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アンサンブル・コンテンポラリーα 定期公演2024 『独奏の妙技〜ハインツ・ホリガーを巡って〜』

【曲目】
■ ハインツ・ホリガー:   Sonate (in)solit(air)e (1995)  多久潤一朗(フルート)
I. Clôture ouverte(開かれた囲い)
II. Allemande(アルマンド)

■ 北爪裕道:ディメンションズ (2024 初演)  神田佳子(打楽器)
Dimensions (2024 WP)

■ ハインツ・ホリガー:Sonate (in)solit(air)e (1995)  多久潤一朗(フルート)
III. Courante(クーラント)
IV. La Bande de Sara(サラの楽団)
V. Bourrée(ブーレ)

■ 金子仁美:窒素—3Dモデルによる音楽XVI (2024 初演)  松本卓以(チェロ)
Azote - Composition par la modélisation 3D XVI (2024 WP)

■ ハインツ・ホリガー:Sonate (in)solit(air)e (1995)  多久潤一朗(フルート)
VI. Badines!-Ries!(バディヌ!リー!)
VII. La Poloniaise(ラ・ポロニエーズ)
VIII. Menu et Gigot(メニューと子羊のモモ肉)

■ 小坂咲子:ヴァイオリン独奏のための《蝶のエチュード》(公募作品・初演)  野口千代光(ヴァイオリン)
Butterfly Étude for violin solo(call for work WP)

■ ハインツ・ホリガー:Sonate (in)solit(air)e (1995)  多久潤一朗(フルート)
IX. La muse et la musette d'Oberwil(ミューズとオーバーヴィルのミュゼット)
X. Nicotin et Nicotine(ニコチンとニコチーヌ)

■ 斉木由美:彼は夢を見た (2024 初演)  遠藤文江(クラリネット)
Il eut un songe (2024 WP)

■ ハインツ・ホリガー:Sonate (in)solit(air)e (1995)  多久潤一朗(フルート)
XI. L'irréel au réel(非現実から現実へ)
XII. Passacanaille(バッサカナイユ)

■ 杉山洋一:対岸に (アンサンブル・コンテンポラリーα 2024年委嘱作品・初演)  塚原里江(ファゴット)
At the opposite shore(commissioned work by Ensemble Contemporary Alpha 2024)

■ ハインツ・ホリガー:Studie über Mehrklänge für Oboe solo (1971)  宮村和宏(オーボエ)

【主催】アンサンブル・コンテンポラリーα
【助成】芸術文化振興基金助成事業/公益財団法人 三菱UFJ 信託芸術文化財団 公益財団法人 野村財団/公益財団法人 花王芸術・科学財団 公益財団法人 朝日新聞文化財団/公益財団法人 ローム ミュージック ファンデーション
【後援】特定非営利活動法人 日本現代音楽協会、一般社団法人 日本作曲家協議会

「独奏の妙技」をテーマとして掲げ、ホリガーの「ソナタ・アンソリテール」の各小品と、邦人作品を交互に配置する、おもしろいプログラムである。

北爪作品…プログラム・ノートにあるように、スネア・ドラム一台でこれだけの音が引き出せる……というのは確かにその通りなのだけれど、個々の部分が羅列され、有機的につながらない。なんだかエチュードを聴かされているようだった。

金子作品…かなり長い間弓の先で胴のあちこちを叩くのみ。叩く部位によって確かに音色が微妙に変化する。しかし、チェロという楽器の大きな躯体を十分に活かせているかというと疑問がある。弦を弾く奏法に移っても、おもしろみは乏しかった。

小坂作品…先日、アンサンブル東風で聴いた新作に通う趣旨。ヴァイオリンの高音域でひらひらと蝶が舞う。が、どこまでいっても、全く曲調が変わらず、こちらの集中が途切れた。

斉木作品…プログラム・ノートに記されているとおり、作曲家のクラリネットという楽器への愛着がよく伝わる作。音の余韻など、美しい瞬間はあるのだけれど、全体としては新味がない。

杉山作品…ファゴットの音色をよく活かす書法で、聴き手を逸らさない。微分音など多用されていて、難曲とおぼしい。開始部からしばらくはリードを外して吹く部分と装着して吹く部分とが交替する。両者は戦火に包まれている「岸」の向こう側と、こちら側とを暗示するのかと感じた。奏者は切り替えを可能な限り手早くこなしていたけれども、どうしても間延びすることは避けられない。独奏での趣向としては適さなかったと思う。

ホリガー「ソナタ・アンソリテール」…フルートのための小品が12曲というと、テレマンの「無伴奏フルートのための12のファンタジー」を連想する。また、古い時代の組曲を模したような建て付けに「スカルダネッリ・ツィクルス」(1985)も思い出された。偽装された過去の創作を試みるような。

さらに、曲を聴いていくうちに、この曲はニコレの70歳を祝うプレゼントとのことだし、軽い、諧謔的な作品として書かれたのではないかという印象を強くした。やや羽目を外し気味の特殊奏法も散見されるし、特に第10曲「ニコチンとニコチーヌ」でのふうっとタバコの煙を吐くかのように息をついてみせたりする趣向などに、そうした曲の性格を感じた。

ホリガー作品「習作」…オーボエ奏者ホリガーならではの超絶技巧が次々に登場する。重音の響きは時に電子音楽をも思わせる複雑な響きをみせ、聴き惚れてしまう。

「ソナタ・アンソリテール」は一曲ずつが独立しているので、今回のようにいくつかに分割して演奏すること自体は問題ないと思う。しかしながら、それのみを紐帯としてプログラムを組もうというのは、あまりに寄りかかりすぎではないか。

また、今回のプログラムでは、メンバーの作品を中心に、新作を対峙させようとしているのだが、「ザ・独奏」のように身構えてしまうと、上述のようなホリガー作品本来の軽みと釣り合わない。しかも、「ソナタ・アンソリテール」はどれを聴いても、どの一瞬をとっても耳の鋭敏さが段違いで、失礼ながら新作群がどうにも霞んでしまう。プログラム全体としてバランスがとれなかった。
そして、締めくくりとしておかれたホリガーの「習作」に全部持っていかれた感があった。

フルートの多久氏の妙技に舌を巻く。オーボエの宮村氏も素晴らしい演奏を披露。

新作を初演した神田氏、松本氏、野口氏、遠藤氏、塚原氏はいずれも気持ちのこもった真摯な演奏。しかしながら、作品のほうが追いついておらず、残念。(2024年2月22日 東京オペラシティ リサイタルホール)

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