第224回:論文30の解説2回目(とうとう、細胞としての精子の内部に含まれる小さいRNAについてのデータを読み時が来てしまいました。まったく初耳。遅耳ですが…)

論文名:Epigenetic inheritance of diet-induced and sperm-borne mitochondrial RNAs
掲載された雑誌:Nature
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 630, p720–727
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1038/s41586-024-07472-3

で、この研究では小さいRNA(small non-coding RNAs、sncRNAs)について調べていきます。

前回書いた後に、ちょっと修正したのですが、精子形成の時に、精子細胞から精子に分化(といってよいのか?)するときに、昔の生物学では、核とミトコンドリア以外の細胞内小器官は捨てて、細胞質も最低限しかないというように習ったと思うんです。

ですから、細胞質まだ維持している精子細胞には、もちろんsncRNAsが含まれていても問題ない、というか至って普通だと思うのですけれども、精子のどこにそのようなsncRNAsが含まれうるのだ?というような基本的な考え違いをしていたわけです。

そうですよね、sncRNAsであれば、核の中とミトコンドリアの中に収納されることはあり得ますよね。そうですよね。

でも、そのあたりの実感というのはやはりイメージしにくいので、細胞としての精子というように書き改めたのです。

で、ともかく、2週間高脂肪食(HFD)を食べさせたマウスから採取した精子細胞(前駆的な細胞)と精子を採取しています。また、2週間の高脂肪食を食べさせた後に、4週間通常食を食べさせた後に再度精子を収集していてsncRNAのプロファイリングを行っています。

でも、Fig.2を見ると、高脂肪食群(HFD)と低脂肪食群(LFD)との比較にもなっているので、一応図に従っていきます。Nature誌なんで、文章校正がおかしいのか、書き足りていないのかはわかりませんし。

sncRNAとして分類されたのは、lincRNA(long intergenic non-coding RNA、長鎖ノンコーディングRNA)、miRNA(microRNA、マイクロRNA)、piRNA(PIWI-interacting RNA)、rsRNA(rRNA-derived small RNA)、tsRNA(tRNA-derived small RNA)、YRNA(non coding RNAの一種だそうです)です。

結構いろんな種類がありますね。「ノンコーディングRNA」というWebページを見つけました。

で、Fig.2aでは、LFD群とHFD群とではsncRNAの構成比がきおとなっています。ただ、子の構成比が異なっていることがどのような機能に関係しているかについてはこの時点ではわかりません。

で、精子に含まれているsncRNAの量に着目すると、高脂肪食接種によって、約25%の減少が確認されたそうです(Fig.2b)。その現象は特に閣内で転写されるRNAに多かったという観察です。

ご存じの方も多いのですが、ミトコンドリアにも染色体(ミニサイズですが)が含まれていて、転写をしています。核内のRNA転写とミトコンドリア内のRNA転写は配列が異なっていますので、核内の転写量とミトコンドリア内の転写量を分けて解析することができます。Fig.2では核内転写を「n」で、ミトコンドリア内転写を「mt」で示してあります。

Fig.2bを見ますと確かに減少している青色の部分が核内転写で多いような感じですね。特に、Fig2cでは、核内転写のtRNAの量が著しく下がっているように見えます。

逆に、ミトコンドリア転写のtRNAは増加しているように見えます(Fig.2cde)。不思議な感じです。

というか、そもそも、精子細胞や精子から低分子のRNAを精製してきて、その発現量を手色湯的に解析できる時代になっているところが非常に恐ろしいと思います。ちなみにこの論文では、精巣のシングルセルRNA解析もやっていますので、もう何でもありな感じになっています。

やっぱり研究をダイナミックに行うためには、多額の研究費が重要になっていますが、日本の地方大学にいるとそのあたりが非常につらい…。

で、Fig.2に戻ります。その前に、おまけのデータ(Extended data Fig.4)では、高脂肪食によるsncRNAの転写量の低下などは元に戻っているので、やはり精子形成というのはよくできたシステムだと思います。本当に、雄性に様々なストレスが入った時に作られる精子が世代を超えて何らかの形質(?)を伝えうるという。で、その精子形成自体は非常に短期間で再生(というか出来てはなくなり、出来てはなくなり)するという。すごい。

Fig.2fgはでは、ヒトのシステムではどうなんだい、というデータです。Fig.1では親のBMI値が子供のBMIと相関関係があるというデータがありました。ここでも、精子提供者のBMI値とRNAの転写量との関係を観察しています。

まず、Fig.2fでは核内転写量を示すtsRNAの量(n-tsRNA)とミトコンドリア内転写量を示すtsRNAの量(mt-tsRNA)を解析したところ、ミトコンドリア内転写量がBMI値と相関があったということです。

また、精子提供者のsncRNAを9つのグループに分類したところ、そのうち7つはBMIは大きい群(太っている人)で増加しており、残りの二つは減少していました(Fig.2g)。ちなみに現象しているうちの一つはマウスのシステムでも高脂肪食接種で減少したということで、ヒトとマウスとの間で何らかの共通の仕組みがあるようなかんじですね。

Fig.2hijについては、ちょっと意味がよくわかりませんでした。論文を読むと、sncRNAは精巣上体を通過中の精子によって細胞外小胞とか細胞質の一部分を介して取り込まれるのだそうです。逆に、精子ではミトコンドリア内の転写が活性化になると。

今、初めてこのあたりのことを学んでいます。結構細かい仕組みがあるものです。

なので、Fig.2hでは高脂肪食接種によって、完全長のミトコンドリアのtRNAが確認され、さらに増加していることが確認されるのだということです。

また、これまでに明らかにされたRNAの配列を使って、彼らの解析結果をよく観察してみると、ミトコンドリア転写に由来する、mt-tsRNAやmt-rsRNAといった断片化されたsncRNAも精子のみで確認されているということだそうです(Fig.2i)。

基本的には、ミトコンドリア内の転写は精母細胞の段階で、ストップするということが、精巣のシングルセルRNA解析によって明らかにされているそうですから、高脂肪食接種によるミトコンドリア内のRNA転写はやはり、環境適応の一環であるというように理解できるのだと思います。

Fig.2jについてはその差がよくわかりませんでした。差がないからよいのかな?

というように、難しい領域の論文に手を出してしまっています。あ~勉強ってつらい(楽しいけれど)。



ミトコンドリアで転写量が上昇しているということで、その上昇の確認をtRNAの全長で観察しているようミトコンドリア内転写が精子でのみ起こっているということでしょうか? これは、精巣のシングルセル解析でも精子細胞では確認できていないようで、



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