第239回:論文31の解説2回目(Prime editingの概略について簡単に解説しましょう?)
論文名:Improving prime editing with an endogenous small RNA-binding protein
掲載された雑誌:Nature
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 628, pp 639–647
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1038/s41586-024-07259-6
一応、上に書いた論文を解説するために始めているのですが、いろいろな思惑があって、今のところ、Prime Editingについての話が展開されています。
前回はCRISPR/Cas9などをはじめとするゲノム編集ツールの変遷について簡単に触れたのです。
で、今回はPrime Editingとは何かというところを簡単に書いていこうと思います。
で、よくできた(かどうかはわからないけれども、とりあえずわかりやすい)総説がありましたので、そちらの文献情報も挙げておきます。
論文名:A Review on Advanced CRISPR-Based Genome-Editing Tools: Base Editing and Prime Editing.
掲載された雑誌:Molecular Biotechnology
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 65, pp849–860
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1007/s12033-022-00639-1
もともとゲノム編集ツールが出てきたときには、遺伝子の例えばエクソンを全体的に欠失させるとか、一定の長さのDNAを取り除く、あるいは挿入するということが主眼にあったような気がいたします。
実際に、実用化された最大のものはノックアウトマウスとか遺伝子改変マウスなわけですから、その用途はそのようにざっくりとしたゲノムの編集でよかったのだと思います。
そのうち、「点変異をもとに戻したい」というような、いわゆるファインチューニングを可能にする技術としてゲノム編集ツールが使われるようになっていきます。
ここで、問題となっているのは特異性と効率です。
特異性については、結構現時点でも問題になっている可能性がありますが、いわゆるオフターゲット効果というやつですが、それなりのというか一定水準以上の特性は担保されているようなきがいたします。
ただ、研究者全体的に考えている最終的な対象は人ですから、いかなるオフターゲット効果も認められないのだろうし、その効果も最高である必要があります。
ということで、生み出されたのが、Prime editingです。
Prime editingでは、Cas9タンパク質のN末端側に、逆転写酵素を遺伝子組み換えの技術を使ってつなげています。
ここで、二つの大きなタンパク質がつながるので、立体的に障害となりそうな気がいたしますよね。当然二つの大きなタンパク質はそれぞれ機能タンパク質ですから、それぞれが独立して働くような立体構造をとる必要があります。
それが、二つのタンパク質が一つのタンパク質となって細胞内で作られてしまうと、当然立体構造症の障害となるわけです。
そのために、通常であれば、リンカー配列といって二つのタンパク質が機能タンパク質として機能できるように、間隔をあけるための配列を二つのタンパク質の間に挿入します。
文字で書くとすると、「逆転写酵素」ー「リンカー配列」ー「Cas9」というような形にするのです。
この時、リンカー配列にはいろいろなものが使われますが、基本的にはアミノ酸のグリシンとセリンがよくつかわれます。代表的なリンカー配列といえば、(グリシン-グリシン-グリシン-セリン)の4アミノ酸の並びが複数回、例えば3回とか4回繰り返すような配列を使います。
グリシンというアミノ酸は非常に特徴的です。
通常アミノ酸というのは側鎖といって、アミノ酸の特徴を示す残基があるのですが、グリシンにはありません。
このアミノ酸の側鎖は一定の大きさおを取るので、アミノ酸配列中ではタンパク質が立体構造をとるときに重要になってきます。
ところがグリシンは側鎖が水素だけなので、立体構造上の障害にはなりません。
ですからこのような(グリシン-グリシン-グリシン-セリン)の4アミノ酸の並びを複数連ねることで、二つのタンパク質が機能できるというわけです。
さて、Prime editingですが、これは基本的にはCRISPR/Cas9と同様に考えることができます。
つまり、CRISPRで標的の核酸配列を指定してCas9がそこに働きかけるというものです。
実際にはPrime editingではCas9の酵素機能は一部損なうように変異させてあり、Prime editingで用いる変異型Cas9はDNAを完全に切断できず、1本鎖を切断するだけです。
ここからの説明は図が必要ですね。この図については、下の論文のFig.1を見てもらうしかありません。
論文名:Search-and-replace genome editing without double-strand breaks or donor DNA 掲載された雑誌:Nature 掲載された論文に関する情報:2019, Volune 576, pp 149–157 掲載された論文のDOI:doi.org/10.1038/s41586-019-1711-4
とにかくCas9でDNAの2本鎖のうち1本が切断されると、そこにPrime Editingのprime editing guide RNAがDNAの1本と対合して逆転写が始まる…。というようにPrime Editingが行われます。
詳しいことはとりあえず置いておいて、このPrime editingでは、標的のDNAを完全に切断してしまわないために、予測しないことが起きにくく、また、オフターゲット効果も減少するといわれています。
ただ、直上に示したPrime editingの論文でもその効率はそれほど高くなく、20%以下程度の成功率でしかありません。
これでは臨床応用はできませんね。
ということで、どのような因子がこの高率に影響しているのかという議論が巻き起こってきているわけです。
ちょっと専門的過ぎました。次回からようやく論文の内容に入ることができます。
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