Age factory アルバム解説
「手を振る」
記念すべきファーストEP。イースタンユース、ブラッドサースティブッチャーズからの影響を強く感じさせるサウンドの中に、清水さんの持つロマンティシズムを全面に押し出したメロディが詰めこまれている。この時点で言語感覚としてはすでに白眉のものがあり、特にアルバムタイトルの感性にはノックアウトされる。歌詞で「彼女に手を振った」と書くことはよくあるが「手を振る」という言葉でアルバムを締める姿勢が良い。タイトルはもっと情景的な言葉、例えば「八月の海」のような言葉をつけたくなるが、そうすると自分の感情に浸っている感じが出てしまう。(それはそれでもちろん素敵だが。)しかし、「手を振る」という言葉で切ると語り手の芯の強さが伝わりなおかつ行為を表す表現だから背景的な関係を想像したくなって広がりが生まれる。こういう現実にしっかりと向き合う肉体感覚の強さがageの魅力である。
「nohara」
オルタナ色が強まったセカンドEP。世界観からなんとなく初期のエレカシが連想される。「海を見たいと思う」という曲はageが海がない奈良のバンドであることを知って聴くと深みが出るだろう。ここにないものを求める感覚に強く共感できるかもしれない。「海を見たい」ではなく「海を見たいと思う」と記すところにこぼれ落ちてくるような詩情がある。
「River」
新しい軸を模索しながら届けられたサードEP。ラスト二曲が素晴らしい。left in marchでは街と君の描写から季節に取り残させる感性を浮き彫りにする。「知らないような人になったね 思い出せないよ」「よく行ったあの南口の本屋も知らないうちになくなって空き地になったよ もうどうでもいいけどね」から透けて見える時の残酷さは次曲に繋がっていく。
ホーンの入れ方がthe replacementsを感じさせるラストのsundayは狭い二人の男女の世界を描きながら逆説的にこの上ない人生讃歌になっている。それはこの曲のサウンドの持つ全てが、現実をしっかりと見つめる誠実さから生まれる極限まで削ぎ落としたピュアネスに溢れているからだ。筆者はこれ以上甘くて愛情に溢れたメロディは知らない。
「Everynight」
コロナ禍に製作され内省的なエネルギーを持った3rdアルバム。バンドサウンドの成熟によってメロディの美しさも掛け算的に伝わってくる。
踊りという肉体性に救いを見出すdance all night my friend。冷たいベースが先導しながら存在しないはずの海を望むhigh way beach。インディーロックの持つ軽さのように愛情をあくまでドライブのワンシーンから描くmerry go round。シンプルなコード進行の中に地方都市との燻んだ別れを綴るpeace。現実感を掴めない羅列した言葉からバンドのハードコアな一面を届けるclose eye。攻撃性を自己に向けるというアティチュードが現れた今作品一番のパンクナンバーであるkill me。ドリルのバンドサウンド解釈として衝撃を与えるeasy。ロックバラードとして青年期の男女の狭い世界を描くevery night。跳ねるドラムが世代感覚の一体さを生む1994。喪失への否認を高らかに歌うアンセムnothing anymore。
ここにあるのは安易な共同体感覚に陥らない真摯な視座から生まれてくる青と灰色の詩情である。それは剥き出しになった青臭い響きではなく、むしろ抑え込んだ感情の咆哮といえるかもしれない。
「songs」
2024年にリリースされた待望の5thアルバム。音像は結構外向きで2000年代リバイバル(メロコア、ミクスチャー)の香りを届けてくれる。
人力トラップのようなビート感覚からロックの開放感へ突き抜けるblood in blue。死んでしまったメロコアを現代に甦らせるshadow。クラブミュージックの中にあるベースの野太さが気持ち良いparty night in summer dream。歌心のあるドラムリフが曲を引っ張っていく青いバラード、向日葵。エモの持つ青臭さをシンガロングさせるsongs。エラー音のようなギターが憂鬱な90s味を届けるi guess so。「彼女は去った」それ以上でもそれ以下でもない詩情を結集させてみせた新たなアンセムshe is gone。レイヤーのようなギターの中で死生観にまで目線を広げるlonely star。90sオルタナを直情的にツインボーカルで構築したalice。簡素なバンドサウンドから日常への回帰に挑んでみせたhallelujah。
今作品は歌に寄り添ったバンドサウンドが印象的。ドラムパターンの多彩さとベースの音作りが今までで一番裾野の広いアルバムになっていることに貢献している。詞世界の方も普遍的なものになっていて過去作より大人な情緒を感じさせる。

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