デザイン未経験の社会人がロンドン芸術大(UAL)に行って3ヶ月経ったよ。コース内容や所感とか。
moeです。
2021年の9月より、ヨーロッパ最大規模の美大であるロンドン芸術大学(通称:UAL)のグラフィックデザイン学科に、
社会人・デザイン未経験・留学経験なし・自費留学というバックグラウンドで留学をしています。
現在、無事冬休みに突入しました。
ここでは3ヶ月留学してみて、ロンドン芸術大学の授業ってどんな感じなのかを書いていければと思います。
(入学に至るまでの経緯は他の記事で書いていますので興味があればそちらで。)
Graduate Diploma Graphic Designコースについて
ロンドン芸術大学(英語: University of the Arts London 通称:UAL)は、
大規模な芸術学校となり数々の有名アーティストやデザイナーを輩出している学校です。
私はUALの中の一つのカレッジ、Chelsea College of ArtsのGraduate Diploma Graphic Designに通っています。
Graduate Diplomaと聞くと少し聞き慣れない方もいると思いますが、Master準備コースのようなものです。
学校によってはPremasterコースと呼ばれるもので、1年のコース修了後、コース生はほとんどMaster(修士課程)に進学します。
コースメイトはほぼデザインのバックグラウンドはないけれど、デザインの修士をとってキャリアチェンジを行いたい人が集まっています。
コースの内容としてはイギリスの大学3年生に相応するレベルで(イギリスはイギリスは大学が3年制です)、1年でデザインの高等教育を受けていない生徒をマスターレベルまで引き上げるというかなりハードなコースとなっています。
コースメンバーについて
コースメンバーは35名ほど、10人くらいがネイティブの子で、残りがアジア系。中国出身の5人くらいは現地からオンラインで受けていて1月から合流するそう。バックグラウンドはアート系・デザイン系から社会学やビジネス系出身の子など様々。
男性は2人しかいませんでした(驚き!)
コースは女性が多い一方で、UALのグラフィックデザインの講師陣はコースリーダー(女性)以外男性ばかりとコースリーダーが嘆いており、女性の社会進出が進んでいるイギリスでも偏りは未だにあるようです。
最初はぼっちかな、と泣きそうになっていた私ですが、グループディスカッションやワークショップが多いので、自然と国籍関係なくミックスしてみんなで話すことが多くなっています。(もちろん国で固まってしまうこともあるけど)
みんな優しいので私の拙い英語を聞いてくれます。雑談でわっとネイティブの子が話し始めるとついていけず、地蔵になるけど元気です。(そもそも日本でも複数人の会話になると地蔵になるので変わらん。)
この間はマルジェラのブーツ履いてたら1人のコースメイトとファッション話で盛り上がり、そこからたくさん話せるようになり、その子とその子の彼氏となぜか3人で美容室へ行きました。趣味って大事……。
1週間の授業内容
授業はほぼ毎日必修で入っています。
オンラインとオンサイトのミックスです。
スケジュールは以下のような感じ。
だいたい午前中10〜12時に必修が入ってます。日によっては丸一日あります。
Workshop(Mon)
コースリーダーによるワークショップ。
デザインの表現方法・考え方をワークショップを通して深めていきます。
例えば、色の分類を行い分類法を学んだり、キーワードを抽象的なイメージで表現したり、毎週デザインの手法を学べます。
Talk about(Tue)
コミュニケーションクラス。
事前にリーディングを行い、そのテーマに関するディスカッションやワークショップを行います。
毎週違うテーマが取り扱われ、「デザインの脱植民地化」や「スペクタクルの社会」という情報化社会において我々グラフィックデザイナーはどう生きていくかディスカッションしたり、現在の学校教育はクリエイティブの能力を伸ばせるシステムになっているかどうかのディスカッションだっり様々。抽象性の高い話題で面白い一方で、ディスカッションのスピードが速くついていくのが大変なクラス。
Technical Workshop(Wed)
インデザイン・イラレ・フォトショの基礎を学びます。(オンライン)
かなり基礎的なので、未経験の人でもついていける内容になっているかと思います。
Research Method(Thu)
デザインのリサーチメゾットを学びます。
基本レクチャー方式。どんなリサーチの仕方があるのか、リフレクションの書き方、エクスペリメントの方法例など実践する上で必要な知識を得られます。
Language Development(Fri)
インターナショナル向けの授業(オンライン)
プレゼンの仕方やエッセイの書き方を留学生向けに教えてくれるコース。英語でのエッセイの書き方について全くの未経験だったので、構成の仕方から教えてくれる授業に助けられています。
また、追加でゲストスピーカーによるレクチャーやワークショップ(リソグラフとか3Dプリンタの使い方だったり)が任意で参加できたりします。
プロジェクト(課題)について
1ターム目は以下3つのプロジェクトを行う形になります。
基本的に毎日の授業はプロジェクトに関連した内容を取り扱っています。
①Week1〜15:リサーチプロジェクト
9月末から1月末までかけて行われます。
こちらは、自分がどんなデザイナーになりたいか。どのようなデザインに興味があり疑問をもっているかをリサーチし続けるものです。
成果物はエッセイとプロセスブックです。
私はこの数ヶ月の講義で『ブランディング』とそれにつながる人の感情や心地よさみたいなものに興味を持ち始めたので、それに関するリサーチを進めていく予定です。
②Week5〜9:個人ワーク
こちらは11月に行われました。
『パブリックスペースの見えないものを可視化する』
というテーマが与えられ、制作を行いました。
私は「街中で感じる足裏の触覚を可視化できないか」と思い、そこから触覚に関する分類法のリサーチや、分類に基づいた可視化のルール付けなど行い、可視化されたイメージを道路上にペイントさせたモックアップを作成しました。
ありがたいことに講師からはかなり好感触のフィードバックを得られました。
結構ハードなワークで、最終Crit当日は多くのコースメイトが徹夜、もしくは数時間しか寝ていないかでした。(私も例に漏れず徹夜組)
③Week10〜15:グループワーク
3人組で制作を進めます。11月末から1月まで行われます。
テーマは「1つの街を選び、その街の変化に注目しブランディングする」こと。
こちらは進行中なのでまだ何も言えませんが、ロンドンでは多くの場所がGentrification(都市の高級化)という現象が発生しています。(場所で言うと、Deptford, Shoredich, Brixton)新たな商業施設や住宅の開発が行われ、地域の安全性利便性が上がる一方で、土地の価格が高騰化し、元々いた現地の人が去らざるおえなり、ローカルの文化が失われていく。といった事例が多く上がっています。
私たちはその変化に注目してビジュアルに落とし込んでいこうと考えています。(絶賛格闘中)
以上が1タームで走っている3プロジェクトです。
正直1ターム3つのプロジェクトって少なくない?と思われがちですが、毎日授業をこなしながら合間にプロジェクトをまとめる形になるので、余裕はあまりありませんでした。
2ターム目は5つのプロジェクトが走るそうなので、今からヒヤヒヤしています。
通ってみての所感
コースによってUALは評判が違うのですが、私的にはこのコースはかなり当たりのコースだったと思います。
私のコースではただグラフィックデザインの技術的な基礎を教えてもらえるだけではなく、グラフィックデザイナーが社会的にどのような影響を持つのかといった背景を考える機会がありました。
視覚言語は人に影響を与えやすく、グラフィックデザインは社会と密接に繋がっています。広告のように消費を促進するためにビジュアルが作られるのは勿論、政治や社会のイメージを変化させるためにも使用されます。
デザイナーはよくも悪くも社会に大きな変えていける可能性があり、知識と責任を持ち、デザインを行う必要がある、という気づきを与えてくれるコースでした。
また、修士の準備のコースなだけあって抽象的な事象から自分で課題を見つけて、デザインにしていくという自律性を養うようなコース設計がされているという印象です。
ただ、チェルシーはコンセプトから学ぶ・アナログ・プロセスが重視されているので、早く就職につなげたい子は少し不満げでした。(私はアナログ大好き、プロセスブック作るの好きな人間なので合っていた)
職業訓練的に最新のツールを使って、商業的なデザインをたくさん行いポートフォリオを充実させたい!みたいな人には遠回りしている感覚がするのは否めないかと思います。
自分も商業的なデザインが興味があり、そちらも正直やってみたさがあるけれど、来年のMaster でがっつり企業とコラボできるコースに入れればと思っています。
またLCCにもGraduate Diplomaがあり、そっちはデジタル重視・実践向きといった印象なので、そちらに興味ある人は調べてみたほうがいいかもしれません。
学校のサポートについて
UAL(特にChelseaは)丸投げ授業が多いと聞いていましたが、意外と(?)サポートはきちんとしています。
コースリーダーがとてもサポートが上手く、優秀な女性でとても頼りになるので、ここのコースに入ってよかったと思いました(基本的に仕事でもプライベートでも年上の女性が好き)
月一でコースリーダーとの必須の面談が行われ、プロジェクトに関する相談から自身の生活に関する相談ができます。
さらに、コースリーダーは毎週月曜の午後にスタジオにいるので、任意で相談したい場合は話しかけて相談することが可能です。私の場合はこの相談がペースメーカーになると思い、毎週コースリーダーのもとに通って進捗報告と相談をしていました。
また、作りたいものがあり、テクニカル面で不安があれば担当教員に連絡すると適切なアドバイスがすぐに返ってきます。(きて2ヶ月なのに何度もお世話になった)
それとコースによるかもしれませんが、私のコースは有志で生徒の数人がコースに対するフィードバックを行える掲示板を立ち上げて生徒が持っている要望を書き込めるようにしてくれていました。数日で50件以上の投稿があり(!)それに対してコースリーダーが1つずつコメントして今後のコース運営に反映してくれるようになるとのことです。
これによってスピードの速いディスカッションが留学生がついていける速さに修正されたし、より実践的なワークショップが生徒発で企画されたりするようになりました。
(※ただし、コースによってかなり違うらしいので、きちんと調べたほうがいいと思います。他のコースの子はコースの運営がうまく回っておらず困っている。とこぼしていました。)
そもそもデザイン未経験・英語ボロボロでついていけるのか?
授業内容は8割、英語は4割と言ったところでしょうか。
授業内容は、英語能力がそこまで高くなくても、デザイン学科特有の評価されるのは視覚情報となるデザインなので、リサーチをきちんとして良いものを作れば大抵評価されます。
私は昨年美術予備校に通ってたのですが、それがかなり役立っています。
本当本当本当にものつくりの基礎になっているので授業内容で迷子と言う状況はうまく回避しているかと思います。
リサーチの仕方・スケッチブックの書き方・迷った時の手の動かし方・エクスペリメントの手法、とにかく引き出しが増えました。また私は瞬発力があまりなく、考える時間が必要で手が遅いという制作スタイルというのも1年通って経験として知っていたのでメンタル的なマネジメントもできました。フォトショ等のスキルはもう少し向上させておけば良かったなと後悔しています。今絶賛格闘中です。
ただ、授業内容はなんとかついていけると言っても、やはり英語力は日本でできるだけ上げて行った方がいいです。私はIELTS6.0というギリギリのスコアで渡英したので複雑な話は聞き取りにくいし、伝えにくいです。
チューターのアドバイスが聞き取れなかった時はアドバイスを最大限活用したいのになぜ聞き取れないんだ!とストレスが溜まりまくりますし、友好的に話しかけてくれた子に対してうまく話が返せずもっと話せたら楽しいんだろうな、と後悔することが多くありました。
3ヶ月経った今、来た時より英語に対するストレスは無くなったかな、と思いますが引き続き格闘していくつもりです。
終わりに
初日のディスカッションは私以外ネイティブで話についていけず半泣きになったり、慣れたと思ったら人種差別的に講師からあって半泣きになったり(今度書く)、クレカ詐欺に合いそうになったり、定期無くしたと思ったら知らない奴が私の定期を使ってロンドンブリッジまで行っていたり(誰だよ!)しているけど、なんとかやってます。
デザインが好きで、好きな人が集まってそのことについて話せる環境はとても贅沢で貴重な時間だなと感じています。
また、授業で日本のデザインを取り上げられることが時々あるのですが、日本のデザインのクオリティの高さは目を見張るものがあります。また自然といいなと思うものが日本のもので、私は日本人なんだなー。と改めて気付かされます。留学してなかったら気づきにくかったので、自分の好きの曖昧な輪郭がより濃くなったように思えてすごいよかったなと思いました。
年末は日本に帰って焼肉食べたかったのですが渡航は難しそうなので、フラットにひきこもって英語勉強と来年のMA進学準備を行う予定です。
受験についてはこちらの記事で詳しく書いています。
また何かご質問あればTwitter@moesundayから連絡していただけますと幸いです。
ではでは良いクリスマスをお過ごしください。
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