見出し画像

大貫妙子 コンサート 2023–東京公演–

バンドメンバー
小倉博和(G)、鈴⽊正⼈(Bass)、沼澤尚(Drums)、林 ⽴夫(Drums)、フェビアン・レザ・パネ(Acoustic Piano)、森俊之(Key)、網守将平(Key)

1曲目の「横顔」から、これまでと雰囲気が違っていた。いつものライブでは、たいてい最初の数曲はどこか不安定な、おぼつかない感じがあったのだけれど、今回は初めから、余分な力が入っておらず、落ち着いていた。何か、吹っ切れた感じ。

そのことは「新しいシャツ」の歌い出しにもよくあらわれていた。全く飾らず、無防備な、素の声に近いような歌いかたに、はっとした。この歌はごく個人的な経験による創作と聞く。もしかしたら、これを歌い切れるかどうかが、ご自身にとって一つの分岐点になるといった思いがあったのではと邪推した。2番からはいつもの歌に戻っていた。

今年たあさまーわたくしにとっては、あまりに畏れ多くて「たあ坊」と呼ぶことが憚られ、いつもこう呼ばせていただいておりますーは、かけがえのない人を喪った。心中お察しするにあまりある。そのこともあってだろう、MCでは、「(曲を書いたり歌ったりを)いつまでやるんでしょうね」とか、「もう辞めちゃおうかと思った」といったことを、ちらちらっとおっしゃる。けれどその都度、いや、でも、こんな素晴らしいバンドのメンバーに恵まれているのだから、「もう少しやりたいとおもいます」と語っていらした。そのことばは、自分に言い聞かせているようでもあった。けれども、歌っている時の表情はいつものようにとても幸せそうにお見受けした。大変僭越ながら、たあさまは音楽をすることで生きている、否、生かされているとさえ感じられた。

「虹」の「ひとりよりも ふたりを生きよう」という歌詞が切ない。

パネさんと2人だけのアンコール、「突然の贈り物」は教授と2人で開いたコンサート「UTAU」ー今回と同じ人見記念講堂だったーを思い出させた。

取り上げた歌の其処此処に、大切な人へ向けたことばがみつかる。それら一曲一曲をその面影に向かって丁寧に手向けているようにも感じられた。

今回、個人的にとても嬉しいサプライズは、アンコールの最後に「「Dreamland」を聴いてください」と言われたこと。ずいぶん長いことうたっていなかったのでは。「空想紀行」の最終回を聴いたのはもう30年くらい前か。歌詞に「ふりかえらない後ろ姿」などとある一方、「泣くのはよそう さがしにいこう」「時の彼方で出会う 虹の町で」と、別れと再生の歌である。

たあさま、どうかこれからも歌っていてください。きっとついていきますので。(2023年11月18日 昭和女子大学 人見記念講堂)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?