見出し画像

土橋庸人+山田岳 HYPER DUET II

プログラム
福井とも子 doublet Ⅲ [2017/2020]
寺内大輔 感情表現のエチュード [2005]
中野 和雄 色・走る [2019]
レノン=マッカートニー/渡辺裕紀子編 ヘイ・ジュード [2022]
鈴木治行 Parallel Movements [2020]
渡辺 俊哉 明滅する輪郭 [2023委嘱新作 / 初演]
山本 裕之 斜交葉理 [2022]

新しい表現のために地道に取り組み続けているお二人によるコンサート。このユニットのために書かれた作品を中心としたラインナップである。

福井作品…ストロークという奏法からどこまで音色の広がりを追求できるかという作品。音たちの多様性には目を見張るのだけれど、リズムの構造がほぼ一貫しているためか、音の見本帳のような印象に終わった。

寺内作品…本作で感情表現とされるのは、怒り、驚き、悲しみ、喜びなどごく類型的である。それと結び付けられている(非)器楽もクリシェ的で、紋切り型な音に聴こえてしまう。そして、非類型的な感情表出をどうあらわすかについては、考慮されていないように思える。細やかな表出行為のための「エチュード」としては物足りないのではないか。

中野作品…性格の異なるいくつかの部分から成り、一部調弦をずらすことで、不思議な形に歪んだ音があらわれる。スプーンで弾く、簡易プリパレイションなどで音色が微妙に変化するのはおもしろい。が、ずっと調子が変わらず、こちらの集中力が切れてしまった。

渡辺編曲作品…そのままの形での原曲は姿をあらわさない。揺蕩うような、薄い布が風に揺れるような音の動きは美しいのだけれど、どこまでいっても曲調に変化がなく、どうしたかったのかがわからないまま終わる(原曲の歌詞は失意のうちにある相手を力づけようとする歌。だから、「寄り添う」という意味合いならこういう優しげな音による表現もありうるかとも思う。が、「編曲」と呼ぶにはずいぶん遠くまできてしまっている気も)。

鈴木作品…2つのパートは限られた素材で形成されていて、両者はばらばらに進んでいくのだけれど、あるところでふっとユニゾンになって休止する。共通の素材がもう少し際立つとさらにおもしろく聴けるような気がする。

渡辺作品…全曲を通して控えめな音量で奏される。個々の音をじっくり味わうようなトレモロやハーモニクスが美しい。それぞれ2本ずつの弦が4分音ずらされており、非現実的な響きが魅力的。繊細な音たちを一つひとつ愛でながら深い聴取を堪能できる佳品であった。

山本作品…一貫して快速で進行する。ここでは一方のギターが3/4分音ずらして調弦されるが、それによってもたらされる歪な音響もおもしろい。細かいパッセージなどかなり難度が高そう。ドライブ感があって飽きさせない。

お二人の豊かな表現力と高い技量を十分に楽しめる内容だった。譜面の高度な要求にも真摯に応えていく姿勢が貴い。ただ、このユニットの資質・性能と作品との釣り合いが今ひとつな部分があり、いささかもったいないなと感じられた。(2023年10月12日 ティアラこうとう・小ホール)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?