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ローグライクハーフリプレイ

 

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『蜂竜の森~竜の蜜は危険なお味~』                       D33シナリオ   

  作/ ロア・スペイダー       刊/ FT書房
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d33シナリオ『蜂竜の森~竜の蜜は危険なお味~』は上記『巨大樹の迷宮』に併録されています!

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シンプルかつ適度に奥深いルールおよびゲームシステムの詳細はコチラ。

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ローグライクハーフリプレイ
『蜂竜の森』異聞・其の壱

弓手ゆんで使いか。
雇い主と左手の握手を交わしながら口髭の剣士は思った。
プルガリサと名乗るこの女は売り出し中の冒険者であると聞く。
女は探索行に加わる者たち一人々々に無言で左手を差し出す。
年かさの兵士は他の者が順繰りに雇い主と握手するのを横目に、町場習いの挨拶なぞ兵者つわものが出立にそぐわぬと鼻白はなじろんでいた。
ところが泰然と手を差し出す女を前にしてみると、その佇まいに等閑なおざりとはできぬものを憶え、彼はぎこちなくそれに応じる。
やがて従者たちは一同のうち、ただ一人握手をしていない者のあることに気づく。
頭巾を目深に被り、襟巻きで口元を覆ったその男は太刀持ちの役廻りだ。
常に雇い主のやや後背にはべる様子から、この者たちはどうやらえんであろうとうかがえた。
にもかかわらず、二者の言葉を交わす様をついぞ目にせぬのはいささか妙ではあった。
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■この世界の片隅からごきげんよう、蒙太 辺土(もうた へんど)と申します。
この記事は『蜂竜の森~竜の蜜は危険なお味~』リプレイの第1回となります。
ローグライクハーフ(R.L.H)のリプレイを書くのは初めて、というかリプレイそれ自体を書くのが初めてだったりするのですが、楽しみながらやっていこうと思います。
その初めてに『蜂竜の森』を選んだのは、怪獣が好きだからです。
未就学児童っぽい理由で気を失いそうですが、巨大クリーチャーに等身大ヒーロー(と、お供たち)がいかに対するか?という胸踊る展開が待っています。
もうひとつの理由はこの作品がd33という短編に属するものであることです。
遅筆にして継続力に難ありの人間が中途で投げ出さずリプレイを書き抜くには極めて妥当な選択というものです。
『蜂竜の森』はショートシナリオながら、ハッとさせられるナイスなアイディアが高密度で搭載されています。
R.L.Hは作家の織り成したシナリオを楽しむゲームであると同時に、プレイヤーが生み出した主人公の物語を夢想する装置としても機能します。
それもそのはず、R.L.Hは“1人で遊べるTRPG”なわけですから。
TRPGは物語バースマシーンをマスターとプレイヤーが強力して駆動させる側面を持つものですよね。

何か書いてみたい、と思いつつゼロから始めるのは敷居が高い、荷が勝ちすぎる。
そう考える向きにR.L.Hは格好の材料となりましょう。(私がそうだというわけではありませんけっしてまったく)

では遅ればせながら当リプレイにおける主人公のご紹介です。

“獣渡り”のプルガリサ
性別: 女性
年齢: 少女ではないが大人の女性というには少々若い
出自: 異郷 (北米先住民に近いが違うところもある架空の文化圏)

職業: [怪物狩猟者]
Lv : 10
技量点 [2] : 2
器用点 [4] : 4
生命点 [4]+3 : 7
従者点 [6] : 0

攻撃判定+1 (技量+2, 軽武器-1)
防御判定+2 (技量+2)
射撃判定+1 (技量+2, スリング-1)
器用判定+3 (技量+2, 革鎧+1)

【装備】
武器 / 鉈刀(軽い武器, 斬撃, 攻撃判定-1)
/ スリング(投擲武器, 打撃, 攻撃判定-1)
防具 / 革鎧 (生命点+2, 器用判定+1)
/ 木盾 (生命点+1)

【特技】
[二の太刀], [宝物の獲得], [捕獲網]

【従者】
剣士(技量1, 斬撃) 1
兵士(技量0, 斬撃) 2
兵士(技量0, 打撃) 1
荷物持ち 2
太刀持ち 1
食糧 / 2
金貨 / 0

と、こんな感じの女性キャラクターにしてみました。
造形の発想としてはまず[怪物狩猟者]をやりたい、そう考えたときにふっと浮かんだイメージがアメリカ先住民っぽい姿の女性。
この辺はあくまでふんわり上等。
要はプレイヤーである私が、こいつはちょっと面白いぞと思えればそれで充分。

次にステ振りです。
[怪物狩猟者]の初期装備の武器は[軽い武器]で、つまり攻撃判定に-1の修正がかかります。
これは筆者の狭量に尽きる個人的嗜好なのですが、肉弾戦を行う主人公の攻撃力が従者くんたちより低いというのはちょっと…ということがあり、技量点は最低でも1点欲しいと考えました。
そうなればつましい話は無用にて、ここは鬼の全振りと相成るのはもはや摂理。
あっという間に10点中8点の経験ポイントを技量点2点に持っていかれました。
残る2点の経験点に関して私には選択肢がありません。
キャラクタークラスを特徴づける特技使用のリソースたる[器用点]、これにすべて突っ込むにしくはなし。
特技は[二の太刀]、[宝物の獲得]、[捕獲網]を秒で決定。
狩り、そして獲るという現世利益まっしぐらのスタイルです。
手持ちの金貨は剣士1名の雇用とスリング購入ですっからかんとなり、残る従者枠は無料で編入OKな兵士3、荷物持ち2、太刀持ち1としました。
今回の従者選択のポイントは二つ。
敵するクリーチャーの特性に広く対応するため兵士の武器を斬撃、打撃の2種に分けたこと。
そして首尾よくクリーチャーを捕獲できた場合に備えて荷物持ち2名を組み込んだことです。
さて、ここまではわりとすんなりできました。
問題はこのあとです。
RPGのキャラクター作成において、名前の決定はガチ長考マジ苦戦の泥沼化を避け得ないのが筆者の常なのですが、引き出しの中身と言えばいつもすかすか。絶望的に知見の乏しいアメリカ先住民的な要素も欲しい気がする…
結局まる三日を要したのちに、とある怪獣の名を二文字だけ入れ替えて主人公名としました。
当初に想起された要素など微塵もありませんね。
でもまあ、字面と響きが私的にしっくりきたのでよしです。
“獣渡り”のプルガリサ、どうぞよろしくお願いします。

さて、いざ本編へ移る前にひとつご説明を。
当リプレイは“物語”と“メタ語り”の二系統の文章で構成されています。
筆者がR.L.Hをプレイし一喜一憂する様子とともに、賽の目に翻弄されつつ物語らしきなにがしかを捻り出す悪戦苦闘の様をご笑覧頂けたらと考え、そのようにしてみました。
以下、物語文の始めに◇、メタ語りの始めには■の記号を添えおきますのでご了承頂けますれば。

〔 口上挨拶〕
六眼神ろくがんしん”思し召す混沌の夢、即ち賽の目。
凡夫の思惑余所よそとして、無情の出目の成す因果。
右往に左往、七転八倒その末に、牽強付会けんきょうふかいの禁域に臨まん。
『蜂竜の森~竜の蜜は危険なお味~』リプレイ開始です。

Opening theme [Human behavior] by Bijok
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◇クックロッドは“小さき人”だが、その懐は深い。
プルガリサは依頼人をそのような人物として了解している。
彼は立派な構えの店を営む著名な料理人であり、このカラメールという街にあって唯ひとりの友人だ。
その彼が“蜂竜の王蜜”のことを語りしおりに見せた眼に宿る光と熱。
何をおいてもせざるを得ないこと、たった一人となっても求め続けるだろう欲動が胸の内でさざめく者は見えざる翼を持つ。
プルガリサは友の翼に肯ううべな風を送ろうと決めた。

矮躯わいくの大料理人クックロッドが望みとする王蜜はまこと希有希少の珍品にして、ことにある種の肉料理に醸すその風味は格別無二のものであるという。
この王蜜を得難いものとせしむる原因は蜂竜の習性にあった。
この生物はおびただしい群れをなして人獣じんじゅうひとみに喰い、拐う。
その様にして巣の近隣一帯を蹂躙し、壊滅的な被害をもたらすのだ。
故にこれを発見し次第、やもおうもなく駆逐の段となる。
蜂竜どもを排するに最優の方策とされるのは火である。
その巣もろともにこれを焼き尽くし一網打尽とする要領だ。
カラメール市当局がこの火計を発令するに先んじて王蜜を確保せねばならぬ。
プルガリサが請け負ったのは使命や大義といったものとは無縁の探索である。
むしろ気まぐれに類なすものであるかも知れぬ。
そのような冒険に、プルガリサは発つのだ。
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■では早速、今回の冒険でプルガリサ一行が最初に遭遇する[できごと]を決定します。
R.L.Hでは遭遇やイベントの発生をランダムに決定します。
ダイスを2回振り、出目に対応した番号の[マップタイル]を参照するかたちとなっているのですが、これが双六感覚で楽しい。
今回はd33シナリオですので六面ダイスの出目1と2を[1]、3と4を[2]、5と6を[3]と読むことになります。
そうして得られた最初のロール結果を十の位、後の結果を一の位として参照すべきマップタイルNo.を求めます。
(d3を設定できるサイコロアプリもあるです)
という訳で、今回一発目のダイスロォォルっ。

〈コンコロリーン×2〉
〔d33: 1ロール目〕出目2, 3→マップタイルNo.23
さて、これは…?

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【宝箱を抱きかかえたマンドラタン】

◇「こいつはどうだい」
熱に浮かされたような足取りで兵士のひとりがそれへと向かう。
樹の幹にしなだれかかるようにして近づいてくる男に流し目を垂れる一糸まとわぬ女。
その肌は瓜のような淡い緑色で、うっすら葉脈のようなものが浮いてみえる。
そして頭頂に咲く真っ赤な花。
先より漂う甘ったるいような芳香はそこから放たれていたと知れる。
妖艶な裸婦をかたどった化生は、そのか細い腕に釣り合わぬ大きなひつを抱えていた。
吸い寄せられていく兵士の眼には櫃も、女の向こう脛から下が根となって地に埋もれている様も映ってはいないようだった。
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■どうやらマップタイルNo.23では荒事が起こるようです。
もちろん、プレイヤーとしては望むところであります。
“だってアールピージーってモンスターを武器でボコす遊びなのでしょう?”

では、シナリオの指定による能力判定を行います。
〔魔術ロール: 目標値4〕
これは次に起こる事態を察知できるかの言わば第六感判定。
プルガリサは魔術点こそ0ですが、生来の生存力として2点の技量点を持っています。
技量点はすべての副能力値の代用として用いることができるので、この2点とダイス1個(1d6)の出目との合計が目標値4以上であれば判定成功。
この場合、1さえ出なければ成功なので、まずしくじることはありません。

〈コンコロリーン〉
1d6: 出目1→ファンブルにより自動失敗✕

能力値判定における出目“1”はファンブル、つまり「へま、しくじり、ちょんぼ」転じて「ダサい」ということ。
出目1をロールしてしまったが最後、たとえ達成値が目標値以上であったとしても問答無用、痛恨無念の判定失敗となります。
開幕早々にして出るものが出てしまった。
これにより我が方は戦闘における先制権を喪失しました。
もしやこれは近い将来に起こる惨事の兆し?

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◇プルガリサが兵士の不用意な動きを制すべく声をあげかけた時、にわかに目前の地面が大きく盛り上がる。
見る間にそれは納屋ほども丈を増し、土中から何かが現れた。
円蓋のような甲羅から土砂を落としながら、それは尻餅をつき呆気に取られた兵士をめつける。
あまりの巨体にひと呼吸のあいだ認識が及ばなかったが、その姿形は紛れもなく亀のそれだった。
プルガリサが初動の遅れにうなじを寒くした刹那、大亀の立ち上げた土煙の向こうから耳にしたこともないような金切り声が上がり、一行の耳を激しく聾する。

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■容赦ないなあ、ロア・スペイダー先生。
作者殿のサービス精神まこと旺盛にして、プルガリサ一行の状況は踏んだり蹴ったりの様相。
でか過ぎる亀のジャンプスケアから続けざまに雪崩れ込む次なる判定は…
〔幸運ロール:目標値5〕
この判定は女型の植物クリーチャーのマンドラタンが発したヤバすぎる悲鳴に対し、とっさの耳塞ぎができたのか否かをはかるものです。
[戦う従者]たちも全員判定を行います。
しかし目標値5はプルガリサはともかく、従者連中にはキッツいんじゃないかなあ。

〈コンコロリーン×5〉
プルガリサ:出目1ファンブル→失敗✕

剣士→失敗✕
兵士→1名成功○、2名失敗✕

ナゼに(笑)?
どうやら中の人たる蒙太はスタンド攻撃を受けているようだ。
いずれにしろ出目の結果は絶対。
許せ、プルガリサよ。
いや、むしろこれこそまさに六眼神ろくがんしんおぼすところなのか。
で、あれば君は苦境の中で輝くタイプ、この物語の主人公としてそういう素晴らしい特性を持っていることがいまこそ判明。ウン、面白くなってきた…?!

プルガリサをはじめ判定に失敗した者たちはマンドラタンの悲鳴により、攻撃および防御判定に-1のデバフを被ることに。
シナリオの記述によれば大亀とマンドラタンは共生関係にあるようです。
確かにこの二体の連携にばっちりハマってしまっておりますよ我が隊は。
後攻およびデバフ。弱り目に祟り目、泣きっ面にカメといった窮状に喘ぎつつも戦闘開始…!

[大亀]
レベル5, 生命点3, 攻撃回数2

がっつり不意討ちを受けているため、第0ラウンドにおける我が方の射撃権は失効しています。
大亀は2回攻撃で主人公と兵士1名をそれぞれ1回ずつ狙う。

第1ラウンド先攻/ 大亀
〔防御ロール:目標値5〕

〈コンコロリーン×2〉
プルガリサ防御判定
: 出目5+技量2-デバフ1=達成値6→成功○
兵士(尻餅)防御判定
: 出目2-デバフ1=達成値1→失敗✕
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◇その叫声は鼓膜のみならず全身をひとみに貫く無数の矢弾やだまとさえ感じられた。
プルガリサ達は余りの耐え難さに悲鳴を漏らし、筋肉と言わず臓腑と言わず身体中のことごとくがおのずと硬直するに任せる他無かった。
女形めがた化生けしょうは大亀の巨体を隔てた向こうから存分に絶叫を続ける。
その甲高い不協和音は、こちらの心身に致命の障りをもたらすまで永劫鳴り渡るものと思われた。
為す術も無いままに絶望の芽吹きを感じる。
地獄の住人の放つが如きその叫声であったが、次第途切れ途切れとなり、一行の戦意を完全に挫く前にやおら終息した。
プルガリサは安堵のため息ではなく、怒気を含んだ掛け声を以て、こわばった四肢と不快な耳鳴りをおして鉈刀なっとうを構える。
化生には一瞥をくれるのみで、今は目前の大亀が対すべき脅威となる。

プルガリサはとっさに指笛を鳴らした。
倒れた兵士がその態勢を復す間、自らに大亀の注意を振り向ける意図だ。
大亀に反応は無い。
思えばこの者も、あの叫声を余すこと無く浴びていたわけだが特段障りのある様子は見て取れない。
高い音を大亀は聴き取らない、ということなのかも知れない。
なれば自身が兵士と大亀との狭間に入るまで。
プルガリサは大亀の関心を得て、それは彼女に迫ろうとその巨躯を推し進める。
緩慢な動きだ、プルガリサはそう思った。
が、すぐさま退くように距離を取り、愛用の鉈刀を構える。
ある直感が彼女をしてそうさせた。
おもむろに大亀は元の獲物へと関心を戻す。
確かに、重い甲羅を背負った巨体の動きは鈍重そのものと見えた。
だが、獲物に食らいつくその瞬間だけはまるで違った。
大亀は弓を引くようにゆっくりと首を縮こませる。
そして噛みかかる瞬発は正に放たれた矢の如く。
一弾指いちだんし後、身を起こしかけた兵士の上半身は消え失せていた。
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■最初の犠牲者が出てしまいました。
色欲に目の眩んだ兵士君は見事に、その煤けた背中に立っていたフラグを回収し、下半身を残して旅立たれました。
従者の死亡はR.L.Hの習い。
とは言えヒドいもんですなあ、まったく。我ながら悪趣味featuring B級スプラッター刷り込み世代。
でも、待ってください!
シナリオにはある意味もっとヒドい記述がありますよっと。
大亀に敢えて従者を喰わせてその隙にお宝ゲット、という「悪くて素晴らしい考え」のくだりです。
プルガリサが主人公でなければ、外道も非道も習いのうちとしてアリかなぁとも思うのですが、今回はナシで。
ともかくも、現場のプルガリサは選択を迫られています。
戦うか、退くか。
その裏でプレイヤーの私は見てしまったのです。
大亀のデータにある[宝物 :+1]という魅惑的な文字列を。
これは大亀を倒してマンドラタンから宝箱を奪えば、その中身は期待できるということを示す記述です。
R.L.Hローグライクハーフの戦利品、いわゆるドロップは1d6の出目に応じて高い目が出るほど高額商品ゲットとなるわけですが、7以上の結果であれば魔法の品や希少品を獲得できるのです。
今回の場合、1d6+1なのでコトと次第によっちゃあ強装備だとか強装備が手に入る、かもね?
現在のプルガリサの武器はデータ的には[軽い武器]の分類なので攻撃判定が-1。ね?わかりますでしょ?
というわけなので、ここは一気呵成の総攻撃にしくはなし。
大亀は甲羅が重く鈍重かつその巨体により得物が当たり易いため攻撃判定+1、いけるぞこれわ。
あ、悲鳴デバフ食らってるのでプラマイ0だった。
ええぃ、ままよ!

第1ラウンド/ 後攻プルガリサ一党
〔攻撃ロール:目標値5〕

〈コンコロリーン〉
プルガリサ攻撃判定
: 出目2-軽武器1+技量2=達成値3→失敗✕

おっと、これはいかん。
攻撃の要であり、この物語の主人公なのに、さっきからずうっといいとこナシなんよ…
プルよ、オレたちって相性悪いのかな?
その話はいずれするとして、今は数撃ちゃ当たるの人海戦術に頼むのみ。
おまえたち、やーっておしまい!

〈コンコロリーン×3〉
剣士→失敗✕
兵士→2名成功○

マジか。
ほんとにやりやがった。
有象無象と思ってた約2名がまさかの2ヒット。
ゲーム的にはでかした!物語創作の観点からはう~ん…
主人公っていったい…
とにかく結果としては、こちらの攻撃が大亀の生命点を2点奪い、残1点となりました。
R.L.Hの戦闘において殲滅戦となるのは、敵するクリーチャーの反応が[死んでも戦う]の場合に限ります。
多くは[敵対的]反応のクリーチャーとの戦闘となりますれば、今回もそれに当たります。
[敵対的]なクリーチャーは自身の生命点が半分を切ると撤退するので、その時点で主人公側の勝利で戦闘終了となります。
魔物にしろ悪人にしろ、命あっての物種ものだねというわけですね。
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◇自らの小振りな得物えものではこの巨体には分が悪い。
プルガリサは賭けに出ることにした。
連れの者たちはやや浮き足だっているが、今にあってはむしろそれが活路だ。
大亀が次のを選んでいる隙に乗じて、その背後に回り込む。
そして小山のごとき巨躯に向かって走り出した。
まずは尾、次に甲羅のふちと瞬く間にその頂上へと跳ね上がる。
プルガリサは大亀の背に立ち、いささか芝居がかった調子で声高に叫んだ。
「悪くない眺めね!」
乗り心地は最低だけど、と呟きざま鉈刀なっとうの柄を振りかぶり、足下にある岩石のごとき甲羅に打ちつけ始めた。
それは胸の騒ぐような拍子で打ち鳴らされる。
当然、大亀には蚊に刺されたほどの痛痒つうようすらない。
しかし甲羅の内で鈍く反響するそれは、耳元で唸る蚊の羽音としてなら一定の効果をあげたようだった。
大亀は背の上でけたたましくする者へと、その首をうねらせ大きく伸ばした。
二者の眼が合う。
生命を狩り獲る剣呑けんのんくちばしと、温かい血肉をそなえた獲物とが一文字の射線で結ばれた。
「今よ!やるんだ」
プルガリサは眼下の仲間に声を発した。
今まさに大亀はその首を、はがね得物えものを手にした者らの前であつらえ向きにさらすかたちとなっていた。
すぐさま剣士が切りつけ大亀の皮膚を裂いたが、かすり傷程度にそれは留まる。
それに呼応して残る二名の兵士が死に物狂いの突撃をかけた。
まずつちの一撃が大亀の気管をとらえ、次に体ごとの長剣の突きが深々とその首の根元に突き刺さる。
声帯を持たぬ大亀は巨体なふいごのような吐息で絶叫するや、常には無い動速で後退あとずさりを始めた。
プルガリサは大揺れする甲羅の上で器用に平衡を保ちながら身を屈め諭すような声音で言った。
「降参すれば、命までは取らない」
すると大亀は徐々に動きを止め、やがて鎮まる。
プルガリサは悠々と大亀から降りたのち、その首元にある長剣の柄を逆手に取り、一気に引き抜いた。
こうして戦いは終わり、大亀は去った。

「あれと話ができなさるか」
プルガリサが長剣を返すと信じ難い様子で兵士が言った。
真顔で冗談のようなことを口にする兵士が、プルガリサは可笑おかしかった。
「私は亀の言葉を話さない」
それもあんな大きなやつの、と笑いを堪えつつ言うと、わずかに思案顔をしてからこう続けた。
「あの時は、そうするのがいいと思えた。それだけ」
兵士は絶句するも、結果をれるのみと得心する他なかった。
ただ一振りしか持たぬ剣の亡失は、まさに彼女のわざをして免れたのだから。
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■戦闘は1名の兵士を失うも勝利となりました。
ほんとにねーあっさり逝きますからねー従者はねー。
R.L.Hを遊ぶ際にはプレイヤー自身のマインドをアランツァ世界にアジャストする必要がありそうですね。
つまり我々の日常的な感覚は一旦脇に置いて、捕食者やらもっと悪いものどもの蔓延はびこる界隈と近所づきあいするような連中の死生観をインストールしないとやりきれないのでは、ということです。
あるいはもっとカジュアルに、昭和の2Dシューティングをするつもりで遊ぶかですな。

ともかくも戦利品が得られるので1d6をロールし、宝物表を参照するとしましょう。

〈コンコロリーン〉
1d6結果: 出目6+宝物修正1=7→魔法の宝物獲得 ◎

ここにきてついに私の実力が出ましたっ。
プルガリサは技能[宝物の獲得]を修得しているので、出目が5だったとしても器用点を1点消費することで+1の修正を得られるのですが、それに頼るまでもなく“素振り”の一発ツモですフッフッフ。あ、鼻息かかりましたか?どうもサーセン。
では、さらに1d3をロールし、どんな強い武器や魔法の得物が入手できたのかを決定しますね。

〈コンコロリーン〉
1d3結果: 1→蜂竜の王蜜

お、おう。
はち(中略)みつ…ですか。
まあいいさ。今のままでもプルガリサは充分強い。
プレイヤーの振る出目さえまともなら。

それはそれとして、この冒険における目的、つまりクエストアイテムがいきなり手に入ってしまったのですが。
これは望外の僥倖か、それとも冒険終了の危機か?
でも「よくやった!おめでとう!」の記述はどこにも見当たらないのでプルガリサ達の探索は続行されるようです。
……………………………………………………………………………………………

◇残された女姿めすがたのものはいかにも無力なたたずまいだった。
草木そうぼくに縁起する化生けしょうに相応しく、どうやら二足を駆って逃げ去ることはかなわぬようだ。
死んだ兵士を狂わせた艶麗も今は失せ、おぞましい形相で叫ぶままの面相と成り果てている。
先だっての悲鳴をあげしおりにかたまったようだ。
「ジャンスランも浮かばれんだろうな」
槌の突端を化生の細い喉元に突き付け、にきび面の兵士は嘆息する。
プルガリサ達に囲まれると、鳴きすぎた猫のようなしゃがれ声で女形めがた草木そうぼくは何事か繰り返しはじめる。
それが命乞いのたぐいであろうことは容易に知れた。
年かさの兵士があごひつを指す。
化生は応じるように哀れっぽい声で短く鳴く。
か細い腕からするりと櫃が抜け、横倒しに落下したその拍子にふたが開いた。
「やはりな」
油断なく脇に控えていた剣士がつぶやき、口髭を軽く吹き上げる。
櫃の中は空だった。
人間達の刺すが如き視線を一身に集めるを感じたか、化生は叫ぶ形相のままそこに媚びるような趣きを塗り加えて見せ、いよいよもって奇態な相貌となる。
そしてあたう限りの力を振り絞り、草木に類する腕を片方だけ、わずかずつ伸ばし始める。
やがてそれは、ぎこちなく何かを指し示すかたちをとって見せた。
従者たちは怪訝けげんな顔を見合わせるばかりだったが、プルガリサは面白い、と呟いて所感を述べる。
「どうやらこいつ、身代みのしろをよこすつもりのようよ」
淡緑色の指先が示す方向を伺いつつ続ける声はいかにも愉快そうだった。
「何があるのかしらね」
洞察とするには幾段か飛躍のある彼女の言ではあったが、雇われ衆たちは今やそのままに受け入れる心境となっていた。
「それとも、命惜しさの出任せか」
にわかに剣呑な気配を滲ませたプルガリサの声色を気取るに、慌てた化生は硬直した顎と潰れた喉を強いて懸命に何かを伝えようとする。
い、ふ。
い、す。
い、つ。
うぃ、つ。
んみ、つ。
年かさの兵士が片眉を上げ、不意の合点に自ら驚きつつ問うた。
「蜜、と言ったか」
すると人外はその叫び顔にいやが上にも追従ついしょうの度を増して微かに、しかし幾度もうなずくのだった。
「まさかにして蜂竜の王蜜のことか」
再び問うと、それは我が意を得たりと言うように老人のするしわぶきめいた吐息を短く繰り返した。
剣士がさもつまらぬ、といった風情ふぜいで言う。
「見え透いた罠に相違なかろう。自ら戦うすべを持たぬこの妖怪めの、いかにもたばかりそうなことよ」
矢庭にプルガリサが化生へと一足いっそく踏み込む。
そして後ろ腰にいた得物えものに手をかけるが早いか一閃、物言う草木の頭頂から真っ赤な花が刈り取られて地に落ちた。
「滅多なことをするな」
怪異と鼻面をつき合わせるほどの間近にてプルガリサは咎めて唸る。
「我らが胸懐を盗み視ること、プルガリサは許さぬぞ」
その烈威に圧迫され、化生は縮み上がり女人にょにんの似姿のまま、いよいよ物言わぬ草木然と成り果てる。
一方で従者たちは彼女が放った恫喝の言をして、腑落ちせぬ点のあることに、はたと気づく。
王蜜とは、唐突に過ぎはせぬか。
全体、何故に一行が王蜜を求める者であると化生は知るのか。
命乞いするにあたり、それを持ち出すに至る筋道がまるで立っていない。
つまるところ、化生の人心を覗き見る妖力をもって、ことごとくがその腹中を閲覧されていたのだ。
年かさの兵士は背筋にうすら寒いものを感じ呻いた。
「こやつ、心を読むか」
剣士はその言を聞くや、常ならず湧出する直情をして殺意の養われるを覚え、雇い主に具申する。
「プルガリサよ、次の行く先を決めてくれ。俺が丸腰の者を手にかける卑劣漢となる前に」
たとえ汚ならしい読心の妖かしだとしてもな、と吐き捨てるように付け加えて剣士は口髭の端を引き抜いた。
そうね、と受けてプルガリサは意向を示す。
その心はとうに決まっていた。
「私はこいつの取り引きに乗ろうと思う。つまり、私たちはこいつの思惑のままにその場所へ向かう」
にきび面の兵士がおずおずと言う。
「だが、罠があるのでは」
率直にプルガリサは返す。
「そうかもね。でも、そうでないかも知れない。だから、確かめに行く」
道理を彼岸に置く言なれど、それが小気味良く響くことに従者たちは不思議を感じた。
ただし、荷運び役の二名の様子はまた異なるものだった。
プルガリサの決断に彼らは僅かばかり面持ちを硬くしていた。
一行はこの場を後にする前に遺体の埋葬を済ませた。
これには大亀の潜んでいた跡を用い、そこにプルガリサが化生の真っ赤な花を供えた。
去り際に、彼女は左手を左胸に充てる仕種しぐさをして小さく、だが深い声で死者の名を唱えた。

……………………………………………………………………………………………

◆以降、このリプレイは色々様子のおかしいことになっていきます。
つまり、牽強付会けんきょうふかいの禁域に踏み入るということです。
どういうことかはシナリオの内容をご存知の方ならこの先を読んで頂ければ即座に判明します。
いや、読まないで…!あ、でもやっぱり読んであげて…
押井守監督の著作にこそ『世界の半分を怒らせる』なんてタイトルのものがあるけども、私、誰も怒らせたくはないんよ。特に本シナリオの作者様であらせられるロア先生!

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

◇「皆さんにお話しがあります」
森を分けいる道すがら、荷運び役の男が口を開く。
足を止めた皆の顔が向けられると、幾分張りつめた声で彼は言う。
「これから行く先は私たちには心当たりの場所なのです」
同行する二人の荷運び役は双子の兄妹である。
身体つきは両名ともに長身かつ頑健そのものだが、その面立ちにはまだ幼さを残している。
あるいは、にきび面の兵士よりもさらに若いのかも知れない。
そんな彼らは自ら願い出てこの一行に加わった者たちだった。
続けて妹の方が兄よりは落ち着いた口振りで言う。
それはいずれかには語るべき、あらかじめ溜めおいた文句だった。
「そこには蜂竜がいます。ですが、どうかその者らを傷つけないで頂きたいのです」
その言葉を、一同はしばらく飲み込むことができなかった。
胡乱うろんなことを、と発しかけた年かさの兵士の肩に手をかけ、無言で剣士が制す。
プリガリサは少々小気味良さげにその様子を目の端にしてから言った。
「この子らの話を聞きましょう」
鷹揚おうような物言いとは裏腹に、彼女は寝物語を待つわらべ面様おもようで兄妹に説明を促した。
兄は会釈をし、おずおずと身分を明かす。
「私たちはカラメールにおたなを構えるクルカン様に仕える者です」
クルカンと聞いて年かさの兵士は片眉を上げる。
「それは“抜けガラス”のクルカンのことか」
無思慮に発された主の仇名きゅうめいに反応し、妹の眼中をけんが走る。
これはしたり、と年若い娘の静かな剣幕にされ不束者ふつつかものは口をつぐむ。
カラス人の商人クルカンは種々大小の騒動における発端として知られる。
額に白く抜けた縦一文字の線があることと、いくつかの失策に関する逸話とをかけて、口さがない者達から“抜けガラス”の二つ名を冠されている。
兄は苦く微笑しつつ言う。
「確かに我が主は些か卒爾そつじたちで、ややもすると独り合点で物事を進めてしまうことがあります。
実のところ此度の蜂竜騒ぎも主のそうした性向を起こりとするのですが、さて、いかようにお話ししたものか」
兄の口籠るさまに忍ぶ能わず、妹はそれを継いで語り始める。
「まずは、我が主の数年来に渡って取り組んできた“蜂竜牧場”のことについてお話しします」
突如発された奇異な言葉にプルガリサ含め一同目を丸くする。
年かさの兵士に至っては見識の埒外らちがいに過ぎて意味の通らぬ音声としか聞こえない。
それらに構わず妹は続ける。
「実は三年前にも蜂竜騒ぎはありました。ただ、発見が早かった為、カラメール市民でも知らぬ者があるほど迅速に蜂竜は退治され事無きを得ました。
我が主はその時の討伐隊の一員として参加していたのですが、隊とはぐれてしまいます。
討伐隊が首尾を上げた後にも主は森をさ迷っていました。そうするうちに群れを失い、同じようにはぐれさ迷う数匹の蜂竜に主は遭遇したのです。
クルカン様はお優しい方で、はぐれ者の類いを捨て置くことができず、その蜂竜たちを密かにかくまうことになさいました。
ところで、一口に蜂竜と言ってもこれには種類があることを皆さんはご存知でしょうか」
妹の曰く、人や動物を襲う兵隊蜂竜、人畜無害な働き蜂竜、常に巣の中にあり産卵し続ける女王蜂竜の三種があるとのこと。
その中でクルカンが出会ったのは働き蜂竜で、花の蜜を集めて王蜜を分泌するのがこれである。
この働き蜂竜を飼い慣らすことができれば危険を冒すことなしに王蜜の収穫がかなう。
「我が主クルカンは商人であると同時に錬金術をくする研究家でもあるのです。特に魔法薬造りについてはその独創的な発想と洗練された手法で」
妹が得意気に述べたてるのを兄が遮る。
「ただ、その蜂竜たちを女王ならぬ者のために働かせるのは困難を極めました」
兄が語るにクルカンは働き蜂竜を従わせる効験をもつある種の香料を調合する為に二年以上を要したという。
そしてやっとのことで香料の完成を見て、働き蜂竜が少しずつ牧場に王蜜を蓄えるようになったのが数ヶ月前のこと。
「その喜びも束の間、主は取り引き上の行き違いでいまや勾留の身となっております」
年かさの兵士は知りおきの話らしく口を挟む。
「マリヴェラ婦人との一件だな。どっちもどっちといったところではあるが、まあ相手が悪すぎた」
意外にも同情の風を見せる彼に恐れ入ります、と返し兄が続ける。
「蜂竜牧場は人目に触れぬよう主が術を施しておりましたものの、主の投獄に際しそれが解けてしまったのです。この度目撃された蜂竜は、その場所から言って牧場の働き蜂竜に相違ありません」
妹が一同に懇願する。
「主の養う働き蜂竜たちは誰かを傷つけるようなものではありません。もちろん王蜜はお分けしますので、どうかあの子たちを別の場所にかくまう手助けをしてくださいまし」
妹の言を受けて最初に口を開いたのは若いにきび面の兵士だった。
「つまり、蜂竜の脅威はそもそも無かったということかい?そのうえ、あんた方の手伝いをすれば王蜜が手に入ると」
そして芝居じみた手振りをつけて大仰に宣う。
「篤信家あたわぬ面々なれど、その我らに全体幾柱いくはしらの神々が恩寵を垂れ給うたことか」
彼は死んだジャンスランとともにクックロッドの口利くちききで一行に加わった者である。
この二名は博打の負けを帳消しとする代わりに、この探索行に手を貸すこととなった。
浮かれた様子の若者とは裏腹に、年かさの兵士は得心のゆかぬ面つきである。
「そのような話、鵜呑みにはできんな。何であろうと蜂竜と名のつくものを生かしておく道理はない」
にべもないその言い様に分らず屋、と声を上げそうになるのを妹は堪えて飲んだ。
兄は慎重に、だが透徹した声調をもって一同に告げる。
「確かに耳で聞くのみでは納得のゆかぬこともあるでしょう。ですが実際に主の蜂竜をご覧になれば、きっとご承知頂けるはずです」
兄妹が語った一連を受けプルガリサがいかに応ずるか、自ずとそれぞれの呼吸が連なる。
だが、待つまでもなく一同には彼女が示す道の見当はついていた。
幼子にも似た光を双貌に湛え、一行の領袖りょうしゅうたるプルガリサは言った。
「蜂竜牧場とはね。そんなものがあるなら是非にも見てみたい」
さらにプルガリサは蜂竜に乗ることはできるのか、と問うが、その言に苦笑を禁じ得ぬのは兄妹だけに留まるものではなかった。
独り憮然ぶぜんとする年かさの兵士が蜂竜を前にしてどう出るか、剣士にはいささかの懸念があった。
だが、それは意外なかたちでもって杞憂となる。

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■私は今、何処に行くのか分からない道の途上、不安と恍惚入り交じる心境で浅い息をしております。
シナリオに記述のない諸々が、だらだらじくじくと膿のように垂れ落ちてきました。
なんですか、蜂竜牧場って。

そもそもR.L.Hは手軽にかつ1名からTRPGを遊べるようデザインされたゲームですから捨象される要素が多くあり、つまり微に入り細に入り主人公の置かれた状況等々が詳述されるものではないのです。
私のイメージとしてはゲームブックと双六タイプのボドゲとの中間的システムって按配です。
純粋にゲームとして普段通りゲハゲハ言いながら遊んでいる分には気にもしなかった無関心領域。
ところが、主人公一党の辿る顛末を小説風に記述してみようとなると「これはどういうことになるのだろう」と立ち止まり考えあぐねる機会が生じることしばしば。
R.L.Hの備える仕様であるところの“想像の余地”が浮かび上がってくるわけです。
これで脳内粘土遊びの準備は万端。
なのですが、マンドラタンの持ってる宝箱の中身が[蜂竜の王蜜]となったときに看過できない違和感を覚えてしまいまして(笑)
どうすれば私的納得に到るのかを考えているうち、ナゾの設定と不慮の展開がうっかり玉突き事故のようにガチャガチャと雪崩れこんできた次第です。
蜂竜牧場なんて、ゼロからの発想では絶対に出て来ないものなんですこれは。
明らかに引っ張られました。
奇想奇策の士として勇名を馳せるロア・スペイダー先生の作品が原作なのですから、むべなるかなと言うべきか。
いずれにしろデータ的な部分とは齟齬の無いようにしておりますので、そこだけは信用して頂きたい。
地獄の窯の蓋は開けられてしまったわけで、もう後は野となれ山となれです。
それでは、リプレイ『蜂竜の森~竜の蜜は危険なお味~』〔異聞・其の壱〕を締めくくる、問題の蜂竜牧場の顛末です。
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◇クルカンのおたな者の兄妹はその惨状に蒼白となった。
何てこと、と妹は声を詰まらせる。
森を分け入って辿り着いたその場所は、牧場というよりは屠殺場といった有り様だった。
蜂竜のものと思われる頭部が幾つも転がり、おしなべてそれらは焼け焦げ黒ずんでいた。
状況は見るだに明らかである。
クルカンの蜂竜たちは何者かの襲撃を受け、皆殺しの憂き目に遭っていた。
「クルカン様は大層悲しまれることでしょう」
立ち尽くし、自失した風にも聞こえる言い様をしたのは兄の方であり、拳を握りしめ身をうち震わせる妹のそれとは対象的な姿だった。
「主の施した処眩ところくらましの効験こうげんが失せてしまった時点で起こり得ることではありました」
ここまで来る道すがら、兄はプルガリサたちに所々目立たぬ位置に据えられたランタンを指し“夢遊燈”について語り聞かせていた。
曰く、夢遊燈の発するは見えざる光なり。
かのよくせし者、人と言わず獣と言わずひとみに夢中にり、知らずあらぬ方へ歩みぬ。
しかしそれを施した者の投獄により術の切れた今となっては、見た目に違わぬ変哲無い古びた角燈に過ぎぬ物だった。
「我らに先んじる討伐の手の者がおったか」
年かさの兵士は肩透かしを受けた様子で所在無く唸る。
誰もがそのように推察したが、頭巾の太刀持ちが腰を屈めて何かの燃え残りを凝視していた。
その様子に気づいたプルガリサは足早に太刀持ちの側に寄り、同じようにする。
太刀持ちが何を見出だしたのかは即座に知れた。
「喰われている」
プルガリサ達が見るそれは、焼け残った蜂竜の胴の成れ果てであった。
肉といい腑といい粗方が失せており、確かにその様を見るに獣か何かに餌食とされたものと伺える。
他の者たちもやって来て同じものを認め、にきび面の兵士が言う。
「蜂竜たりとて死ねばけだものどもの腹に入るか」
軽口にも聞こえるその言いぶりに、年かさの兵士が苛立ち混じりに唸る。
「その様に呑気な獣がいるものか。例え死したりとてこれは竜の係累だ。野のものどもはその匂いから触れ得ぬものと察知する。身中を廻る血の警告にゆめ逆らうことはせんのよ」
のたまった後、年かさの兵士は無用のげんを重ねる。
「全くもって、無知も過ぎたれば恐ろしくすらある」
不慮の悪罵に若い兵士はにきび面を紅潮させ喚いた。
「ならば蜂竜を喰ったのは何ものだ?それこそ竜であると言うか」
不意に出た兵士の言ではあったが、これに兄は一つの懸念をにわかに掻き立てられる。
そしておのずと差し迫った声音で言う。
「プルガリサ様、蜂竜の首をあらためて頂きたいのですが」
何かに気づいた風の兄に応えてプルガリサはうなずく。
蜂竜の死骸はそのことごとくが断首されている。
さらに、点在する胴体に対し頭部は比較的一つところに固まってあるが、これはたまさかのことだろうか。
火が使われていることに関してもいささか腑落ちしない。
火攻めというのはまずけむを焚き、それに巻かれた蜂竜が巣に逃げ込んだ際に巣諸共に行うものであって個々に仕掛けるものではない。
そして巣のかすらしきものは見渡す限りにおいて皆無だ。
もちろん、魔術の使い手なら各個を火にかけることも出来そうではあるが。
プルガリサは蜂竜の首をひとつ取り、めつすがめつする。
一頻ひとしきりそうして見たところで溜め息をく。
「何とも言い難いわ」
雑多な思考がひしめき脳裏に不快なとばりをかける。
何か分かりそうである事、それだけは分かっている。プルガリサが隔靴掻痒かくかそうようの思いでいるところに、いや待て、と剣士が蜂竜の首もとを指し、慎重に所感を述べる。
「十中八九とまでは言えんがその首、刃で斬って落とされたものではないように思える。剣や斧の類いで一刀の元に断つなら、そのような粗末な仕事にはならん」
その言を踏まえて見ると、確かにその通りであった。
「捻り切られた、といった風ではある」
年かさの兵士が茫洋と呟く。
プルガリサはようやく思案の糸口らしきものを得た気がした。
蜂竜を手にかけたのは実際、討伐隊なのだろうか。
取り敢えず突き止めるべきことの焦点をプルガリサはそこに定める。
「蜂竜達の巣が見当たらない。あるいは全く焼け落ちて消し炭も残っていないのか」
と言ったプルガリサに兄が応ずる。
「ここで飼われていた蜂竜たちは巣を造りません。巣とはそもそも卵や幼竜、そして女王の為に拵えるものです。クルカン様の蜂竜は個々に木の虚などで休みます」
「火計を用いるのはどうしたって無用の手間になるということね」
では、と言ってプルガリサは発する。
「蜂竜に矢傷はないかしら。あるいは矢弾やだまたぐいが落ちていないか探してみるの」
働き蜂竜が人を襲わぬという話を信じるならば、それは飛んで逃げるはずであり、そのようなものを飛び道具無しに屠れるはずもない。
一同で形跡を求めて探したが、果たせるかなと言うべきかそれは見当たらない。
次に確かめるべきことはプルガリサの知見では量ることあたわぬものだった。
「魔術師がやったのかしら。炎を投げつける業を見たことがある」
当て推量で言ってみると、意外にも妹が口を開く。
「そうであるなら遺骸は四散し、元のかたちを留め得ぬものと存じます。その術は炎熱にあわせ爆発の効験こうげんあらわしますので」
空模様を語るかのような流暢さで魔妖神妙のわざを説く妹の顔を、プルガリサ達は瞠目し伺う。
すると兄が明かす。
「これはクルカン様にねだり魔術の幾ばくかを学び知っているようで」
妹は言う。
「他の術なのであれば才覚稀有な使い手ということになりますが、そのような者なら噂のあって然るべきところかと」
それを受けてにきび面の兵士。
ちまたじゃ聞かん話だな」
兄は頷き、一呼吸する。
そしてひとつの仮定を一同に告げる。
「これは蜂竜の仕業かも知れません。つまり、人獣を襲う兵隊種の」
皆が兄に眼を向ける。
「私はクルカン様の語られたことを思い出したのです。蜂竜の兵隊種は共食いの質があって、弱った仲間などは獲物と同様に映るとのことです。兵隊蜂竜からしてみれば、クルカン様の香料で使役される蜂竜は物狂いの病持ちに見えることでしょう。
そして傭兵や魔術師の線が薄いことと合わせるに、クルカン様の蜂竜は兵隊種の蜂竜に襲われたと考えることが出来ます。
ただし、飽くまで見込みに留まる話です。遺骸の酷い焼け跡について現状では如何いかなる見当もついておりませんので」
やはり火だ。
この点について説明がつかぬことには確たることは何も言えない。
プルガリサは面倒になり、些か自棄やけが出る。
「蜂竜は竜なのでしょう?ならば火を吹く奴がいたって可笑おかしくはない」
あり得ぬと知りながらうそぶくと、知見のある兄および年かさの兵士はこの放言を直截に否定する。
「蜂竜が火を吹くとはついぞ聞いておりません。第四の種、ということになりますが」
「胡乱なことを。まことその様なものがいるなら竜と言うより悪魔と言った方が近い。とても我らの手に負えるものではないぞ」
そうしたやり取りを余所に剣士は黙したままでおり、ある考えがその脳裏を輪転していた。
火の件も不可解であるが、いま一つ不明な点は蜂竜が何故断首されていたのかということである。
もし蜂竜によるものなら、と口を開く。
「この殺戮は殊更ことさらの意味を持つのではないか?奴めらは裏切り者を許さなかったのだ。これは報復であり処刑の結果のように俺には思える。
強固な組織を脱する者に、それは等しく降りかかる運命なのだ」
言いながら、剣士はうの昔に癒えた左側頭の古傷が疼くような錯覚を得ていた。

他に何か手がかりが得られないか、一行はそれぞれに周囲を当たってみることとした。
しばらくその様にしているうち、妹が気づく。
「兄さん、蜂竜の頭が一つ足りない。おそらく、あの子の」
「ティミニスか」
妹は頷くとその名を呼ばわる。
「私よ、ティミニス!無事でいるなら出て来て頂戴」
何度か繰り返してみるが、応ずるのは木々の葉擦れの音のみだった。
なんだ蜂竜に名など付けて、と呆れ声を発する年かさの兵士などに構わず、妹は祈るような思いで呼び続ける。
と、プルガリサは微かな異音を耳にする。
その音は弓の弦を短く擦る音によく似ていた。
「あそこに」
プルガリサが指差す先に立つ、節くれだった木の根元の隙間から頭を覗かせるものがあった。
妹はそれを認めると、歓喜と安堵のない交ぜとなった声で蜂竜牧場の唯一の生き残りに向かって叫んだ。
「ティミニス!」
それは土中に潜み難を逃れていた。
妹は駆け寄り、土塗れの蜂竜をかき抱くようにする。
「賢い子!お前は土遊びが好きだったものね」
最後の一頭となったその蜂竜は他の蜂竜と比べ二回りほど小さいようだった。
小蜂竜は短く何度か繰り返し鳴く。
妹は姉か、むしろ母のような眼差しでそれと眼を合わせる。
「そうね、怖かったよね。もう大丈夫だから」
と、妹はそう宥めるが、小蜂竜の鳴き声にプルガリサは彼女の言うようなものを感じなかった。
何かを訴えていることには違い無い。
小蜂竜から感得するものは、瞬く淡い光であり微かな熱を帯びた飛沫だ。
その印象をプルガリサは清しいものとして感じた。
妹の腕の中でしばらく鳴いていた小蜂竜はぴたりとそれを止める。
するとその小さなあぎとに、やおら金色に輝く滴が湛えられ、それと共に甘く豊潤な香りがにわかに漂う。
兄さん、と発した妹に応じて兄が両の掌を器にして小蜂竜の顎にそっと添える。
兄の手はその体格に相応しく大きなものだが、それは溢れんばかりの王蜜で満たされる。
なるほど、とプルガリサは得心する。
小蜂竜から感じたのは使命を成した者の内に湧く誇らしい思いだ。
「王蜜を守ったのね」
プルガリサは言うと破顔して続ける。
「こいつめ、随分と得意そうに」
小蜂竜は朗笑する宜しく小刻みに顎を鳴らした。
「この様なことが」
一連の様子を傍眺していた年かさの兵士が呆然と呟く。
兵士が自ずと漏らした感嘆の声を、剣士も同じように思いつつ聞いた。

蜂竜の森異聞・其の壱 “蜂竜無くして王蜜無し” (了)
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■というわけで、所謂いわゆるリプレイという形態からはだいぶはみ出た蛇足でした。
蛇足ついでに手も付けてやろうとも思ったのですが、なんか微妙にエモい感じになったのでそこはカット。
その省略した部分なんですけど、お店者たなものの兄が手で受けた王蜜、これどうやって持ち運ぶのでしょうね。
このままだとお兄ちゃんは以降、罰ゲームのような状態でパーティーに随行することになってしまう。
一応考えました私。
プルガリサは蜜の収集道具をクックロッドから預かっているのです。
“吸い取り針”という本来は調理用のものなのですが、長めのスポイトの類いと考えてください。
我々の知るそれとちょっと違うのは管の部分がノウテンチドリの嘴、ポンプ部分がツチノコモドキの膀胱を流用したものとなっております。
で、ポンプ部分がいっぱいになったらそれを注意深く取り外し、口を縛って持ち運ぶ感じになります。
ですので、ポンプは複数個所持するようです。
って、説明のための説明を要するやつですね、これ。
ノウテンチドリはその名の通り脊椎動物の脳天目掛けて急降下し嘴を獲物の頭蓋に貫通させ、その中身を美味しく頂く鳥か、その類い。
ツチノコモドキは物凄いオシッコの噴出力で跳躍する爬虫類かそれに似た某かです。

…なんか色々すいません。ロア・スペイダー先生。

謝って赦される範疇を逸脱しているような気もしてきましたが、次回予告(次があると願って)に代えてd33をロールさせて頂きたく。

〈コンコロリーン×2〉
〔d33: 2ロール目〕出目2, 1→マップタイルNo.21

さて、これは…【竜人の村】と出ました。
次回プルガリサ一行はいわゆる[少数種族]の者たちが営む集落を訪問します。
第一村人はいかなる人物となるか?

願わくば再びのお目もじを。
読んで下さってありがとう!
ロア先生怒らんでね~。

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