第215回:毎週「Nature」誌から一つ、論文のabstract(日本語要約)を選んで、解説しながら紹介するとどんな風になるか? の41回目

はい、今週号のNature誌(Volume 629 Number 8014)です。

Nature誌に掲載された論文の多くは(比率は忘れましたが、50%くらいでしたでしょうか?)、引用されないという話(都市伝説ではないと思います)がありますが、Nature誌に掲載されている論文は、いろいろな意味で「極み」だったりします。

ただ、このような論文がトレンドを作っている可能性もありますし、これが製薬業界など大きなお金が動く経済と結びついて、それにさらに政治が絡んできたりしたときに、変な動きになる引き金になったりする危険性はあるのかもと徒然に思ったりまします、忙しい今日この頃ですけれど。

さて、たまにはNature誌に掲載されている論文に文句を言っても許されるのかもしれません。「生化学:ヒトのチロシンキノームに固有の基質特異性」です。

日本語抄録を超えて読む気がしないこのような論文がなぜ掲載されているのかよくわかりません。生化学も疫学のようによくわかっている、あるいは想像に難くない仮説を実証するために、多くの労力や費用を書けるということになったのでしょうか?

この論文ではチロシンキナーゼの基質特異性について、プロテオミックな解析やコンビナトリアルな解析を行っているようですが、結局は新たな発見はありません。

私はいつも考えます。すべては進化であると。ということは、ランダムな何かが生じてその中から最も利益の多いものが選択されるはずです。特にチロシンキナーゼのように、進化の途中で出現してきた新規なキナーゼについてはそうであるはずです。頭固すぎでしょうか?

いいや、そうは思いません。生物は巧妙ですから、多くの生物は最も都合がよいように生きているはずです。あ、仕組みとして。

ですから、チロシンキナーゼの基質特異性が特定の部位のチロシン残基をリン酸化するのも、基質タンパク質の立体構造上の問題もありますし、基質タンパク質やキナーゼのタンパク質構造上の揺らぎもあるはずです。でも、でもでもです。

そのようなものは、進化の途上で最も効率の良いチロシン残基がリン酸化されるように、選択されるはずですから、チロシンリン酸化に共通するルールがあろうがなかろうが、そんなことは関係ないと思います。

この論文の抄録の最後のところにある文章「固有の基質特異性が線虫からヒトまで基本的にほとんど変化していないことが明らかに」が、私の考え(というかほとんどの科学者がそういうようにかんがえるでしょうけれど)が正しいことを実証していると思います。

ですから、この論文は実験をする前にもうすでにわかっているのであって、チロシンリン酸化部位がおそらくほとんどわかってしまっている状況では、「無価値」、「無駄」と言ってよいのかと思いました。もっと意味あるのでしょうか?

勿論、創薬上重要なデータベースにはなるのかと思いますけれど…。

で、最も面白いと思った論文は「進化学:子の世話を促す新たな副腎細胞タイプの進化」です。

タイトルに、新たな副腎細胞タイプの進化といっても、最近=20000年という感じですから、進化の過程では「最近」ですが、昨年起こったような感じに捉えると勘違いしてしまいます。

で、この論文のすごいところは、一夫一婦制のマウス(ハイイロシロアシマウス)と浮気性かどうか話知らないけれども、一夫一婦制にとらわれないマウス(シカシロアシネズミ)とを使って実験をしています。

これら二つの種類のマウスは遺伝系統が近しいのでこれら二つのマウスを掛け合わせた子孫マウスも作出でき、解析することが出来ています。

で、解析の結果、脳以外のところで、生殖行動に関係している、ホルモン産生をコントロールする仕組みがあるということを明らかにした論文です。

重要度については、研究領域外なので、ちょっとわかりません。ですが。生物学を学んできたものとしては非常に面白いと思います。

最近、このように親から子孫に表現型が遺伝するそのしくみについて明らかにしている論文を目にすることが多くあります。ヒトは雑種の塊ですから、このような研究を通して、生物としてのヒトの理解が進むのだとしたら非常にワクワクします。

この副腎細胞の話でいくと、副腎細胞でにおける遺伝子発現状況が異なるということが、一夫一婦制や乱婚制に関係があるという結論ですので、ヒトでも同じようなことが起きているのかが興味があります。

そうやって考えていくと、浮気防止薬を作って売り出す製薬企業とか、結婚前の婚前検査で、浮気度を推し量るような検査キットを売り出すメーカーや浮気度を調べる検査会社が登場するかもしれません。

カオスですね。

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