第218回:論文29の解説2回目(ちょっとこの論文にはおかしいところがあるような気がするけれど、それはきっと方法のところに詳しく書いていないからだろうか?)

論文名:Interaction with a phage gene underlie costs of a β-lactamase
掲載された雑誌:mBio
掲載された論文に関する情報:2024, Volume 15 Issue 2
掲載された論文のDOI:https://doi.org/10.1128/mbio.02776-23

さて、南の島は先週から大雨が降り続いていて、機能久しぶりにジョギングに出かけることが出来ました。

ということで、この論文の解読なのですが、それほど難しくない論文ですが、システムがちょっと変です。

大腸菌のある系統に、プラスミドを導入して(形質転換と言います)それを継代培養することによって、どのような変化が生じていいるのかというところを解析しているのです。

解析法自体は現代的な次世代シーケンサーによる全ゲノム解析とかですが、実験の仕掛け自体は、やはり遺伝子組み換えの技術でさまざまな「道具」を作る必要があります。

でこの実験では、短いプラスミドに薬剤耐性遺伝子を組み込んで、それで重荷宿主(つまり大腸菌)の染色体にどのような変化が生じているのかについて解析しているようにしか読み取れません。でも、実際の薬剤耐性菌の出現に関係しているプラスミドは非常に大きいことも多く、プラスミドに含まれる遺伝子も非常に多いことが頻繁に観察されています。

ですから、この論文で分かったことはあくまで一つの実験系での話ということになります。

まず、継代培養をするのですが、この研究者たちのやり方も、通常の継代培養ではないように思いますし、その記述の在り方も正確ではないように思います。でもまあ、1日1回継代したとして、それで…というように理解するとして、どうなったかということです。

Fig.1では、プラスミドを保持する大腸菌の系統を2種類作製してあります。REL606とM114です。

で、これらのプラスミドを保持している大腸菌系統を継代培養した結果どうなったかというと、REL606系統では、プラスミドに薬剤耐性遺伝子が存在していても、存在していなくても変わりなく、プラスミドが細菌細胞から脱落することは稀でした。

一方のM114系統では、薬剤耐性遺伝子を含むプラスミドは容易に細菌細胞から脱落しやすく、ほとんどプラスミドを保持している細菌株はいなくなります。

その、非常に少ない頻度(4%くらい)の細菌細胞はプラスミドを保持し続けられるように、進化したと考えられるので、その後さらに継代し続けても、プラスミドを脱落することはなくなります。

ですから、この進化が細菌細胞のほうに(特に染色体のうちに)どのように起こっているのかについて解析しようとしているということです。

で、この論文の研究者たちは、9回の継代実験から分離したプラスミドを保持できるように進化したクローンを全ゲノム解析しました。その結果、これらの9くろーんは P1ファージの溶原化している部分に変化が生じていることがわかりました。

この全ゲノム解析した9つのクローンについては、プラスミドを持つことによるフィットネスコストの上昇(つまり発育速度の低下)は観察されていないようですし(Fig.2A)、また、これらのクローンからプラスミドを人為的に取り除いて、そこに、継代実験前のプラスミドを入れても、フィットネスコストには影響していないことが示されています(Fig.2B

ですから、やはり、継代培養の結果、得たフィットネスコストの代償は染色体のP1ファージが溶原化している部分に関係があるということになります。

ちなみに、大腸菌の染色体にはファージが溶原化していることがありますが、これらのファージは時に溶菌サイクルに入ると、大腸菌を溶菌して子ファージを多く産生するようになります。

ですから、このファージの溶原化している部分は細菌が生きていくには必要のない部分ですから、この部分がフィットネスコストとして評価されたということはわかります。でも、プラスミドとは関係ないように思いましたが…。

で、いくつかのクローンはこの溶原化している部分がなくなっていて、いくつかのクローンではrelAという遺伝子が変異していたということです。

で、このrelA遺伝子変異体(relAI179S)を組み込んだプラスミドでは、フィットネスコストの代償が見られていますし(Fig.3A)、継代培養してプラスミドを保持できるようになったM114大腸菌に、野生型のrelAを導入すると、フィットネスが下がるとか(Fig.3B)、継代培養でプラスミドの保持や脱落には関係のなかったREL606系統に、野生型のrelAを導入すると、やはりフィットネスが下がるというようなことが観察されています(Fig.3C)。

この後、もう一つデータがあるのですが、それは次回に廻します。ちょっとこの論文も理解に苦しむところが多くあります。もうちょっとちゃんとサイエンスをやりましょう。私も頑張ります。

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