っぽく整地工事」と「露天風呂新設工事」の二択に揺れている。今は見積の段階で、玉石の量

《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第19話

四月二日(火)  健康項目はホウ素とフッ素が高かった。  これは予想通り。温泉について、この二週間徹底的に調べた。これは温泉に多く見られる傾向だ。  生活環境項目はpHが10.1で、大腸菌は見つからなかった。温度は、26℃。あと12℃ほど加熱すれば温泉として使える。pHが高いので長湯はできないが、どこかヌルッとしたような泉質なのでそんなに長くは入浴しないだろう。  というわけで、ハートは熱く、頭は冷静に、一旦深呼吸して封筒に書いてあった調査機関の番号に電話をかける。