見出し画像

綾凰華 AYA OKA Solo Live ep2

出演
綾凰華 (vo)
堀 倉彰 (p)
加藤 聡 (ds,per)
原口 梓 (vc)

綾凰華(あやな)さんは「Feel so good」で登場。昨年のディナーショーで森優貴先生とダンスを披露したナンバーで、ぜひ歌ってみたかったという。続く「プレイバックpart2」の、凄みのある声に唸る。男役から繋がる気風の良い歌いぶりと、よく通る高音の両方をものにしつつある。宝塚での研鑽があってこそ到達した境地である。そして、あやなさんの歌は今さらに変化を遂げようとしている。

「イエスタデイ・ワンス・モア」は不思議なことに「プレイバックpart2」に負けず劣らず昭和感が濃厚だった。こんなに若いかたの歌に自分はどうして強い郷愁を感じるのだろう。

考えてみて、あやなさんが10年余りを過ごした宝塚歌劇団が基本的に昭和的世界観を体現しているからではないかと思った。厳格な上級生ー下級生の関係が基本であること、トップスターを頂点とするこれまた厳格なハイアラーキー、男役を引き立てることに徹する娘役、トップコンビと男役2番手による三角関係を中心として極限まで様式化された芝居……。いずれも令和の今にあって昭和の世界がー良くも悪くもーそのままに保存されている。わたくしがカーペンターズの歌を最初に耳にしたのは昭和40年代後半、洋楽ではあるけれど歌とあの頃の空気感が自分の中で直結している。

だが、あやなさんの歌そのものは大きな変化の只中にあると感じた。あやなさんが新たに開拓しつつあるのは、一言で言うなら演劇的なアプローチというべきか。

今回歌われた「アンドレ・デジール」(メインテーマ「二人なら」では切ない物語が一瞬で蘇った)や「ミー・アンド・マイ・ガール」など劇中歌の場合は芝居の中の歌であり、前後のストーリーを推進力として借りて歌に繋げることができる。今回は、劇中歌以外も、同じ歌い方をしているように感じた。「愛の賛歌」(岩谷時子詞・越路吹雪歌唱版)などで顕著だったのだけれど、歌に描かれているストーリーに自身を乗せ、物語のもつエネルギーを上手に使って歌にもっていっているように感じられた。いわば芝居を踏切台にして自然な歌唱に繋げるというか。

歌唱のあり方としては、王道とは言えないのかもしれない。もしかしたら批判もあるかもしれない。おそらく、歌の助走としての芝居の部分がもっと肉体化・内化されていくと、さらに一歩先に進むことになるのではないか。そのためには、今回のようにじっくり歌と取り組む機会が欠かせないだろう(ですので、またぜひ歌をたくさん聴かせてください)。

今回のあやなさんの歌声は、昨年のソロ・ライブ、ディナーショーの時からさらに磨かれていた。どの歌も余分な力が入らず、聴きごたえがあった。

そして、あやなさんは、昨年(2023年)の痛ましい出来事についても、ご自身の考えを述べた。そのMCに続く米津玄師「地球儀」は遠くへ行ってしまった大切な仲間への想い、そしてこれから自身の道を進んでいこうという想いが丁寧に込められていた。

カーペンターズのほか、ナットキン・コール「L-O-V-E」など英語歌詞のナンバーも楽しかった。

今回のバンドはピアノ、チェロ、ドラム&パーカッションという珍しい編成。「アンドレ・デジール」を支えた堀氏のピアノが素晴らしい。原口氏のチェロは手堅く表情豊か。加藤氏のドラム&パーカッションは控えめながら要所を押さえ、引き締まったステージとなった。

あやなさんの歌はどんな方向に進んでいくのだろう。これからも可能な限り追いかけたい。(2024年6月1日 Cotton Club)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?