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上野信一&フォニックス・レフレクション ヤニス・クセナキス 生誕100年 CD発売記念コンサート 

出 演:上野信一
悪原至 / 新野将之 / 曲淵俊介 / 峯崎圭輔 / 亀尾洸一

プログラム:オコOkho/ルボンRebonds A&B/プサッファPsappha/ペルセファッサPersephassa

上野信一氏の主宰するアンサンブルによる演奏会。それぞれ豊かな世界を持つ音楽家であることが感じられる。打楽器は奏者自らが音を作っていく楽器だと思う。それゆえ、一つひとつの音に、思考や思いがかなりはっきりと反映されるのだと想像する(その意味では、声楽にも近いのだろうか。いずれ改めて考えてみたい)。

オコ(曲淵氏、峯崎氏、亀尾氏)…真ん中の奏者(曲淵氏)がリードする形で進む部分が多い。部分ごとに奏法が変わる。手のひらのほか、スティックを使ったり、爪で弾いたりと、引き出されていく音色のバリエーションに驚く。

ルボン(惡原氏、新野氏)…aとbで奏者が交代。前半はマレット、後半は太いスティックが用いられるため、似通った楽器構成ながら、だいぶ雰囲気が違う。aの惡原氏の超絶技巧、bでの新野氏のパワフルなスティックさばき、どちらも惹き込まれた。

プサッファ(上野氏)…上野氏自作とおぼしい金属の楽器や、丸太の音が興味深い。特に後者は、耳に直接に刺さってくる鋭さがある。

ここまでの作品では、一つのリズムフレーズを持続させたり、少しずつ変化させたりしつつ進行するパターンが多いように感じた。フレーズ自体はごく単純で素朴なのだが、曲の中で妥協の無い強奏によって打ち込まれていくと、聴衆の深いところに突き刺さり、抉るように感じられる。それは、「打つ」という単純な動作の持ちうる幅広い表現力を極限まで引き出そうという作家の強い意志の反映であろう。そうした試みの集大成と言えるのが後半の「ペルセファッサ」である。

ペルセファッサ(全員)…6人の奏者が聴衆を取り囲んで配置される。冒頭、初めは同じタイミングで拍を打っていたのが徐々にズレが生じ、崩壊していくさまが印象的。また、後半に登場する、この曲の特徴である音像移動がはっきりわかる。欲を言えば、膜鳴楽器と金属製楽器が逆方向に回転する趣向は、後者の動きがもう少し明確だとなおよかったか。トゥッティで強奏になると、金属製楽器の高音が上方から注ぎ、膜鳴楽器は地面から湧き上がってきて、あたかも本当に暴風雨の中に身を置いているかのような感覚を味わった。今年夏のサントリーホールではステージ上、及び客席内にステージと同じ高さの櫓を組んでのセッティングだった。今回はずっとこぢんまりした会場で、しかも奏者が聴衆と同じレベルに陣取る。その影響もあって、印象は随分異なったものとなった。各種の楽器の生の音が直に聴衆の身体を包むことが大きいだろう。しかも、同曲をレコーディングをしているチームということもあり、呼吸が良く合っており、節目節目が気持ちよく揃う。膨大な量の音を全身で味わう快感があった。(2022年12月28日 南大沢文化会館交流ホール)

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