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旅のラゴス 7/9

旅のラゴス 筒井康隆
調べて知ったのだが、「時をかける少女」は筒井の書いた小説。また、アニメ映画「パプリカ」も筒井作品。

書き出し文「放浪する牧畜民族の集団に加わるのは初めての体験だった。」

各章のタイトル


集団転移
解放された男

壁抜け芸人
たまご道
銀鉱
着地点
王国への道
赤い蝶

奴隷商人
氷の女王

あらすじ(以下ネタバレ)


短編章に分かれたSF小説。転移や同化など不思議な能力が使える一風変わった世界を主人公のラゴスが旅をする物語。
ラストの氷の女王では、次の章や続きを欲して次のページが解説である事に頭が痺れた。
今まで読んでこなかったSF小説であったが、偶に不思議な現象が起こるものの常に情景を想像し易いSFでサクサクと読み進めることができた。特に後半は、前半に出てきた人物を思い浮かべたり出会う事も多く、主人公のラゴスになったかのように再会を喜んだ。最初に恋をした「デーデ」に最後の旅の決意をして会いに行く「氷の女王」編は感慨深いものがあった。どの章も文句がないのだが、個人的に好きな章に順位を付けると「壁抜け芸人」「王国への道」「氷の女王」「銀鉱」の順番である。


印象に残った文章

印象に残った表現はいつも読む純文学に比べると少なかった。物語として純粋に完成された文章だったと感じる。

「ある夜、おれは夢の中で何ものかが断末魔の呻き声とともに、おれへの別れを告げたと感じ取って目醒めた。」(王国への道、スカシウマが死んだ夜)

「だから旅を続けた。それ故にこそいろんな経験を重ねた。旅の目的はなんであってもよかったのかもしれない。たとえ死であってもだ。人生と同じようにね」(氷の女王編、ドネルと会話)
この一言に旅のラゴスの全て詰まっている

スカシウマ一頭に子供と荷を乗せてサルコとボニータがおれを追ってきた。そのうしろからは夏が迫ってきた。

好きな章

「壁抜け芸人」


壁を抜ける事の出来る男との話。壁の向こうに食事や裸の女を想像して抜けたいという欲望を膨れ上げさせる事により可能だという。もしかしたら俺にもできるのではないかと思い「デーデ」を想い浮かべる事により簡易的に成功する。しかし、この壁抜けは最中に大声を出されるなどの妨害が入ると一生壁と同化してしまうというリスクをはらんでいた。男は想いを寄せる女の部屋に壁抜けで忍び込むがそこにラゴスが居た事に驚いて同化してしまうというオチ。ラゴスは自分もその壁抜けをして男を助ける事を知るがそのままにして立ち去る。非常に短編のSFとして完成されていて面白かった。

「王国への道」


この章は宇宙船からやってきた祖先が残した書物を読み込む事に重点を置きおよそ15年以上をこの村で過ごしていることから印象深い。政治・経済・歴史・医学史・小説の分野など数多の書を読み漁る。
「それぞれの時代における重要人物の電気はその時代の歴史に並行して読むという方法が、なんとなくぜいたくな、そして愉悦に満ちたものであった」
愉悦に満ちたものという表現に同じ書物を読んでいる自分は同感できる部分があった。
その間、村にコーヒー豆の栽培方法を教えたりすることによっていつの間にか外界で王様として扱われカカラニとニキタの二人の少女を妻として迎え入れる。その後、留まって欲しいと皆から止められるがラゴスは旅に出かける。自分がもしラゴスの立場であったならば二人の妻を得て、民衆から愛される王様となったならばそこで旅を終えてしまうだろうと思った。しかし、ラゴスは旅を再開して「デーデ」の住む村を目指す。

「氷の女王」


最終章。読んでいた時は最終章だとは思わず読んでいたので急に終わって驚いた。しかし、歳は70近くとなっても最終的に旅を続けるラゴスとして描かれているので完璧な終わり方だと今となっては思う。結果、デーデに会う事はできたのだろうか。もし出会うことができなくともラゴスなら運命と受け入れる事ができる。なんせ15年かけて執筆した羊皮紙をよく知らない奴隷商人に捨てられた際にも切り替える事ができたのだから。(自分の事だと想像したら叫びたくなる)

「銀鉱」


不吉な予感と共に予知夢をみたラウラと7年間銀鉱で奴隷として働く。後半は、知識を与える事で族長に認められ家や身分を与えられて不自由の無い生活を送る。ここでもラウラはラゴスと離れたくないと引き留めるが最終的には脱走して新たな旅に出る。旅の途中に奴隷狩りに遭い7年も20代を過ごしたと考えるとひどく無残な気持ちがするがラゴスは受け入れていた。物語を通じて何度か出てくるが、高度過ぎる技術や思想は却って混乱を招くことになる事をここで学ぶ。




全体を通しての感想


各章ごとに振り返ったことでラゴスが旅人である事を認識させられた。ラゴスは旅人であったのだ。
「だから旅をつづけた。旅の目的はなんでも良かったのかもしれない。たとえ死であってもだ。」
道中も面白いがラストの終わり方が何よりも素晴らしい。

各地を転々とするSF故にガリバー旅行記に似たものを感じた。
またSFの作品を読んでみたい。


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