第223回:論文30の解説1回目(昨日、慌てて、個々の一言を書くの忘れてた。結構忙しいんだなあ)

論文名:Epigenetic inheritance of diet-induced and sperm-borne mitochondrial RNAs
掲載された雑誌:Nature
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 630, p720–727
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1038/s41586-024-07472-3

この、雄性が受けた環境変化をどうにかして子孫に伝えていこうとする機構がいろいろとあるということはわかってきました。

でも、この辺りは本当に知らないことばかりで、勉強になります。いま、研究室の論文抄読会では、腸内細菌叢と宿主のアミノ酸代謝の論文を読んでいますが、ひとたび自分の研究領域を外れてしまうと、結構知識に漏れがあるのがわかります。

もちろん百科事典的な知識は必要ないけれど、大学の教員としては、やはりある程度はわかっている必要はあるのでしょう。

また、最近、単位を落とす学生が増えているという問題を私たちは持っているのですが、それすらも、「教員の教える技術がないからだ。もっと教員がいろいろな知識を吸収して学生によりわかりやすい講義をしていこう」というようにも考えられそうです。

で、今回の論文ですが、細胞としての精子には環境(変化)によって生じた何らかの変化に対応するための小分子のRNA(scnRNA)が含まれていることがこれまでの研究でよくわかってきているそうです。

でも、精巣上体なのか細胞としての精子なのか、どちらがこの環境変化に対応しているのかについてはよくわかっていないらしいので、この研究はスタートしています。

また、別の研究として親のBMI(body mass index、太っているか痩せているかの指標)が子供の健康に影響するという研究があります。ですから、この研究が雄性が経験した環境変化(ここでは肥満とか、高脂肪食とかそういったことを環境変化の要素としてとらえています)として子の健康がどのようになるのかを明らかにしていこうとしているのです。

まず、Fig.1ですが、研究のくみたて(Fig.1a)が説明されています。2週間の高脂肪食群と低脂肪食群を作っています。生後6週から8週の間です。その後は、いわゆる通常の飼料を4週間(生後12週になるまで)食べさせています。この生後6週から8週目を精子形成期として考えているのです。で、2週間の高脂肪食あるいは低脂肪食の期間が終了した時点で、週齢がマッチしていて通常食の雌と交配させます(e~で示されています。高脂肪食群はeHFD低脂肪食群はeLFD)。その後、生後12週の時点(つまり精子が再度十分に形成されている)で再度同様の交配させます(s~で示されています。高脂肪食群はsHFD、低脂肪食群はsLFD)。そして、子マウスの体重や耐糖能、インシュリン抵抗性などを測定しています。

Fig.1bでは子マウスの耐糖能についてですが、高脂肪食群のeHFDのみ、耐糖能異常の子マウスが出現しています。これは高脂肪食群マウスの雄の精子に何らかの影響があったことを示唆しています。また、sHFDでそのような耐糖能異常の子マウスが見られなかったことから、雄親マウスの精子への影響は高脂肪食を食していた期間にあったと考えることができます。また、子マウスの体重には影響が出ていないということも考えると、耐糖能異常となるのは興味深いです。

でも、図をよく見ると、高脂肪食群のeHFDから生まれた子マウスのすべてが耐糖能異常なわけではありません。ですから、ここで、高脂肪食に影響を受けた群(HFDi)と、高脂肪食に影響を受けなかった群(HFDt)の二つに子マウスを分けています。わかりやすく言うと、HFDiのほうは耐糖能異常の子マウスというように考えてもよいと思います。

Fig.1cは血糖値の推移とインスリン感受性の関係です。通常であれば、グルコースを注射された場合には、インスリンが分泌されますので、血糖値はだんだんと下がってきます。しかし、HFDiのマウスでは他の群のマウスと異なっていて、血糖値は統計学的に有意に高いということになっています。また、インスリン感受性もHFDiではちょっと感度が鈍っているように思われます(Fig.1d)。

Fig.1efgですが、これは遺伝子発現を確認しています。Fig.1eは主成分分析ですので、ここではやはり、ドットが打たれている場所が異なるのか同じかで、考えていきます。遺伝子発現を確認した臓器は肝臓、筋肉、脂肪組織です。HFDi群の子マウスとHFDt群の子マウスで比較しています。あくまで、パット見ですが、打たれたドットの位置は同じようには見えません。

また、エンリッチメント解析といって、発現量の異なる遺伝子がどのような経路を構成している遺伝子であるかを特定する方法がありますが、そのエンリッチメント解析の結果も示されていますが(Fig.1f)、こちらは炎症とか免疫とか、基本的な代謝に関係しているようなものが目に付くのですが、これだけ見てもあんまりぴんと来ません。

でも、重要なことは、人のコホート研究(子供の糖尿病に関するもの)で確認された遺伝子の種類と今回のHFDiの遺伝子発現、特に筋肉と脂肪細胞では30%くらいが共通して確認されたということです(Fig.1g)。

つまり、人間の子供で糖尿病になっていることもでは特徴的な遺伝子発現があって、それは健康な子供の遺伝子発現とは異なるようですが、その遺伝子発現の異なりが、高脂肪食群の雄マウスから生まれた子マウスのうち、強く影響を受けた子マウスの遺伝子発現と同様であったということです。

結論に結び付けるわけにはいきませんが、ヒトでも今回の研究と同様な仕組みが働いていると考えてもよいようです。

また、人のコホート研究では、親のBMIが子供のBMIに影響しているという結果があるようで(Fig.1h)親のBMIが大きい(肥満?)だと、子供のBMIを大きくなる傾向があります。

この点は、親の食生活がそのまま子供の食生活になっているので、精子形成とどれくらい関係あるのかはわかりませんが、それらしい感じは致します。

というようなことで、今回読み始めた論文は、またまた生殖に関するものですが、面白いですね。また次回は次のFigureに進んでまいります。


次の図から、精子細胞(spermatid)と精子(spermatozoa)を区別しなければいけなくなりました。でも、一般的には精子というのは細胞として認知されていないと思います。私たちのころは精子というのは、DNAとDNAを運ぶための運動機能(ミトコンドリアと稼働するしっぽの部分)しかないと教わってきていて、いわゆる「細胞」というようには考えておりません。だって、精子は核とミトコンドリア以外の細胞内小器官は失うと習ったと思うのですから。で、しょうがないので、「精子細胞」と書いていたところを「細胞としての精子」と変更しました。前回部分にも入っていたかもしれませんけれど、もうちょっと、面倒なんで…。


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