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【興行収入編】 2018年ニュース総集編

2018年は、アメリカの劇場主たちにとって喜ばしい一年だった。『ブラックパンサー』『アベンジャーズ:インフィニティ・ウォー』『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』『クレイジー・リッチ!』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』など、大作映画が着実にホームランを放ち、客足を途絶えさせることがなかった。

低予算映画でも『クワイエット・プレイス』やドキュメンタリー映画『Won’t You Be My Neighbor?(原題)』『Three Identical Strangers(原題)』などの小粒な作品が予想以上のロングランを記録するなど、大小の映画が劇場主たちの財布を潤した。

もちろん、これまで苦渋を味わってきたワーナーのDCユニバース作品『アクアマン』が滑り込みで好成績を叩き出したことも忘れてはならない。スーパーヒーロー映画も、マーベル特需とは限らないトレンドと化した。数字を稼げるうちは、今後も何本でも作られることになるだろう。

2018年は、「映画館で映画を見る時代は終わった」と揶揄する者も決して少なくない中、あえて共有空間で2時間前後の拘束を受け入れる消費者がいることを証明する一年だったと捉えればいいだろう。

だが、映画館興行がビジネスとして完成されているかというと、決してそうとも言えない。映画館も、ストリーミングやテレビなどの競争関係を健全に維持しながら、今後も精査され続ける。

だいたい、ポップコーンひとつで$15も徴収するビジネスの悪どさといったら、他には考えつかないほどだ。コスい商売をやめて、より消費者に寄り添ったサービスで信頼を勝ち取るのが正解だ。ムービーパスとか、ムービーパスとか、ムービーパスとか...(ブツブツブツ)。

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映画の未来について本気出して考えてみる
(掲載:mofi 第212号 2018/07/02)

1月−3月

2017年北米興収を振り返る
2017年の北米興収は$11.2Bで前年比2.3%減。スタジオ別ではディズニーが3年連続$2B越えと他を圧倒する存在感を見せた。フォックス買収で業界そのものが再編の流れをみせるか、気になる2018年初だ。(M)

日本におけるハリウッド映画の比率は45% 16年から20%近く上昇
2017年、日本市場でのハリウッド映画の興行収入は昨年には及ばずも歴代2位記録の約2,286億円。映画製作者連盟の統計と併せてご覧いただきたい。(M)

CineworldがRegal Cinemasを買収 総額$3.6B
これで、同社はAMCに次いでアメリカ第2位の映画館チェーンへと躍り出た。リーガル・シネマといえば、ダウンタウンLAの中心地でステープルズ・センターのすぐ横の一等地にもシネコンを構えている大手。業界にとっても大きな変化だ。(O)

ウディ・アレン最新作が最速公開のフランスで不調 配給元は監督を擁護
いく年ものあいだ問題になっていた、アレンによるディラン・ファローへの児童性的虐待疑惑が、いまになって真剣に取り上げられはじめている。いまとなっては水掛け論にしかならないが、彼の映画が平気で公開される世の中であってはいけないのかもしれない。(O)

ハリウッドによるネットフリックスへの映画配給権売却のジレンマ
映画興行では成功しなさそうな作品を、一定の金額でネットフリックスに売ってしまおうとするハリウッドスタジオ。直近では、パラマウントの『クローバーフィールド:パラドックス』 “Annihilation”といった作品のネットフリックスでの公開が話題となったが、このような消極的手段は長期的には誰も得しない構図では。(M)

中国興行市場、2018年1-2月の成績が前年比39%増
旧正月の1週間だけで$900M近い数字を叩き出していることは確かにインパクトあるが、その内訳はハリウッド映画よりも国産の映画のほうがシェアが大きい模様。(M)

スピルバーグ発言が波紋「ネットフリックス作品はオスカー対象外」
ネットフリックス脅威論の立場をスピルバーグ。「劇場で観る映画」というスタイルがいつまで続くかを考えさせられるこのタイミングでの発言は、賛否が分かれるのではないだろうか。(M)

4月−6月

2017年、もっともコケた映画は? ヴァラエティ紙恒例のランキング発表
スタジオたちにとっての最大の不名誉は『キング・アーサー』が戴冠。続いて『モンスター・トラック』、アルメニア大量虐殺を描いた『THE PROMISE 君への誓い』、米中合作『グレード・ウォール』、そして災害スペクタクル『ジオストーム』へと続く。(O)

中国の興行収入総額がアメリカを抜き世界一に 18年第1四半期統計
今年度初頭の中国国内の興行収入は$3.17B。対するアメリカは$2.85Bと大差。中国興行の内訳のうち、大体$2Bは中国の国産映画が数字を稼いでおり、アメリカ映画は$1Bほどの存在感。人口はほぼ4倍なので当然と言えば当然。年末で失敗した『スター・ウォーズ 最後のジェダイ』に見られるように、アメリカ映画は中国での公開日の調整にも気を配る必要があるようだ。(O)

米ランドマーク・シアターズ身売りか 投資家と投資銀行に動き
先日、同劇場チェーンは定額制劇場観賞サービスMoviePassへの参画を発表したばかり。新装開店するロケーションも目立っていたが、実は苦境に立たされていたようだ。(O)

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウオー』が打ち立てた新記録の数々
いかに記録的なヒットかを示す、記録の数々。統計的に意味があるかわからない数字も?(M)

米国初週興収歴代1位($258.2M)
 『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の$248Mを更新
全世界初週興収歴代1位($640.9M)
 『ワイルド・スピード ICE BREAK』$541.9Mを更新
米国・全世界:スーパーヒーロー映画初週興収歴代1位
 米国は『アベンジャーズ』の$207.4Mを更新/全世界は『バットマン vs  スーパーマン ジャスティスの誕生』の$422.5Mを更新
米国土曜日興収歴代1位($83M)
 『ジュラシック・ワールド』の$69.6Mを更新
米国日曜日興収歴代1位($69.2M)
 『スター・ウォーズ フォースの覚醒』の$60Mを更新
世界各国初週興収歴代1位
  韓国($39.2M)
  メキシコ($25.1M)
  ブラジル($18.8M)
  フィリピン($12.5M)
  タイ($10M)
  インドネシア($9.6M)
  マレーシア($8.4M)

「ソロ」の不発をうけ『スター・ウォーズ』戦略再考迫られるか
隔年で本編を一本、スピンオフを一本リリースする戦略による「スターウォーズ疲れ」か。はたまた、これまでが興行的にヒットしすぎていたのか。いずれにしても、エピソードIXまではこの判定はできないのだろう。(M)

『映画ドラえもん のび太の宝島』が週末1位を獲得
中国における「子どもの日」も手伝って、初週$24.3Mの滑り出しで着実に1位。中国におけるドラえもん人気は、いまも健在だ。(M)

J・トラボルタ主演新作『Gotti』 初週$1.6Mに加え酷評
大作映画たちの横で、インディ映画シーンでも騒動が起きている。500館規模の公開へと漕ぎ着けた『Gotti』の興行成績は、ジョン・トラボルタ主演作としては1991年の『過ぎ行く夏(原題:Shout)』以来の最低記録を樹立。現状では映画を鑑賞した批評家が10数人しかいないことも手伝ってか、米レビュー集計サイト「ロッテン・トマト(Rotten Tomatoes)」では「0%」という稀な数字も残している。製作のライオンズゲートが公開直前に脱落したり、ムービーパスが製作に参加したりと、舞台裏が騒がしい映画でもあった。(O)

中国映画市場バブル、はじける寸前か
刺激的なタイトルだが、記事いわく、2016年時点で政府に登録されているエンタメ関連会社は27,000、製作された映画は686本、劇場公開されたのは372本とのこと。不確実さは前々から叫ばれていたことだが、向こう2-3年が山場なのかもしれない。(M)

全米最大手映画館チェーン、月額$20の定額制サービス開始
MoviePassに対して、最大のライバルであり障壁? でもあった映画館チェーンが自ら定額制に踏み込むことに。競争がユーザーにとってより最適な形に落ち着いてくれることを願う。ついでに、日本にも同様のサービスが届くことを心待ちにしている。(M)

7月−9月

『ジュラシック・ワールド』首位キープ 2018年は興行絶好調
『アベンジャーズ』3作目でスタートダッシュを切った18年の夏興行は上々。2週目で一位をキープしている『ジュラシック〜』は$60Mを記録。先週から動員数が59%も減っていることは好ましくはないが、累計$264.7Mは良い数字。2位は3週目を迎えた『インクレディブル・ファミリー』で$45.5M、累計$439.7M。2018年前半の興行は産業全体でも$6.2B(約6,300億円)で、昨対比9.3%増。映画館ビジネスは終わっていない。(O)

米映画料金、過去最高平均価格更新 第2四半期は$9.38
第1四半期と比較すると、$9.16から22%増。2017年の第2四半期とでは44%増という数字。なお、2018年の全米興行収入総額は9.6%増。観客動員数も2018年前半は5.22%増と調子がいい。「ブラックパンサー」の大ヒットに反して第一四半期が興行で苦戦した一方、第2四半期は「アベンジャーズ」「ジュラシック・ワールド」などの続編ものが大枚を稼いで好調を記録した。(O)

中国市場最大の失敗作『Asura』の未来やいかに
7月13日の金曜日に中国国内で公開された国産映画「Asura(原題)」。制作費は約$110Mと、中国では史上最大の予算で組まれた映画も、初登場では$7Mという結果。2週間で配給元から引き上げられたという同作は、プロデュース陣から「再公開を行う」という発言がなされるも...予定は立っていない模様。(O)

今夏の映画興行で学ぶべきレッスン「みんなやっぱり映画館が好き!」
落ち込む総観客動員数をチケット価格上昇でごまかし続けているアメリカの映画興行ビジネスだが、今年は大小さまざまな規模の劇場作品が大活躍。あからさまに「映画館向け」な大作映画がひしめく一方で、こぶりなインディ映画たちが数字を稼いでいる現状は、業界に少なからず希望をもたらしている。記事の著者曰く、「映画館が、映画を映画たらしめる。大きな作品も、小さな物語も、大きく映し出すのが映画館という場所。そんな場所へ足を運ぶことへの価値は、まだまだ失われない」。良い主張だ。(O)

老舗インディ劇場チェーン「Landmark Theatres」は誰の手に? 有力候補はアマゾンというウワサも
2011年にも売りに出された同チェーンは当時、買い手がつかなかった。しかし激変する昨今のビジネスでは、新たなバイヤー候補がごろごろしているそう。もっとも有力と言われる買い手は、アマゾン。同社の「プライム」のストリーミング・サービスに先立って劇場公開を行う「インディ映画スタジオの新星」が、劇場を持つとしたら? ちなみに、そもそもアメリカでは「配給会社が映画館を経営してはいけない」という取り決めが、40年代に定められている。この条件そのものが司法省によって取り払われる可能性も、実はあるらしい。業界はいよいよ変わり始めている。(O)

夏の北米興収 総額約4850億円で昨年比14%増
近年稀に見る低水準と言われていた2017年の数字からの揺り戻し幅の大きさは20年以来の高水準。この内訳の1/3以上をディズニーの配給作品が占めていることも特異であり、動員数も9%増と拡大傾向を示している。映画の未来など憂いている暇はないだろう。(M)

10月−12月

ドキュメンタリー好調 『Free Solo』が劇場平均で今年最高売上を記録
「Free Solo」はカリフォルニアの名峰エル・キャピタンを命綱無しで登るクライマーを追うドキュメンタリー。全米たった4館で公開されたにもかかわらず、30万ドル(およそ3,000万円)を売り上げてインディ映画シーンを牽引中だ。フォックス・サーチライト配給のロバート・レッドフォード主演作『The Old Man & The Gun』も5館で15万ドルほどを稼いだ。レッドフォードは本作で俳優業を引退すると公言している。(O)

ネットフリックス、アワード狙いのオリジナル三作品を劇場先行公開
「ストリーミングと劇場の同時公開」を鉄則とした結果、今年のカンヌを完全にスルーすることにしたネットフリックスだが…ここへきて方針を転換。なにせアルフォンソ・キュアロン監督作、コーエン兄弟監督作、そしてSusanne Bier監督&サンドラ・ブロック監督作ともなれば、受賞にも期待できる。アマゾン・スタジオ的な方針へと切り替わるか。(O)

12月の中国興行市場はハリウッド映画が埋める傾向
例年12月は国産映画の保護のために外国映画の公開をシャットアウトする期間を設けていたが、今年はその規制が弱い見通し。ハリウッド映画が次々と12月の公開を獲得するなかで、中国の映画市場としては$8.65Bで締めくくりたいとの見方。(2017年実績は$8.58B) (M)

中国市場は『クレイジー・リッチ!』不発 初週でたった$1M弱
日本での興行も芳しくなかった『クレイジー・リッチ!』だが、中国での不発も「アジア人」と「アジア系アメリカ人」との価値観の違いを浮き彫りにする良い例。アメリカが求める多様性のあり方と、アジアを中心とした多くの国々のそれとの間には大きな差があるものだ。それが数字となって現れた。週末興行でたった$1M弱とはよほどの反応だ。(O)

レディー・ガガ、『メアリー・ポピンズ』、そして『Vox Lux』 ミュージカルや音楽系映画が活況
ナタリー・ポートマン主演の映画『Vox Lux』はミュージカルではないが、フィーチャーされているSiaのオリジナル曲たちが光る特殊な一本。レディー・ガガの『アリー/スター誕生』、『ボヘミアン・ラプソディ』、そして公開迫る『メアリー・ポピンズ リターンズ』と、音楽系の映画が目白押しの近年。そんな人気ぶりの源泉を掘り下げた記事も、フォーブスで展開されているので下記リンクを参照のこと。(O)

2018年総括:記録的な速度で$11Bを突破する北米年間興行収入
やれストリーミングの登場で、映画興行のパイは奪われるのではないかと心配していた勢(私含む)にとっては杞憂だった? 結果が出ている模様。速報値につき、決定的数字は追って紹介させていただきたい。(M)

2018年のヒットと凡打、Varietyによるまとめは
2018年も師走となり、各紙の総括がはじまっている。Variety紙のまとめでは、興行的ヒット作には当然ながら馴染みのタイトルが多く含まれており(『ブラックパンサー』『インクレディブル・ファミリー』『クワイエット・プレイス』など)、セオリー通りホラーやスリラー作品の強さに触れていることが特徴。ハズレ作品には、一見は好調と思われがちなディズニー作品が複数並んでいることに注目。マーベル作品に助けられている同社は、その他のラインを活かすのに苦心している。(O)

全世界興収、史上最高の$41.7Bに到達する予想 comScore調べ
2017年の$40.6Bを2.7%上回る結果に。今年の記録を支えた作品は『アベンジャーズ/インフィニティー・ウォー』『ブラック・パンサー』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』『インクレディブル・ファミリー』『ヴェノム』といった作品群。蓋を開けてみれば、ストリーミングの存在感がますなかで劇場興行のシェアは小さくなるどころか大きくなっているという帰結を迎えそうな2018年。ストリーミングが劇場興行を後押しするような形になるのか、共存するのか、変化の過渡期か、まだ判断はつかないところだろう。(M)

どうなる? ディズニー・フォックスの合併をうけた2019年の興行業界
単純計算で、2社の北米興行収入シェアを合わせると37%に及ぶとのこと。来年の第1四半期に両社の映画ラインナップは統合される見通しだが、ディズニー・フォックスそれぞれの強みを活かす形で管理がなされるか、まだ不明なところがある。とはいえ、この合併の趣旨はあくまで「対ネットフリックス」の性格が強く、ストリーミング戦線の形勢を少しでも対抗できる形にするためであるとの指摘が鋭い。(M)

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