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向井響 作曲個展 美少女革命

作曲家の、30歳という節目にあたっての個展とのこと。

・ピアノとエレクトロニクスのための「東京第七地区」(2017)(小倉美春氏)
・無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ(2022)〜1.グラーヴェ(石原悠企氏)
・チェロとエレクトロニクスのための「マグノリアの花」(2023)
・無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ(2022)〜2.メロディア(千葉水晶氏)
・ユーフォニアムとエレクトロニクスのための「美少女革命 Drama Queens」(2022)
・尺八とリコーダーのための「二人静」(2021)
・美少女革命:本朝廿四孝 奥庭狐火の段 (2024)(世界初演)

出演者
向井 響(作曲・映像・エレクトロニクス)
長谷川 将山(尺八)
中村 栄宏(リコーダー)
佐藤 采香(ユーフォニアム)
千葉 水晶(ヴァイオリン)
石原 悠企(ヴァイオリン・ヴィオラ)
北嶋 愛季(チェロ)
小倉 美春(ピアノ)
田中 真緒(ピアノ)

乙女浄瑠璃:ひとみ人形座 亀野直美(八重垣姫) 鈴木文(後見)
録音協力:竹本寿々女(浄瑠璃) 鶴澤三寿々(三味線) 庄司絵美(ボーカル)
協力:(公財)現代人形劇センター

音響デザイン:島村 幸宏
照明:植村 真
チラシデザイン:阿部花乃子
制作補助:田中真緒

助成:公益財団法人榎本文化財団 公益財団法人東京都歴史文化財団アーツカウンシル東京 公益財団法人ロームミュージックファンデーション 公益財団法人ヤマノ文化財団

東京第七地区…エレクトロニクスが生の器楽音と一体となっている。ふっとあらわれる調性のあるフレーズが切ない。小倉氏によるピアノの切れ味が鋭い。

パルティータ…「民謡のリズムを抜き取り再構成した」グラーヴェ、ポルトガルの民族歌謡「ファド」の旋律を引用したメロディア」の2曲を演奏。バッハ作品で知られる様式に、イベリア半島の民謡の素材を盛り込んでいる。

マグノリアの花…電子音がチェロを侵食する一方、チェロが電子音を包み込んでいくところもあって興味深い。「リンゴの唄」・ヴィソツキーの歌唱と、チェロの動きがもっと有機的に繋がっても良かったか。北嶋氏の気迫の籠った演奏に拍手。

美少女 Drama Queens…非常に聴きごたえがあった。作曲者によるプログラム・ノートに、ユーフォニアムが「エレクトロニクスという鎧を纏ったユーフォニアムによって描かれる虚構の少女」とある通り、器楽とエレクトロニクスが継ぎ目なく一つになる瞬間が随所にある。ここで、エレクトロニクスの機能はもはや "accompany" ではなく、"ally" と呼ぶべき存在に近いと感じた。佐藤氏の、繊細かつメリハリのきいた演奏に感服。

二人静…テナーリコーダーと尺八による二重奏。管の長さがほぼ同じ、材質的にも親縁性がある二つの楽器だけれど、基本的なところで音色が異なるので、一音聴けば、どちらかわかる。二つの楽器が本体と影の関係をなすのだけれど、巧みに音色を寄せていて、しばしば主客を一瞬見失う。終始静かな緊張関係があって心地よい。二人の妙技に唸る。

奥庭狐火の段…西洋楽器のアンサンブルと文楽とのコラボレーション。正直に告白すると、あまり期待していなかった。しかしながら、乙女文楽の人形の繊細な動きと、芯の通った語りに、洋楽器群の奏でる音楽とが全く違和感なく溶け合っていて、どんどん引き込まれた。失礼しました。

この芸能となんとかして協働しようという作り手の真摯な姿勢がぐいぐいと伝わり、聴き手を凍結した諏訪湖へと導いてくれた。アンサンブルにユーフォニアムが加わり、前半の旧作との関わりの中で聴くことができた。それゆえ、クライマックスの直前に挿入される、美少女たちの動画のコラージュも、最初はえっと思ったけれど、不思議と自然な文脈が立ち上がっていて、観ているうちに違和感が消えていった。

奏者たちはいずれも作品に対する深い理解のもと、好演していた。

この作曲家の関心の一つは、さまざまなアプローチで、境界を溶かしていくところにあるのかもしれないと感じた。実際、「奥庭狐火の段」のプログラム・ノートにはこんなことばがある。「乙女文楽は人形遣いの身体の動きがダイレクトに人形に伝わり、人形遣いと、人形の境界線は曖昧になる」
西洋と東洋、西洋の中でも中央と地方、伝統と現代。そういった相対するものたちの垣根を取り払うと気持ちの良い風が通る。全曲を聴き終えたあとの余韻の爽やかさ。この作曲家の音をぜひまた聴きたい。(2024年2月21日 トーキョーコンサーツ・ラボ)

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