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ドラマと映画見たのよ。



なぜ女に母性を求めるのか。ケア役はうんざりです、との、第二波フェミニズム。
そんなー!寂しいよ!誰だっておかあさんがほしいよ…フレディだってママーっていってるじゃん…との、新自由主義に置いてきぼりを食らった寂しがりや。
ああ忌まわしき家父長制男女二元論。
母ってなんだろう。
とりあえずネトフリでみんなこのドラマを見てくれーッ!

POSE

https://www.netflix.com/jp/title/80241986?s=i&trkid=13747225&vlang=ja&clip=81105491


アメリカ1980年代。
まだまだ黒人への差別は残っている時代です。レーガノミクスで野心家の白人は裕福に、黒人は職業差別をされ貧困に、目に見える貧富の差が広がっていた、ブロンクスの街が舞台です。(黒人の中でやりきれない思いからヒップホップ文化が生まれたのもこの時代です!)
さらにエイズショックの時期でもあります。"エイズは同性愛者が広めたものだ"との偏見から、LGBTQ+の人々への風当たりは冷たいものでした。
作中でトランスジェンダー女性の一人は言います。
「白人男、白人女、黒人男、黒人女、順番に地位が下がっていく。さらに同性愛者、そして黒人のゲイバーでも断られる存在…それが私たち(トランス女性)」

このドラマはそんな黒人ゲイやトランス女性の物語です。
家族からも見放され路上生活を送る彼らは、「ハウス」という当事者同士の共同生活を送ることになります。各ハウスにはリーダー的存在のトランス女性がいて、「マザー」と自称・他称します。
各「ハウス」は共同生活を送るだけではなく、「ボール」という女装(というのが適切かはわかりませんが)ファッションコンテストで競い合います。
マザーとはハウスのメンバーにとって、ボールで共に栄光を目指すリーダーであり、マイノリティとして生きるために知恵を与えてくれ、叱咤激励してくれ、金銭を支援してくれる、既存の「母」の役目に収まらぬ存在です。

私はプライド月間に見始めたこのPOSEにだだハマりしてしまい、今1-5話ですがもう、いい意味でしんどくて、続きが気になるけど咀嚼にも時間がかかり…じわじわと進めています。

主人公のブランカは、もともと所属していたハウスのマザーと仲違いし、自らがマザーとして別のハウスをつくる決心をします。
ブランカは縁あって集まったメンバーにマザーとして愛情深く接します。
情熱的な人ですが、決して特別なことをするわけではありません。できる範囲で援助をし、寝食を共にし、風邪をひいたら看病して、泣いていたらハウス全員で抱きしめ、嬉しい時はハウス全員でお祝いをします。マイノリティとして生き延びるため、恋愛相談にはしっかりと口を出します。メンバーの意思を尊重しながらも避妊やセックスのやり方について教え、辛い恋愛をしている場合も話を聞きます。ハウスのメンバーはブランカに反抗することもありますが、話し合い、感謝し、愛を伝えます。

いつもかっこよく世話焼きなマザーのブランカですが、ブランカにもマザーがいます。生みの母親と、育ての、元々所属していたハウスのマザーです。
ブランカはその二人のマザーとは関係良好とはいえません。性や思想の違いから、裏切ったり裏切られたり。頼れる母親はブランカにはいません。
しかしブランカにとってどちらも、傷ついたけれど、腹が立つけれど、後悔しているけれど、許せない部分もあるけれど、忘れることも完全に縁を切ることもできない存在です。

ボールルームの「ファザー」とブランカは仲がいいですが、「ファザー」もまた一人のゲイとして、「親のことは許せる日もあるし許せない日もある」とブランカに言います。

人間関係の中でも親子は特別です。ややこしくて面倒くさくてしんどくて…そんな存在である「マザー」を引き受けるブランカの活躍を見ていると胸が詰まります。

もう一つネトフリ。
愛の不時着


https://www.netflix.com/jp/title/81159258?s=i&trkid=13747225&vlang=ja&clip=81406208


毎日不時着してました(見てました)。
韓国と北朝鮮の国境を跨いだ恋と友情のドラマです。
主人公カップルの親子関係も考察すると楽しいんですけど、作中の重要人物である北朝鮮のソ・ダンのお母さん(ミョンウン)が、私は大好きなんです。
ソ・ダンには父親がいません。ミョンウンは、父親がいなくても舐められないようにと、起業して成功し娘に富を与え留学もさせ(北朝鮮で富裕層になることは非常に険しい道では…と思います)要人の息子と婚約させます。肝っ玉母ちゃんであり、作中でもお節介だけれど愛情もユーモアもあるチャーミングな人物として描かれています。
ソ・ダンとミョンウンは仲のいい母娘です。
ですが、ダンが婚約者以外の男性に恋をしたかもしれないと知ったとき、ミョンウンは当然、狼狽しますしダンの身を心配して止めます。そして大酒を飲み…つぶれてしまいます。「もう、なにやってるの、お母さん…」と呆れるダンに、うわごとのように呟いたミョンウンの言葉が、
「あのねえ、わたしはね、あなたに母親として言うべきことは言うけど、私の言うことなんて聞かずに、自分の思う通りに幸せになりなさいね」
です。そして付け加えます。
「あなたが私の言うことを聞いたばっかりに私が死んだあと不幸になったらどうしよう?」
と言って眠ります。
娘はそっとそんな母親に毛布をかけます。

お、おかあさんだ。
これが多分、おかあさんなんだ。
心配だからたくさん言いたいことも子供のために用意したいこともあるけど、子供本人の意思も持ってほしいし、自分の言っていることに自信もない。
私たちが万能だと無邪気に無責任に思ってきた"おかあさん"の一番柔らかいところを見せつけられた気分になりました。

愛の不時着は正直一話につき一回、後半からは一話につき三回泣くがマスト…ぐらいの名作なんですが、このシーンがとっても好きなんです、私は。

というわけで、そんな…ネトフリでPOSEや愛の不時着をみて「マザー」「お母さん」についてぐるりぐるりとなっていた私が最近見たのがクルエラだったんですよ。正直一回だけじゃ把握できてないところもあるのですが、これも強烈な話でしたね。

クルエラ 

https://www.disney.co.jp/movie/cruella.html#

心に残った字幕だけ紹介します。
クルエラのライバルの女性が言った一言。
「(才能ある人間がどれほどいても、一位の玉座は一つしかないのよ。)玉座には私が座る」
英文では「I choose me(直訳:私が私を選ぶ)」でした。
子供時代の主人公クルエラが「イギリス、1960年代。まだ女の時代ではなかった。いじめられた」という旨を伝えているので、その後20年経っていると計算しても、現代よりはずっと女性蔑視の過酷な時代であっただろうころに、才能でのし上がり富と権力を得た女性のセリフです。まさにわかりやすく強い女です。彼女は文字通り彼女しか選びませんでした。彼女自身のためにパワーを得たのです。
主人公のクルエラは協調性があるタイプではありませんし、社会的にハードな経験を経ているので権力に近づくのも一苦労です。辛い人生で自分の行動を母にずっと誓いを立てることで原動力にするですが、作中からもう一つ。
「あなたは私の娘」
英文では「you're mine(あなたは私のもの)」でした。このグロテスクさ、訳してる人どういう気持ちだったんだろう…。

三作品(で私が注目した母たち)に共通しているのは"父の不在"です。POSEではファザーがいますが、彼はあくまでもボールに来るセクシャルマイノリティたちを見守るみんなのファザーとして振る舞います。ハウスごとに家父長性の父がいるわけではありません。
どの作品のマザーもおかあさんも母も、扶養してくれる人も指示を出してくれる人もいない中で、強い女にならざるを得ない状況です。自分自身のことでも精一杯な中、必死に人格を持った子供と向き合おうとします。
そこには母性神話なんてものはありません。血が繋がっているとも限りません。「産んだなら愛せるだろう受け入れられるだろう」を真っ向から否定する作品ばかりです。母たちは逃げたり、拒否したり、迷ったりしながら、一人の人間として子供に対峙していきます。
「たわいない話をして、心配して、お節介をして、気にかけて、応援して、生存を守り、大切な存在であると伝える」。子供に母ができることはそれぐらいだと彼女たちは痛感しています。
でもそれは、母にしかできないことなのでしょうか?
母と名乗ってくれる存在は特別です。その上で私は、実の母以外にも、まるで母のように私を大切にしてくれた人に恵まれたことを痛感しました。性別も年齢も関係性もリアルもネット上も関係なく、私を「育てて」くれた人が、いつもいました。
私も誰かにとって「おかんみたいやなあ」とか「おかんがいたらこんなこと言うんかな」と感じるような、愛情深い人になりたいな、と思ったりなどしました。性格が複雑骨折しているのでちょっと厳しいかな…しかし冗談を置いておいても、多様な家族や絆の形をつくるのって、そこまで難しいことでも特別なことでもないかもしれませんね。

今回母親という視点から書きましたが、それぞれ単体の見所を最後に宣伝します!

POSE
ボール文化がメインだから衣装がすごく綺麗。一人一人のキャラが立っていて全員好きになってしまう。

どんな差別があったのか?今もあるのか?
お金持ちの白人男性に気に入られたら、黒人のトランスジェンダー女性や弱者に置かれた立場でも「勝ち」なのか?それしかサバイブ方法はないのか?加齢をどう考える?
トランスジェンダーの方がホルモン打つ副作用は?性器切除は高額?痛いの?どうしても取りたいの?なぜ?
ゲイ同士のセックスはどうするの?エイズショックに対して当時のアメリカ政権はどう対応していた?当事者たちはどう感じていた?
特権白人男性の心の中に葛藤はなかった?

そんな、当人に聞くにはデリケートな(はずですが、クソリプを当人に送る人が多くて本当に嫌になりますね)疑問を一つ一つ自然な流れで描かれています。トランス当事者の女優さんがキャスティングされているところも素敵。個人的にはメインキャストがそんなに多くないのもありがたかったです(顔覚えるの苦手)。

POSEについては鈴木みのりさんとライムスターの宇多丸さんが語ってるこの対談で取り上げられていて有意義な対談でした…(アーカイブ視聴期間は7/8まででした!注意)

https://punctum-archive20210403.peatix.com/

宇多丸さん「この時代、マッチョな黒人男性が、白人社会に向けて反骨精神ヒップホップ始めてた裏で、もっと辛い目に合ってた人がいるんだよね」「そもそも論ラッパーたちは、どうしてホモソーシャルでマッチョでイキがっていなくちゃいけなかったんだろう」
鈴木みのりさん「POSEは現代に通ずるものもたくさんある。とりあえずこのドラマではトランスジェンダーがトランスジェンダー役をするっていうことが達成された」「日本ではクィア等の認識がまだまだ遅れていたりしますよね」「トランスジェンダー女性としてモデル業することも、資本主義的と言うか…間違ったことをしていないか、結構いろいろ考える」

愛の不時着
北朝鮮って、みんな貼り付けたような笑顔で総書記のために踊ったり歌ったり行進してて、アナウンサーは特徴的な喋り方で、"やべー国"。
と思っていた私、言うまでもなく差別的でした。前半パートは北朝鮮の日常生活がメインなのですが、貧富の差や情報統制の苦しみも描写しつつ、当たり前だけど「普通の人が普通の暮らしをする」風景が流れています。このドラマこそ登場人物全員可愛くてしょうがないので大変です、情緒が。韓国と北朝鮮の間…という難しい問題を扱っているのに、シリアスパートとアクションパートと全年齢のラブロマンス、そして特定の属性を貶めない、人を傷つけないよう配慮してあるコミカルシーン。バランスが最高です。完璧って難しいですが、PCに最大限配慮していると私は感じました。安心して勧められます。

憎めないキャラクター枠として北朝鮮のベテラン軍人男性、ピョ・チスがいます。彼は生まれも育ちも思想も北朝鮮に尽くしているので、資本主義を馬鹿にしています。序盤ではお世辞にも性格がいいとは言えません。韓国から事情があって北朝鮮に滞在することになったヒロインのユン・セリとは犬猿の中でくだらないことで舌戦を繰り広げています。滞在中ユン・セリはヒーローのリ・ジョンヒョクと恋に落ちますが、もちろんピョ・チスとは少し仲良くはなれど恋愛関係なんてお互いに全くありません。
しかし、別れねばならないとき、ユン・セリは北朝鮮でできた他の仲間たちに一人一人ハグし、同様に、ピョ・チスとハグをします。ピョ・チスも抱きしめ返します。そしてお互いに健康を祈ります。
生まれた国も育った環境もイデオロギーも違って、気が合うわけでもない、恋愛感情を持っているわけでもない、性的に見ているわけでもない、そんな人間同士でも、ハグをして無事を祈ることができる…シナリオが最高でした。

クルエラ
美しいヴィランや強い女の物語が好きな人は絶対見てほしいですね…!不幸な境遇もトリガーにはなったけれど、元々社会不適応なところもあった、ヴィラン生まれるべくして生まれたのだ、という描写も予告編通りきっちり描かれているので、悪の物語として痛快です。やることがとにかく派手!80年代イギリス反骨精神らしくロック要素もあります。おしゃれが好きな人やヨーロッパブランドが好きな人にもおすすめです。
大悪党の華麗さの裏にある虚しさ…のような演出もさすがディズニーで、繊細に作られていました。見応えバッチリ。
クルエラは一回しか見れてないのでどうしても掘り下げが少なくなってしまいます…もう一回見ようかな。
誘ってくれた友達にスペシャルサンクス。



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