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エッセイやコラム

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自分はおもしろいと思っているけど他人が読んだら全然おもしろくなさそうなことを胸を張って書いています
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雑穀ごはん

午前の仕事がひと段落し、私は少し早いランチをとることにした。オフィスを出て当てもなく歩いていると、いつも行列のできているカフェが店を開けたばかりのようで、まだ誰も並んでいなかった。せっかくだからと店に足を踏み入れると、黒板に手書きの文字で3種類のメニューが書かれているのが目に入った。 日替りランチ(チキンソテー) お肉ランチ(ビーフシチュー) お魚ランチ(サーモンムニエル) メニューの端には小さく『白ごはんか雑穀ごはん』と書いてあった。注文を取りにきた店員に私が「日替

チャリの逆走とナニワの愛想

東京で暮らしていたころ私は近距離の移動手段としていつも自転車を利用していた。大阪に引っ越してきてから1年ほどになるが近場の移動は変わらず自転車に乗っている。自転車には移動手段としての利便性だけでなく季節の変化を肌で感じられたり手軽に気分転換ができるという利点もある。引っ越してきてからは自転車に乗りながらこの街の魅力を探るという楽しみも加わった。 大阪には8車線もあるのに一方通行の広い道もあれば車1台分の幅しかないのに対面通行の道もあり自転車の機動力を存分に活かすことができる

ヒットソング

録音ブースの重い扉を閉めると部屋は一瞬真空状態になったかのように静まり返った。私は振り返って椅子に座り左側の少し低い位置にかけられているヘッドホンを手にとって付けた。ギターパートのレコーディング開始からは2時間が経過しようとしている。右側に置かれているギターを手に取るとヘッドホンからプロデューサーの声が聞こえた。 「準備はいい? 次で決めよう! 」 私は、 「はい。お願いします」 とマイクが拾える程度の声で返事をしてギターのピックを持ち直した。 演奏が終わりしばらくするとミキ

一見の客

レトロな商店街で有名なこの街に越してきて半年。元々街歩きの好きな私がこの商店街にある店を把握するのにさほど時間はかからなかった。それでも路地の多いこの商店街。まだあと1年くらいは散策を楽しむことができるだろう。 11月15日木曜日午後5時。気温16°C。この日は仕事を少し早く終えたこともあり商店街をぶらぶらしてから帰ることにした。この街に来てまだ半年。季節や時間が違えば景色も変わって見える。何か新しい発見はないかと周りを見ながら歩いていると今まで気づかなかった路地を見つけた

生きること、または、書くことについて

私は書いていない。少なくとも文章は。私だけでなく多くのビジネスパーソンも同じだと思うが今は“書く”のではなく“打つ”という行為で思考は形になり言葉は文章に変わる。 むかし誰かから「手書きで書いてこそ思いが伝わる」と言われたことがある。手書きで書いている途中に修正が必要になると消しゴムで消すか新しい紙に書き直すことになる。私はその行為に意味を感じない。大袈裟に言えば消しゴムで消す作業をしている間は間違えたことに対して罰を与えられているのではないかという感覚にさえなる。それでもど