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「子供はわかってあげない」について語りたくなったやつ


作品についてのネタバレが含まれているのでご注意ください。



先日結構前に見た「子供はわかってあげない」という映画のラストシーンを見返す機会があったのですが、再度胸を打たれ魅力を伝えたくなりました。この映画の原作は雑誌モーニングにて連載された田島列島さんによる上下巻の漫画です。モーニング公式の作品紹介は以下の通り。

ひと夏の自由、はじまりはじまり。
「KOTEKO、好きなのか?」 
「ああ、かなり」
サクタさん(水泳部)ともじくん(書道部)は学校の屋上で出会った。読むとうっかり元気になる、お気楽ハードボイルド・ボーイミーツガール、開幕なんです!水泳╳書道╳アニオタ╳新興宗教╳超能力╳父探し╳夏休み=青春(?)。モーニング誌上で思わぬ超大好評を博した甘酸っぱすぎる新感覚ボーイミーツガール。センシティブでモラトリアム、マイペースな超新星・田島列島の初単行本。出会ったばかりの二人はお互いのことをまだ何も知らない。ああ、夏休み。

モーニング公式ホームページ


これだけだとなんのこっちゃわからないんですけど、主人公の高校生の女の子には今ある家庭(実の母親と血の繋がらない父と弟)とは別に昔母親と離婚した実の父親がいて、その父親から連絡らしきものがくるんです。それで父親を探そうと探偵を雇うんですが、父親が新興宗教の教祖だったらしいという情報が入ってきます。探偵を紹介してくれた同級生の男の子と共にそこら辺を探っていくというのが大まかなストーリーになります。こう設定を文字に起こすと割とセンシティブなテーマなんですが絵柄と話の作り方の柔らかさによってとてもマイルドに読むことができます。過度に鬱屈にならずに、それでも重たい主題を昇華しているのがこの作品の魅力です。


漫画原作がある映画というのはキャラと配役の不一致など様々な問題が生じてとても難しいです。しかし今作品は原作がそもそも短く映画の尺としてちょうど良かったり、キャスティングされた俳優さんが素晴らしかったりと、とても良い映画になっていました。映画の解説は以下の感じ。

田島列島の人気同名コミックを上白石萌歌主演、「南極料理人」「横道世之介」の沖田修一のメガホンで実写映画化。ひょんなことがきっかけで意気投合した美波ともじくん。美波のもとに突然届いた「謎のお札」をきっかけに、2人は幼い頃に行方がわからなくなった美波の実の父を捜すことになった。女性のような見た目で、探偵をしているというもじくんの兄・明大の協力により、実の父・藁谷友充はあっさりと捜し当ててしまった。美波は今の家族には内緒で、友充に会いに行くが……。主人公・美波役を上白石、もじくん役を「町田くんの世界」の細田佳央太がそれぞれ演じ、豊川悦司、千葉雄大、斉藤由貴、古舘寛治らが脇を固める。

映画.com



個人的な感想として、とにかく俳優、女優さんが素晴らしいというのが第一にきました。まず主軸となる水泳部女子(美波)と書道部男子(もじくん)という組み合わせの青春を描くに当たって上白石さんと細田さんは最高の人選でした。

水泳部に所属しているオタクという、体育会系と文化系を兼ね備える難しいキャラクターである美波に、上白石さんの溌剌さと知性の両立した存在感がとても合っていました。加えて家庭環境から来る微妙な繊細さも同時に表出していてすごい女優さんだなと思わされます。

書道部男子を演じる細田さんは「町田くんの世界」という少女漫画の映画化にあたって出てきた逸材で、朴訥としているんだけど嫌味の全くない純度100%の優しさのようなものが滲み出ていて、初めて見た時から衝撃でした。今作品でもそれは生きていて他者に対しての思いやりの深さ、多様性の許容量の深さがただそこに立っているだけで伝わってきてこれは美波さん好きになるわって思いました。

また、もじくんのお兄さんで女装をする役回りにフェミニンな雰囲気が持ち味な千葉雄大さんを配したり、美波のお母さんに少しの危うさを感じさせる斉藤由貴さんをキャスティングするところが憎いです。特筆すべき点はトヨエツ(愛称呼びすいません)が新興宗教の教祖だった美波の父親という難しい役どころをこなしていたところです。明らかに顔の造形が普通とは違うので、いい意味で周りと浮いていてキャラにぴったりだと思いました。

ストーリーも語りたいんですけど長くなってしまうので、ここではラストシーンだけ語りたいと思います。なんやかんやあって事件が解決したことで接点がなくなってしまうことに気づいた美波が屋上にいるもじくんに会いに行きます。告白をしようとする美波ですが、彼女は緊張すると笑ってしまうという癖がありすんなりと伝えることができません。

このシーンの何度も笑ってしまう上白石さんの演技はコミカルでありながら少し痛々しいです。ストーリーを追ってきた人には彼女の癖が一種の防衛機制的な動きとして映ります。「ごめんね。馬鹿にしてる訳じゃないの。」と謝る美波に対して、「わかってる。」ともじくんは優しく返します。ここのもじくんの表情が優しすぎてまじでいいです。アオハライドの映画と比べて見たので演技の差に愕然としました。(唐突のディスすいません。)どうしても言えない美波に対してもじくんが目を覆ってあげた後でやっと告白することができます。この時の上白石さんの涙で潤んだ目が本当に綺麗です。感情を押さえつけてしまう傾向のある人間から漏れ出した涙って感じでグッときます。笑ってしまうという設定は上辺だけで使うととても軽薄になる危険性があるからこそ、美波というキャラクターに誠実に向かいあった製作陣の方々に拍手を送りたいです。

作品としては、受け継ぐというテーマであったり、性や好みの多様性の許容、血の繋がらない家族の葛藤、など詳しく書かれないけど背景的に読み取れることが可能な範囲が広くあります。その上でわかりやすくガールミーツボーイとしても読めるのでおすすめです。みなさま夏休みにぜひご覧ください。

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