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年末2日間の現代音楽フェスティバル Cabinet of Curiosities 2022《New Performative Music》

クリスティーヌ・ヒョーゲション (1982-):中心はどこにでもある (2016)
渡辺 裕紀子 (1983-):のの字 (2012)
宗像 礼 (1976-):Dro ( 世界初演)
スティーブン・カズオ・タカスギ (1960-):奇妙な秋 ( 日本語版世界初演)
ハンナ・ハートマン (1961-):境界線 (2009)
アレクサンダー・シューベルト (1979-):ハロー (2014)

〈出演〉
太田真紀 ( ソプラノ、その他)、沓名大地、安藤巴、茶木修平 ( 打楽器、オブジェ、その他)、山田岳 ( ギター、その他)、白小路紗季 (ヴァイオリン)、佐原洸 ( エレクトロニクス)

【主催】Cabinet of Curiosities

"New Performative Music"がテーマということで、"performative"「遂行的」という意味合いからすれば、演奏者(performer 演奏者/演者)の身体の動きがそのまま音/音楽となる、といった趣旨かと推察した(渡辺裕紀子氏の挨拶によると、「作曲/演奏」「音楽/演劇」などの「領域を越える」ことに主眼があるとのこと。とすると、当方の解釈は少々曲解気味なのだけれど、このまま記すこととします)。打楽器を用いた作が多めとの由を渡辺氏による事前の告知で読んでいたが、自然な帰結と思う。

実際、前半は、打楽器が中心。ごく小さな音に耳を澄ます行為そのもののおもしろさが味わえる。

ヒョーゲション作品…3人の打楽器奏者が一つ一つの音を慈しむように紡いでいて、独特の雰囲気に浸ることができた。タイトルは生物多様性の思考につながるものか。

渡辺作品…演奏に先立ってのトークで、身体を楽器と見なし、物である楽器との関係性を追求した、といった趣旨の説明があった。曲は、静々と入場してくる3人の奏者が腰のハンカチを捌き、それを手に各自の前に置かれたドラムのスキンにのの字を描くところから始まる。一連の所作は茶道の点前を下敷きにしたものかと思われた。ただし、発音体はもっぱらドラムなので、身体を楽器として極限まで使うところにまでは至っていない印象であった。

宗像作品…ヴァイオリン奏者と3人の打楽器奏者の発する音は増幅されるので、囁くような音も明確に聴取できる。紡ぎ出される音は魅力的なのだけれど、新味は薄いか。大豆を撒く趣向はよくわからなかった。

タカスギ作品…テーブルの前に座った2人の奏者の1人はテクストを読み上げ(太田氏)、もう1人は机上のリーフレットなどを動かす(山田氏)。後者の音はかなり大きく増幅される。太田氏の抑えた表情、山田氏の紡ぐ繊細な音、いずれも聴きごたえがあった。テクストはヴィーラント•ホーバンによる詩"LEAF-WORD / BLATT-WORD"で、英語とドイツ語を混交させたものである。"leaf" も"Blatt"も多義語で、「葉」と「ページ」の意味を持つ。一点気になったのは、今回日本語訳が用いられたことである。翻訳にはかなり苦労があったとのことだけれど、日本語に置き換えた場合、意味ごとに別語になる。日本語話者はこの2語に関してダブル•ミーニングの感覚がないため、おそらく詩のニュアンスは何がしか減じられてしまう。

ハートマン作品…ヴァイオリン奏者は、終始弓を弦全体を擦り、不思議な音を立てる。2人のオブジェ奏者が扱うのは、植木鉢と立てられた細い金属棒である。鉢を長い金属製のスティックで擦る。また、細い棒の先端に金属のリングを通すと、棒に細かく当たりながら落ちて、ジャラジャラという音を作る。擦る動作も打楽器の奏法の一つなので、ここでも、また先の宗像作品でもヴァイオリンが打楽器として扱われているのだと気づく。聴こえてくる音は素材の手触りをそのままうつすもので心地よい。ただ、作品としての構築性はやや弱いか。

シューベルト作品…「スクリーンに投影された映像がアンサンブルにより解釈されるスコアとしての役割を持つオーディオビジュアル作品」(プログラム•ノート)である。4人の奏者(太田氏、白小路氏、山田氏、安藤氏)のキレのある演奏が楽しい。

ここにきて、結局「音楽作品」とされるものはみな"performative" という帰結に至るような気がした。ちょうどオースティンが、発話行為に関して、"performative" (遂行的)と"constative"の区別を破棄したように。言語表現のポテンシャルとして"performative/non-performative" の区分はありうるというのが私見である。したがって、“performative music"という概念はさらに考察の余地があると感じた。(ドイツ文化会館1階ホール)

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