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アンサンブル・コンテンポラリーα定期公演2023 エクレクティック・アルファ ~ルイ・アンドリーセンに捧ぐ~

■ルイ・アンドリーセン(1939-2021)ドゥーブル Louis Andriessen: Double (1965) cl, pf
■鷹羽 弘晃(1979-)錬金術(初演) Hiroaki Takaha: Alchemy (2023 WP) mar, vib
■ルイ・アンドリーセン 絵画 Louis Andriessen: Paintings (1965) fl, pf
■川上 統(1979-)𩸽柱(初演) Osamu Kawakami: Tornado of Okhotsk atka mackerel (2023 WP) fl, cl
■桑原 ゆう(1984-)ビトウィーン・ジ・イン・ビトウィーンズ(初演/アンサンブル・コンテンポラリーα2023委嘱作品) Yu Kuwabara: Between the In-betweens (2023 WP / a commissioned work by Ensemble Contemporary Alpha) vn, vc
■ルイ・アンドリーセン ジルヴァー[銀]
Louis Andriessen: Zilver (1994) fl, cl, 2perc, pf, vn, vc

アンサンブル・コンテンポラリーα
フルート:多久 潤一朗
クラリネット:鈴木 生子
打楽器:神田 佳子・稲野 珠緒
ピアノ:及川 夕美
ヴァイオリン:佐藤 まどか
チェロ:松本 卓以

アンドリーセン作品「ドゥーブル」…いかにもかの時代、60年代半ばという感触の作品。終始緊張感のあるやりとりが展開される。突然不規則にあらわれる強奏が印象的で、この筆致はのちの作風に繋がるところがあると感じた。

鷹羽作品…極めてシンプルな素材による潔さ。神田氏・稲野氏の息の合った演奏が聴かせる。控えめに増幅される残響が、金属と木の音の混合をあらわし、実際には存在しない響きを提示して見せるかのようである。結局のところ、錬金術は見せかけに過ぎぬということか。せっかく電子音響を使うのなら、生音に襲いかかってくるくらいの趣向があってもおもしろかったのではなどとも感じた。

アンドリーセン作品「絵画」…特殊奏法も駆使しつつ、現時点で最も新しい形のリアライゼーションが展開された。多久氏・及川氏お二人の妙技に唸る。

川上作品…冒頭は民謡調の素朴な旋律を点描風に綴っていくかのようだが、徐々にやりとりが激しさを増し、特殊奏法を交えつつ複雑な展開をみせる。多久氏・鈴木氏の連係が見事。2本という極小編成のアンサンブルであるにもかかわらず、大きな運動体を眺めているかのようなスケール感がある。が、表面的な描写にとどまることなく、抽象的な音楽として聴きごたえがあった。

桑原作品…アルコによる部分と、ピツィカートによる部分は性格や表情が異なっていて、対比がおもしろい。プログラム・ノートに「複数の音楽時間フィールドからひとつの形を見出そうとする作品」とあり、それぞれのフィールドごとに奏法を使い分けているようである。ただ、事前に公開された作曲者のトークではタイトルにある“in between"(間・あいだ)に関心があると語られていたのだけれど、この部分は聴いていて今ひとつ掴めなかった。
「間」ということに関して、弦楽器のアルコ/ピツィカートという2つの奏法は、対照的なもの、別個のものと捉えられているけれど、例えば両者の「間」の関係性を掘り下げるなど、まだ検討の可能性があるのではなどと妄想した(極端に言えば、両奏法とも弦の振動の生成であり、発音のトリガーとなるアクションが持続的か瞬間的かという違いに帰着する)。

アンドリーセン作品「ジルヴァー」…冒頭、フルート・クラリネット・ヴァイオリン・チェロが、長めの音符で推移するところへ、ピアノ・マリンバ・ヴィブラフォンが不規則に裏拍で強打されていく。わずかにずれつつ2つの時間が流れていくようで、不思議な緊張感がある。後者のリズムが規則性を帯びるにつれて両群が接近していくと、独特のグルーヴ感が生じる。だが、二者は最後まで完全に一つになることはなく、それぞれに歩み去っていくかのようである。シンプルな原理によるとおぼしいけれど、最後まで聴き手を逸らさない。

最後の「ジルヴァー」はミニマリズムに近い音楽とも感じられるのだけれど、典型的なミニマル音楽におけるようにパターンが僅かずつ変化していくわけではない。ミニマル作品における推移の根源は、小さな齟齬、すなわち僅かずつズレるところにある。アンドリーセンによる作品にはズレることをー本作のように拡張してー顕に提示するところがあると思う(乱暴な言い方ながら、「根源的ミニマリズム」もしくは「ミニマリズム起源論」とか)。音楽の点画が極度に明確な故に、そうした特徴が際立つ。こう考えると、アンドリーセンを語る際に付される「折衷主義」という枕詞も、再考されても良いのではなどと考えた。(2023年3月22日 杉並公会堂小ホール)

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