バシェ音響彫刻 特別企画展 オンライン無料Live配信特別コンサート

2020年12月12日(土)19:00– 京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA

ベルナールとフランソワのバシェ兄弟による音響彫刻の素材は主に金属で、無機物である。しかし、そこから紡ぎ出される音は、一般の金属製打楽器よりも遥かに複雑な響きを持つ。深く、時に柔らかで、時に荒々しく、単音でも実に豊かな表情を浮かべている。深い森や山、荒れている、もしくは静かな海辺といった自然の場面の中で聴かれる音にきわめて近いように感じられる。それゆえ、奏者が歌ったり、叫んだり、囁いたりする声とも親和性が高い。

わたくしは長く音響彫刻を実際に目にする機会がないまま、武満徹が大阪万国博覧会・鉄鋼館のバシェ作品のために書いた「四季」のLP・CDの音から流れてくる不思議な響きに夢中になった世代である。その聴覚体験の中で、この素材の無機性と響きの有機性との奇妙な対立の理由を知りたいといつも思っていた。

たとえば、今回の演奏では、途中、小泉八雲の『怪談』から「雪女」のエピソードが原文(英語)で語られた。バシェの音響彫刻が放つ音の中には確かに、荒れ狂う吹雪の音もかくやと思わせるものもある。それゆえ、かような趣向に出会っても、何ら唐突に聴こえることがないのだ。

それは、おそらく作者であるバシェ兄弟がさまざまな思索を経て、そういった自然音に近い音が引き出されるように各フォーンを設計したことによるに違いない。今回のアンサンブル・ソノーラによる優れた演奏を視聴していると、バシェが作品の中に仕込んだ響きを奏者が聴き出し、一つひとつの音として解き放っているように感じられたのである。

そうして考えてみると、武満徹が自作に「四季」というタイトルを付したことは非常に示唆的である。武満はバシェの企みを踏まえた上で、ほかならぬ自然の営みであり、さらには天体の運行とも深いかかわりをもつ四つの季節たちを-決して標題音楽的にではなく-精髄の部分を汲み取って表現しようとしたのではないか。

大阪万博に日本から出展されたパビリオン群は、この鉄鋼館(当時最新の音響技術を駆使した「スペース・シアター」)を含め、あたかも先端テクノロジーの祭典のような様相を呈していた。そもそも万博のメインテーマが「人類の進歩と調和」であり、会期中に日本初の「原子力の灯」が灯ったことは有名な逸話である。

ここでこんな夢想が浮かぶ。バシェ兄弟は、制作のために日本に滞在する間、パビリオンに合わせて金属による構成を作り上げた。だが、無機物の鎧の下には豊かな自然の響きを潜ませていた。そこにはもしかしたら日本国内で接した自然への思いもあったかもしれない。

そして、万博のメインテーマに対して、穏やかながら明確な異議申し立てをしたのではなかったか。……ちなみに、会場中央にあって、丹下健三の大屋根を突き破り、真っ向から「否(ノン)」をぶち上げたのが岡本太郎であった……。

優れた演奏により、バシェ作品に対して、新たな観方の可能性を与えてもらうことができた。

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