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Z軸可動への挑戦と苦悩

こんにちは、Mogma Productsです。
本記事はキーボード #1 Advent Calendar 2023の20日目の記事です。

今年の11月に行われた天下一キーボードわいわい会 Vol.5にてZeofront keyboardというものを発表しました。

ラップトップのパームレストに置ける、というコンセプトで長期にわたり開発を続けていたので今回はそれについて触れたいと思います。
(というか、今年の活動の大半がZeofront keyboardの開発でした…)

御礼

Zeofront keyboardを開発するにあたり、イベントやX(Twitter)でたくさんのアドバイスやお声をいただきここまで開発することができました。どうすればいいのかわからないまま模索する日々が続いていますが、そういった時こそ温かいお言葉が励みになりました。
皆様ありがとうございます。

Z軸チャレンジへのきっかけ

皆様はラップトップPCを使っていて一度はパームレストに置けるキーボードがあったらなぁ…と夢見たことはないでしょうか。
ラップトップPCは計算機以外にもディスプレイやタッチパッドなど様々なリソースがありますが、外付けキーボードを使用するとその恩恵が受けづらくなってしまいます。尊師スタイルで外付けキーボードを使う方法もありますが、キーボードという可動部上に何かを置くのはできれば避けたいという思いもあります。
それらの日頃から感じていた課題感をKeybernetesを触っていて思い出し、この構造を実現するのは難しいだろうとも思いつつもとにかくやってみようということになったのが開発のきっかけでした。

コンセプトの要素を整理

コンセプトはパームレストに置けるキーボードなんですが、これだとコンセプトと実際に作りたいと考えているものに差異が生じるので、必要な要素を整理するところから始めました。

  1. キーボードの一部がパームレストに乗っている

    • というか欲しいキー数全部が乗り切らない

  2. ある程度の汎用性

    • 大半のラップトップPCで使えるようにしたい

    • 特に高さが調節できないと汎用性を持たせづらい

  3. パームレストに乗せなくても使える

    • ごく普通の分割キーボードのようにもなる

要素は整理できました。作りたいキーボードの形がみえたので仕様を詰めたいところですが、その前に前提を考えることにしました。

前提を考える

作ろうとしているキーボードは出来上がるとどんなものになるのかと想像してみると思った以上に考えることがありそうなので整理しました。

形状について

冒頭の写真にもある通り、キーボードの一部がパームレストに乗っているということは乗っていない部分と分離されていなければならない、ということになります。
つまり2つの小さなキーボードが組み合わさって片手分のキーボードが構成されており、まずはこの形状から様々な設計を進めることになります。
ここでは構造を考える便宜上、パームレストに乗っている側を地上、机に設置している側を地下と呼び分けることにします。

構造について

キーボードが地上と地下に分かれるという形状は整理できましたが、その2つがどのように組み合わさるのかという構造も整理しておきます。

地上が上下に可動することでパームレストに設置、かつラップトップPCにフィットさせることができるのですが、そうなると地上/地下を上下に可動させる何かが必要になります。
また、地上と地下を可動させる何かで接続させる必要があるので構造としては図のようになります。

地上 - 可動部 - 地下の断面図

つまりは地上と地下の2つに分かれたキーボードを可動部で接続して一体化させた構造にする必要があります。

強度について

構造については整理できました。
地上 - 可動部 - 地下 という構造物それぞれがつながることになります。今回つくるキーボードは地上、地下それぞれが接地しているため可動部でそれぞれの自重を支えるほどの強度は必要ありませんが、強度がなければキータイプしている間にずれてしまうのでそこそこの強度で接合する必要はあります。

ここまででつくるものの整理はだいぶできましたが、少し考えただけでも実現するのは難しそうだなぁというのがこの時の感想でもありました。

試作をする

試作の図面を見返したところ、細かい派生を含め9つほどありました。主に可動部の構造がうまくいかず試行錯誤していた結果です。一つ一つを説明するとすごい文量になりそうなので詳細については別の機会にご紹介できればと思います。
ここではイラストを交えつつ何を考えながら設計していたのかをいくつか紹介します。


1.送りねじ方式

ギアボックスを2箇所に配置し、ピンクのクラウンギア部分を回転させて上下させる

送りねじを支柱にして地上と地下を固定する構造。回転運動(ピンクのクラウンギア部分)を直線運動(ギアボックス部分)に変換して地上と地下を支えながら上下させる、という設計です。
ミニ四駆のギアを流用することで精度高く可動させられるのでは?という思惑があったのですが、ギアに使用したかった短い六角シャフトの入手難易度が高かったのと、各部の強度だったり可動部が多くて公差の調整の難易度が高いというので断念した構造です。

2.エアダンパー

シリンダーが地上部、ピストンが地下部にそれぞれ固定され連結される

車などでも使用されているダンパーをベースに設計したものです。オイルを入れるのはハードルが高かったのでピストンがシリンダー内部に密着すれば空気の逃げ場がなくなってある程度の弾力を得られるのではないかと考えたのですが、エアダンパーとして機能させるにはしっかりと密閉しないとダメでした。

3.送りねじ+アーム

地上+可動部

1つ目に近い構造ですが、送りねじを回転させることでアームが上下して地上を支えるというものです。構造自体は悪くないのですが、やはりねじ部分の強度と精度が課題となりました。また、おねじとめねじの合いがタイトだと送りねじの回転時に負荷がかかり、各種部品がうまく動かなくなったり壊れたりして実用段階まで作り込むのは難しいと判断しました。

4.スプリングダンパー

ピストンに使用したのは1.7mmねじ用のスペーサー


スプリングダンパーの断面図

スプリングダンパーが現段階で実用可能な構造として設計できました。ピストンに金属スペーサーを採用し、ダンパーの部品をつなぎとめています。また、金属スペーサーの径を3mmとしているのでキースイッチ用のスプリングを入れ込むことが可能です。
金属部品をあわせることとで強度が増し、組み立てにおいても容易性が増したのはいい点でした。ちなみに、ピストンが二本ある理由は一本だとピストンが回転して捻じれを生んでしまうため一方向にのみ可動させるためです。


これらの試作を繰り返してどうにかキーボードケースの構造は形にすることができました。

開発の感想

筆者自身は構造設計にまつわる知識が素人で、ひとつのアイディアを形にするまでインプットと設計を繰り返していて、1つのプロトタイプを設計するだけでも1〜2ヶ月を要していました。期間にすると3〜11月なのでおおよそ9ヶ月ほどです。
やったことのないものにチャレンジするのは比較的好きではあるのですが、長期に渡り考え続けていたので中々に大変だったというのが正直なところです。
今回は主にキーボードケースについて振り返りましたが、分かれたPCBをどう接続するのかといった機能についても更に詰めていく必要があります。地上と地下はフラットケーブルを用いた接続を計画していますが、可動に対するコネクタの耐久性をどうするかという課題もあり、形にするにはまだまだクリアすべき点があります。
ということでZeofront keyboardの完成にはあと少しかかりそうです。

Zeofront keyboardの未来展望

実はここまで形にしたものの、Zeofront keyboardのコンセプトモデルを開発したところで一旦休止しています。理由はいくつかあるのですが、

  • キーボードケースの開発だけで9ヶ月以上を費やして少し休憩したい

  • そもそもパームレストに置けるキーボードに需要はあるのか?

    • あるなら誰かが既に作っていてもおかしくないと思っている

    • 販売するならば市場調査をしておきたい

    • 分離型がいい、キー数などの要望もありそう

  • ケースだけでも部品点数が多く、販売するにしても手にとってもらえる価格にできないかもしれない

キーボードの作り込み以外でもまだまだ乗り越えないといけないことが多いと感じています。

最後に

アドベントカレンダーということで普段ではみえてこないような内容にしてみましたがいかがだったでしょうか。
何を考えながら設計しているのか、というのは他の開発者様のヒントや気づきになるんじゃないかという想いで書いてみましたので一助になれば幸いです。
また、Zeofront keyboardに関するご意見や「ほしい〜」というお声があると励みになりますので、#zeofrontkeyboardのハッシュタグでポストいただければ泣いて喜びます。

この記事はZoom65で書きました。
(なんだかんだで今はカスタムキーボードをメインに使っていました)

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