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林光メモリアル 東混八月のまつり44

・混声合唱のための「原爆小景」 作詩:原民喜 作曲:林光 
・ロス・カプリチョス 作詩:フランソワ・ヴィヨン 訳:天沢退二郎 作曲:林光 より第三十九歌(またしにはわかっている)、第四十歌(たとえ死ぬのが)、第四十一歌(死は死に行くものを)
・霧の夜に(新作委嘱作品) 作詩:小熊秀雄 作曲:寺嶋陸也 馬車の出発の歌、今日の仕事は、霧の夜、私と犬とは待つてゐた、夜の十字路
・混声合唱による「日本抒情歌曲集」より
波浮の港(野口雨情/中山晋平)、城ヶ島の雨(北原白秋/梁田貞)、椰子の実(島崎藤村/大中寅二)、浜辺の歌(林古溪/成田為三) 編曲:林光     

指揮・ピアノ・新作委嘱:寺嶋陸也 

恒例の「八月のまつり」、昨年はコロナ陽性者が出たとのことで残念ながら開催直前に中止となった。今年は無事開催されて何より。そして、久しぶりにマスク無しでの演奏であった。

原爆小景…寺嶋氏のアプローチは全体として、光さんが書いた譜面を、良くも悪くも可能な限り丁寧に(正確にとか、忠実に、ではなく)音に起こしていこうという姿勢かと感じられた。
第一曲「水ヲクダサイ」のクライマックスでは、特に女声パートの訴える力を感じた。昨年の中止も経て、歌い手たちの中にとても熱い想いがあることが伝わってくる。
第二曲「日ノ暮レ近ク」では少し遅めのテンポ設定で、クラスターが築かれていくさまをできる限り丁寧に描き出していた。が、後半はそれが裏目に出て失速し、間延び気味だった。
第三曲「夜」はあちこちからさまざまな声が聴こえてくるさまが非常によく表現されていた。殊に、「ユメノナカデ…」などのフレーズが畳み掛けられる部分などでは、空間的な広がりが体感できる。しかし、「火ノナカデ電柱ハ…」の箇所は丁寧に歌わせようとした結果、推進力を欠いていたし、終盤の読経を思わせる「真夏ノ夜ノ…」という男声のフレーズにおいても、丁寧にリアライズしようとするあまり勢いが失われていた。そのため、直後に女声の「オカーサーン」が被さってくる凄惨さの表現が弱まってしまった。
終曲「永遠のみどり」では、冒頭のソロ群とコロスの対話は非常に明確でここでは丁寧なアプローチが活きたけれど、全体としてはややもっさりした印象が残った。
極めて重いテーマの作品ではあるけれど、光さんはあくまで歌として書いたのだと思う。曲ごとの独自の響き、趣向に沿って丁寧に彫琢していくことはもちろん重要なのだけれど、それ以前に歌としての流れを滞らせないことが大切なのだと感じた。

・ロス・カプリチョス…天沢退二郎による、ややシニカルな訳詞が印象的。各曲は短いながら、それぞれ独自の世界がある。

・寺嶋作品…今回使用された小熊秀雄の詩は、魅力的な部分はあるのだけれど、全体としてことばの力がそれほど強くないと感じる。寺嶋氏は選んだ詩に対してごく几帳面に、ごく律儀に音楽をつけている。誠実な姿勢ではあるのだけれど、力のないことばが続いていくと、流石に冗長に感じられてくる。5曲からなる組曲の体裁だったが、曲数を絞っても良かったのではと思った。

・日本抒情歌曲集より…馴染みのふしにほっとする。東混のソリスト陣が好演。(2023年8月9日 第一生命ホール)

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