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最後の旅行

15時56分発 東京行きのぞみ160号。戻ってきた観光客でごった返す京都駅のホームに、新幹線がすべるように入ってくる。

生まれて22年半暮らした家を出て、娘は今日、巣立っていった。

私も、新生活の準備のために一緒に行くことに。新幹線の中から、母に卒業式の日に撮った写真を送り、東京に向かっていることを告げると「あらー、もう行っちゃったの?卒業祝い渡そうと思っていたのに」と、返事が来た。

「寂しいでしょ。でもすぐ慣れるわよー」という母は、私を含め5人の子どもを育て、みなそれぞれに巣立たせた。一番初めに家を出て行ったのは妹だった。それから弟の一人が続き、そして私も23歳のとき独り立ちした。そしてそれ以来ほとんど実家には帰っていない。

(独り立ちした、とはいっても熱が出たといって母に来てもらったりしていたから、完全に独り立ちしていたといえるかどうかは怪しいけれど、それはさておき)

「子供を育てるっていうことのは、いつかその寂しさを味わう日に近づいていくっていうことなのよ」

母になって母の気持ちがわかるというが、確かに。母も私たちが家を出て行ったときはきっとこんな寂しさを感じていたのだろう。母のラインからは「あんたにもやっとわかったでしょ、ふふん」という気持ちが滲んでいる。因果応報。巡る因果は糸車、巡り巡って風車。

さて。アパートの鍵貸します、と渡されたのはカードキー。へえ、イマドキね。女の子一人で暮らすわけだから、安全であることにこしたことはないけれど。

お部屋に入れるのは翌日からなので、今日は近くのホテルに部屋をとった。最近はインバウンドの影響で東京近郊ではビジネスホテルも取れないと聞いていたけれど、まあそこそこの値段で予約できたしラッキー、と意気揚々と部屋に入って驚いた。

うれしはずかしダブルベッドがひとつだけ。あらん。

いや、娘なんですけど。たしか予約とるときにシングルベッド2台の部屋を予約したはず……と思ってフロントに聞いたら、予約は確かにあってますとの返事。きっと私が予約を取るときに見間違えたのだろう。だいたい、予約サイトの隅に出る「あと1部屋です!」みたいなの、よくない。あれで慌てたんだと思うよ。

娘と一つのベッドで寝るのはもうかれこれ20年ぶりだ。小さかった頃はダブルベッドに娘と一緒に寝ていたな。そんなことを思い出した。こんなことでもなければ、たぶんもう、同じベッドで眠るなんてことはないだろう。

せっかくだからこの機会を楽しませてもらおう。

明日、荷物を搬入して新生活のスタートを見届けたら、私はまた大阪へ帰る。今度は一人で。



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