ゲンロンSF創作講座2022第6回実作感想(7作品

読み切れたものだけですが、記載します。
今回のお題は、葬る、弔う、喪に服す。
必然的に家族的なテーマが多い回でした。

極道會襲名式 長谷川京

MM5(隠語)は良いネタだった、グリフィンドールに50点。
ヤクザとブロックチェーン。この組合せで一本は間違いなし。ヤクザは精々が龍が如くくらいの知識しか無いんで、ヤクザものとしてどうなのかはよくわからないが、画がない分の難しさはやはり感じたかもしれません。
また、物語が現実世界へ行く、その手続きは面白かったですが、そこから先を楽しめたかというと難しい。たとえば、貴志祐介の新世界より、あれも最後は都心のど真ん中に行くわけですが、そこまでにいくつものフックがあり、その上で想像させて超えてくるようなものがありましたが、短編ですとそのやり方は使えず、勿体なく感じてしまいました。
記者の立場から物語を描かれるのは、おそらくですが、この長さの作品としては語り手を置くことによって、綺麗にまとまっていて、良かったともいえるが、これもまた勿体なくも感じました。
また、これは長谷川さんの作品ではままあることですが、中盤で出てくる濃いキーキャラの使い方が、短編にはやはり大きすぎるかも?(キャラの存在感が大きい割に、あまり大筋に関係ない、あるいは便利すぎる。長編になればこれもちょうど良いくらいになると思うのだが)。
ジャーナリスト視点でというと、吉上亮の泥の銃弾という上下巻の大作がある。上記の作品はジャーナリストがテロを巡り謎を追っていく物語であり、記者を軸に据えると言うことは、こういった点で役に立つ。現代における探偵としての役割ですが、そういったわけでもなかった。構造上、この作品における記者は機能しているが、物語上は寄与していなかったように思われました。あえて、薄くしているという仕組みはわかるのだが、やはり勿体なかったか。
やはり長編向きなネタでは。
結局僕は長谷川くんの長編が読みたいのであった。
 

 バーチャル・ライフ 瀧本 無知

ストーリー全体を見るとよい作品に感じた。
頭から通しで読むと少しだれるような感じがあるか、各節の終わりで引っ張っているのだが、その後の展開が読め、裏切りもすくないだろうか。というよりも、平穏な彼女の日常が壊れていく話なので、それを頭から描かれると平穏な日常はそりゃあ普通に感じるだろうという当然のお話かも。
また、全般的に描写がもう少しあっても良かったろうか。彼女の一人視点なので、あえて押さえているのだろう。
僕のイメージとしては、物語の語り方を少しずらすだけでも、すごく良くなるような気がする。例えばだが、インセプション(ノーラン全般かも)は、時系列順に描かれるときっと面白くはない。あれは時系列を入れ替えることで、構造的にミステリ、サスペンス的な要素を構築している。要するに、そういった構造的なサスペンスを用いればより良くなる気がした。
このお話は、ストーリーとしては、ガジェットは含まれているもの、家族の話だ。少女が母の死を受け入れられず、再婚の母ともうまくいかずと言う、そういったものである。だからこそ、構造的に、ガジェット的に、ある程度の自由度がある。そのピースの嵌め方はもう少しアクロバティックあった方がSFとしておもしろいように感じる。
一方でシンプルであった方が良い勢もいるので、この辺は一概には言えないかもしれないが・・・
 最後まで読み切ると良い!と感じるだけに、少し勿体無さを感じてしまいました。

真珠の小指を燃やす 大庭 繭


選出4作の中では一番まとまりがある作品であるのは間違いないと思いました。逆に言えば、小さくまとまり過ぎているとも考えられる。
僕のような奴はすぐ類推したがるので作品を挙げると、宝石の国のようなことを考えてしまう。
あるいは、エンジェルビーツのようなものを考えてもいい。こわれても蘇る。でもそれは果たして本当の自分なのか。ということを問うことは珍しくない。ということは、そのことをどう物語るかとなるわけだが、正直、2万字の物語りにするには、やはり何も起きなすぎ、となるのか。
でも、別にアクションシーンがほしいわけではない。ということで、個人的に思うのは、もっと短くして密度を高めるか、もっと物語、テーマを前面に出すか。のどっちかをすることでエモが増すか?
たとえば、今作は雰囲気で語るところが多く、シェルの設定的にはふわっとしている。ここに実は隠された歴史とかあるなら、そういうことをしても良い。こんな願いが込められていて、とかね。そこを雰囲気ではなく、感じられると良いのかもしれない。

最後の砂漠が死んだ 和倉 稜


4章までの段階ではものすごい傑作の匂いがした。それだけに5.がもったいない気がする。いきなり総集編で完結、みたいな感じになってしまってないでしょうか。
オーパーツ的なものについて、個人的には、「砂漠」という異界も相まって良いと思いました。ここからこの砂漠の歴史についてもっと謎を解き明かすような展開があってもいいし、いずれにせよ字数に捕らわれず展開してほしい気持ちがありました。
おそらくですが、ハドが父殺しをする展開そのものは良いと思うのですが、そこへのステップが、読者との間に足りていないのだと思いました。
そこさえ積み上げてもらえれば、長編なら、4.のあとハドが黙ってリュシーについてきてしまい・・・みたいな展開になって、話が大きくなっていくこともありうるのでしょうが、、、厳しいですよね。
5.からもう一度・・・というのが僕の気持ちですが、最高点をつけるならこれかな!

 霊能者・毛塚クオンの葬送 コウノ アラヤ


コウノさんの作品には独特の魅力を感じる。
少し常識外れな設定に、少し頭のおかしい登場人物、そのくせ文章は読みやすい。非常にとっつきやすくていい。良い意味で安心してすらすら読める。

今回の話に言及すると、家を飛び出し、占い師をし、テレビに出演して失敗してムショに行き、【最終的には父親と対決する】。このラストの強引なまでの直球ストレートを、僕は外してほしいと思ってしまった。父親なんてどうでもいい。そんな安全さをコウノさんのキャラたちに僕は求めないよ。もっと破天荒になった姿が見てみたい。もちろん親父が再登場しないと物語が締まらないじゃないか。って普通はおもうけど、髪の毛食う霊媒師の話が普通に終わらなくたって何の問題もないじゃないか!!
僕が気になるのは、ここまでキャラクターや設定は外してくるのに、物語はど真ん中ストレートで来るのがコウノさんのスタイル。ツーカウント(設定、キャラクター)までは変化球でとるのだが、最後はかならずストレートで締める。
ここも変化球になったらどうなるのだろうか。というのが、僕は気になって仕方ない。
そういうのを書くべきだ。とか言うのではない。この独特の外し方のできる人が、物語まで外してきた場合どうなってしまうのか気になるのだ。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね


ワイルドハントの幽霊犬 八代 七歩


不条理なセカイの中に、一縷の望みが信仰という形で見える言いお話でした。最初、物語の軸足がわからず戸惑いましたが、ハンスに集中して読むことができるようになってからは非常に良かったです。女性の葛藤と、心優しい猟犬の関係性は悲惨な世界においてなおのこと輝きます。ハンスの優しさが心にぐっときました。
惜しむらくはこれが短編なことでしょうか。
短編として綺麗に纏めるのであれば、ハンスとワイルドハントの出会いからでも読者は十分ついて来れたような気がします。そこから、話を始めた方が分量的には書きやすかったのではないかな、等と感じてしまいました。
一方で、ワイルドハントや他の猟犬の物語との絡みがよみたい。いやむしろ、そうでなければ最初の話の理由がつかないではないかと。
ワイルドハントの猟犬が心優しく、むしろ人間世界の方が不条理で悲惨というコントラストがよく描かれていて、できればですが、いつか、ハンスが救われるまでの物語が、僕は読んでみたいと思いました。

メゾンMの終末について 難波 行


ブラックホールに落ちていくと、相対的にその人の世界は外界に比べて引き伸ばされる。
それを静止した世界と重ね合わせるというのはいい発想、そこでの人間模様が徒然と書かれる。その吐息を感じられる点は良い。
静止した日常とブラックホールの組み合わせは合っているようで少しずれているというのが、ブラックホール警察予備軍の感想でもある。潰れるんや〜みたいな話ではなく、この流れは相対的に長くなっている。外部の一瞬が、その世界では永遠となる。そう言った食い違いが、物語にハマっているという感じがしなかった。
原理的には、ブラックホールのなかにいる限り、世界の外は見えない。イベントホライゾンという名前だけは聞いたことがあるかもだけど、概念的には中にいる限り、外も引き伸ばされて見える、はず。
例えば、ビューティフルドリーマーのように、ふわふわと世界の外側を見ることすら叶わない、終わらない日常が延々と続いていく。ブラックホールに落ちていく人間にはそれしかない。
脱出するには、ブラックホールの重力圏の力よりも強靭な力を持って飛び立つしかない。
あるいは、外側にいる人間がいたら、ブラックホールの蒸発とともに放出される内部情報をかき集めて再構成する、とかだろうか。
ブラックホールと終わらない日常ものの相性はいいと思われるので、そこを結びつける概念がもう少し欲しいかったような。

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