見出し画像

反復のOrientーOccident part2

•鈴木治行/Hiccup(1992)
岩瀬龍太(cl)、中川日出鷹(fg)

•ベルンハルト・ラング/Monadologie XXVII 「ブラームス変奏曲」(2013)  *日本初演
岩瀬龍太(cl)、松本卓以(vc)、川村恵里佳(pf)

•鈴木治行/海流の島々 (2022/委嘱新作)  *世界初演
岩瀬龍太(cl)、中川日出鷹(fg)、川村恵里佳(pf)、山田岳(gt)、迫田圭(vn)、松本卓以(vc)、夏田昌和(cond)

•ベルンハルト・ラング/DW 23d .... Loops for Dr. X, 日本版 ボリス・カーロフへのオマージュ(2022) *世界初演
岩瀬龍太(cl)、川村恵里佳(pf,key)、山田岳(e-gt)、迫田圭(vn)、松本卓以(vc)、磯部英彬(elec,sampler)、夏田昌和(cond)

鈴木作品(Hiccup)…ヒンデミットを思わせるような、無機的な響き(プーランクを研究していた当時の作との由)。予測を微かに裏切るリズムのずれが緻密に構成されていておもしろいけれど、趣向を十分に活かすにはもっと硬質な音色の楽器を選んでもよかったか。

ラング作品(Monadologie)…ごく細かく裁断されたブラームスの素材による断片の、リズムや音価が少しずつ変動していく。3曲目でクラリネットの微分音が出てくる辺りがおもしろい。ただ、こういった変形ならば、カール•ストーンによる諸作のような音素材の電気的加工でも可能な気がする。敢えて器楽でリアライズする意味合いは何だろう。考えているうちに終わってしまう。

鈴木作品(海流の島々)…短いパッセージが、楽器間でパートを交替しつつ執拗なまでに繰り返しされる。反復によって作られる大きなリズムに身を任せているのは心地良くさえある。しかし、アンサンブルの構成そのものは常に変わらないので、単純な反復を僅かに装飾したものに聴こえてしまう。近藤譲「視覚リズム法」は全く同じ曲の反復による作品で、各部分の差異はパートの加除のみだが、聴いた印象はそれぞれ大きく異なる。かの作品と引き比べると、本作はもっと聴かせようがあるように思われる。

ラング作品(DW 23d)…ヴァイオリン、チェロ、エレクトリック•ギター、バス•クラリネット、ピアノ/シンセサイザー、エレクトロニクスによるアンサンブル。ヴァイオリンとチェロは随時電気的に変調される。この編成の中では、どうしてもシンセサイザーとギターの電気的な音が前面に出てくる。これと対照的に、変調を受けないピアノとバス•クラリネット、それにヴァイオリンとチェロから時折聴かれる生音が次元を異にするもののように聴こえ、ふと現実に引き戻されるような感覚を覚える(この点では、前半の「モナドロジー〜」よりもはるかに実演の必然性が感じられる)。本作での反復はDJによるターンテーブルのプレイを思わせる。サンプリングされたカーロフの声などがさまざまに絡むことにより、音楽が反復しつつ少しずつ変容していく。

鈴木作品とラング作品は、反復が重要な役目を担う点で共通する。けれども、反復の持つ意味合いが微妙に異なると思う。鈴木作品では反復によって醸成されるリズムが重視されているように思う。他方、ラング作品では反復される中での素材の変容が意識されているように感じた。両者の作品世界における反復という過程の差異がよくあらわれていた。(2022年9月21日 めぐろパーシモンホール•小ホール)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?