裏かぶりタブーばばあ

はぁ……。私、テレビ向いてないのかな……
トークでは噛みまくるし、間違って他の人のカンペ読んで、出てもないドラマの番宣しちゃうし……。

私って本当に芸能人に向いてない……。

鹿岡ハナは現役JK(「じいちゃん口腔性交」じゃないよ!!)にして今来てる人気女優として色々なドラマやバラエティにふとした瞬間に出ている。

腕時計に視線を落とす。

7時……。
今からちょうど私の出るクイズ番組が始まる頃だろうか。

あ~~!!思い出したくない!!間違ってアナウンサーをボコボコにして病院送りにしてしまった事……。
だってなんかそういうノリだったし、
あのノリにオチをつけるには、私がアナウンサーを殴るか、KONISHIKIがその場で体表のトゲを全て勃起させるかの2択しかないと思ったんだもん!!

マズッたな……あれは……。
みんな引いてたもんな……。

あの後KONISHIKIが体表トゲ勃起をしてなんとか場は収拾されたけど、芸人さん達は収録終わりまで顔をひどくひきつっていた。

あの時の芸人の顔を思い出すだけで正露丸が歯に挟まった時のような不快感がこみあげてくる。

苦虫味の百味ビーンズを噛み締めたような顔で坂にさしかかると、暗い夜の中でオリコカードのようなものを担いだおばあちゃんが肩を震わせながら歩いているのが見えた。

普段はこんな通行人を気にすることなんてないのだが、不思議と、何かひかれるものがあった。

「お持ちしましょうか?」
次に気づいた時には話しかけていた。

「重いですよ……?」

「いえいえ……っ!?」
オリコカードだと思っていた物を持とうとするとあまりの重さに肩が持ってかれてしまった。
驚いてそれを凝視すると大型テレビがそこにはあった。
黒いテレビには鳥の糞が、今にも星座が作れそうなほど散り散りに落ちていた。

私はどうにかこの重さを軽減しようと画策し、大声で「よっ!草間彌生の新作ウヒョイ!」と叫んだが、決して軽くなることはなかった。

急に嫌な視線を感じた。
振り返ると、おばあちゃんが眼光と黄色い角を鋭くしてこちらを見ていた。

「あの、どうかしました……」
言い終わる前に気づいた。
あっ、私が今来てる人気女優だから驚いているのか。

「もしかしてアンタ、鹿岡ハナさんかい?」

「あ、はいそうです、照れ照れ」
サインくださいとか言われるのかな?
私ってやっぱ有名人だから欲しいよね〜

すると、おばあちゃんは徐に手提げからリモコンを取り出して、テレビをつけた。

ん?

私が出ているクイズ番組だ。

「アンタさん、これって裏かぶりなんじゃないのか?」
突如老婆は懐から爆炎手裏剣を取り出した。
夜の暗闇で煌々と光る炎が人魂のようなおどろおどろしさを帯びている。

「裏かぶりってなんの事ですか!?」
驚いて空転した声が路上に響く。

「アンタさん今テレビの中に居るだろ、なのにアタシの目の前にも居る。これって裏かぶりだろ。立派なタブーだよ。」

「いやそれ裏かぶりじゃないでしょ!?危ないから爆炎手裏剣しまってください!!」

「はぁ?知らないね。我が家では現実も番組も同じ括りなのさ。現実とテレビを引き離して考える事は無いよ。」

こんなに強情な老婆、見たことない!
忍たま乱太郎の食堂のおばちゃんだってまだ優しさと甲斐性と色気と克己心を持っていた。

話の通じない人間には力で立ち向かうしかない。
覚悟を決めたぞクソババア。、

私は力一杯老婆の手を蹴り上げた後、打ち上げられた爆炎手裏剣をすかさずキャッチした。

「どうだ馬鹿老婆!!若者に敵うと……!?」
突如腹に鋭い痛みと熱を感じる。

なんだ!?

腹を見ると、そこには爆炎手裏剣+2が突き刺さっていた。
炎だ傷の中央から徐々に黒ずんでいく。

うぎゃーーー!

「おい!ババア!水をかけてくれ!助けてくれ!」

老婆は無視してテレビを観ている。

「無視するな!私が何をした!!」
声をひり出して老婆に訴える。

老婆を額の血管を浮き彫りにして怒鳴った。
「黙れ!今私の娘が喋ってるんだ!!」
老婆が温い視線を送るその先には、私が殴ったアナウンサーの姿があった。

「まさかお前……。」

老婆は爆炎手裏剣+2を勢いよく抜いた。

ヴァっっ!?
三角テントの形に鮮血が飛ぶ。

「あの後死んだんだよ。」

「……。」

「子供のときからテレビが好きだった。」

「死ぬなんて思わなかったんだ……。」

「娘は、テレビに出たくて相撲を始めたんだ」

相撲……。私のパンチで簡単に怯んでいたのに、

「私の娘はな、ハワイ人力士として結構人気も出て、体表からは無数の黄色いトゲも出て、子供に囲まれながら金子みすゞの詩を歌うようになった。いつしか仕事が忙しくなり家には帰って来なくなったけど、テレビで生きている彼女はすごく楽しそうだった。テレビは現実の一部だった。あの日までは……。
お前が段取りで手こずったから私の娘は仕方なくトゲ全部を勃起させる他なかったっ!!
トゲが全部勃起したら娘は枯葉になってシンガポールの罪人のスムージーになるのにっ!!」

「えっ!?KONISHIKI死んだの!?」

「享年259歳」

「長生きしてたんだな」

「そんなわけでだ。お前は自分の過ちを悔いながら死にな」
老婆は銀歯に挟まっていた爆炎手裏剣+136を取り出すと、私の鼻腔目掛けて投げた。
(鼻腔って匂いの表現でしか使わないよね。)

うがぁぁぁぁぁぁあ!!!!
私は漏らす声も持たずにその場で炎に巻かれた。

「じゃあな小娘。苦しみながら炎上しな」
老婆はどこかへ走って行ってしまった。

炎の赤で黒画面がショッキングピンクに変色した。


はっ!?

突如開けた視界にショッキングピンクが広がる。
(ちなみにショッピング禁句は買物の達人)
これは天井か……。

部屋のレイアウト、風呂の大きさ、巨大な壁掛けテレビ……。
知らない部屋だ。

てことはさっきのは夢……。
視線を下ろすと、鶏ちゃん色の肌が露出していた。

えっ!?なんで私裸なの!?
雑にかけられた布団を思いっきり引き剥がすと、急に煙臭さを感じたのでその匂いの方を向いた。

そこには、裸で葉巻を咥えるKONISHIKIがいた。

くさっっ!
う、、、
この煙の匂いで目が覚めた私は、今起きている事の全てを思い出した。

あの撮影があったのは実はちょうど昨日。
帰り際、KONISHIKIさんに引き止められたのだ。
「今日の夜暇?」 
KONISHIKIは勃起させたソレをアピールするかのように一回転した。

「あ、あのさっきは、助けてもらってありがたかったと思っています。先ほどはありがとうございました。でも、ソレは、その、ちょっと……。」

私は震えながら首を横に降った。が、KONISHIKIはわざとらしく小首を傾げて言った。
「テレビに出たいんだよね?テレビって別に番組で面白いこと言えるとか爪痕を残せるかとかで出れる訳じゃないの。全ては関係者様へのサービス精神。で、俺はテレビ業界長いから何でも知ってるし色んな人とも繋がってるの。この意味分かるよね?」

私はただ震えたままKONISHIKIの後をついていくしかなかった。

その後、私はKONISHIKIの勃起したソレを一つずつウェットシートで拭いた。拭いて拭いて拭きまくった。そして、疲れて深い眠りについた。

はぁ、私何やってるんだろ。
目から零れ落ちた無味乾燥な水は、鳥の糞ように斑らなシミを作っていった。

「現実とテレビを引き離して考えることはできない」
夢ババアが残したババア格言がトゲのように私の心を抉り貫いた。

抉り貫いた!?

痛いやつ!?それって痛いやつ!?

バプちゃーーーん!!

パパ!!
ママ!!
Macaulay Culkin

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