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初夏の演奏会 2024Concert at Honen-in temple, Kyoto

出演
mama!milk
生駒祐子 アコーディオン
清水恒輔 コントラバス

照明 | 魚森理恵 (kehaiworks)
エッセイ | 村松美賀子 (月ノ座)
宣伝美術 | かなもりゆうこ, hand saw press Kyoto
協力 | David Blouin
制作協力 | (株)アクティブ ケイ
主催 | MUSICA MOSCHATA
題字 | 竹村愛 (竹村活版室)

前奏・本奏の2部構成の演奏会。

前奏はお二人とも庭のほうを向いて演奏する。み仏の領域に対して、丁寧に挨拶をするための儀式だと感じた。

最初に沈黙を破ったのは、清水氏が楽器の胴を叩く重い響き。生駒氏は庭の緑に音を溶け込ませていくかのように楽器を奏でる。風の音や葉擦れの音、それと時折聞こえる鹿おどしは自然の音(かじかと鳥の声は再生音か)。このユニットの姿勢は、それらを演奏に取り込もうとするのではない。逆に、それらの中へいかに静かに入り、溶け合っていくかという試行錯誤と見えた。一音一音、ごく慎重に試しながら音を綴っていく。

庭の奥のほうに、鎮守社の鳥居が見える。弁才天、吉祥天、摩利支天をお祀りしているという。方丈での演奏はこのお社への奉納でもあったか。善気山の名の通り、この辺りまでは庭は穏やかな表情を見せていた。

本奏の始まった頃は、庭の端にきれいな残照が見えていたが、演奏が進んで日が落ちると、山からは肌寒いほどの善気が降りてくる。自ずとその場にいる全員が音楽の中深くへと分け入っていく。穏やかだった庭、そしてその奥に立つ山が表情を変えるー正確には本当の表情が顕となる。山の、芯の部分では人間を寄せ付けない勁さ。生駒氏と清水氏はその力と対峙し、聴衆は息を詰めつつ見守る。程よく引き締まった心地よい時間である。

お二人は山の気と向き合い、その力を身体に取り込みつつ音を紡いでいく。激しいまでにうねる"Kujaku"、"ao"はいつになく深い海の青が浮かぶ。

プログラムも中盤までくると既に日は翳り、お二人の姿が宵闇に溶け込んでいく。二つのシルエットが奏でる、妖しい光を放つような"Waltz for Hapone“。かと思えば、徐々に形をとりながら、ついに完全な姿に至らずに終わってしまうワルツ。そして、蜃気楼のような"Sanctuary"。演奏の背景に常に山の気の力が感じられる。

アコーディオンの蛇腹の動く向きが反転する一瞬、音が途切れて間が生じる。今宵は、その間があたかも音の息絶える一瞬のように思われ、とても切ない感興が生じた。音の一つひとつが息づいていたのである。

このユニットが標榜する「サイトスペシフィックな演奏会」が、個々の場所との深い対話に基づいて構成されていることが明確に示されている。

アンコールとして、昂った心を鎮めるかのように"Your Slumbers"が穏やかに奏でられた。(2024年5月25日 京都・法然院 方丈)
※見出し画像は、終演後の庭園

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