第226回:論文30の解説3回目(Fig.3のデータの解釈はう~んちょっと…。やっぱり、私たちもマウスなんかを使った動物実験がやりたくなりました。実際には、私がどこかの研究施設に異動できないと無理でしょうけれど…。うらやましいなあ~)

論文名:Epigenetic inheritance of diet-induced and sperm-borne mitochondrial RNAs
掲載された雑誌:Nature
掲載された論文に関する情報:2024, Volune 630, p720–727
掲載された論文のDOI:doi.org/10.1038/s41586-024-07472-3

マウスを使った実験で、少なくとも精子の内部にミトコンドリアで転写されたRNA分子が含まれているということが示されてきたのですが、これらのRNA分子は、通常は染色体の配列を変えるとは考えられていません。

ですから、雄性が受けた環境変化のシグナルは精子の中にRNAの形で仕組まれており、子の世代に伝わると考えられるのですが、その環境変化の伝達は子の染色体の遺伝子配列を変えるものではないということだと思います。

ですから、このような遺伝子配列を変化させないけれども、遺伝子発現の状況を介して、何らかの形質変化につながる場合には、エピジェネティクな変化といったります。

で、おそらく、受精が起こるときに、精子に含まれているミトコンドリア転写のRNAは卵細胞の内部に移行し、さらに、卵細胞のミトコンドリアに影響するのだろうという仮説があるというわけです。

というわけで、Fig.3です。

まずは、Fig.3aでは実験の流れが示されています。高脂肪食群の雄マウス、あるいは雄低脂肪食群のマウスを別系統の雌マウスと交配させます。そののち、2細胞期の杯に発現しているRNAをRNA-seqによって解析しようとしているものです。ここで、別系統の雌マウスを用いているので、雄性側の遺伝子配列と雌性側の遺伝子配列にはいくつかの点変異(SNPと言ったりします)が含まれているので、雄性由来、雌性由来と見分けがつくということですね。

で、ちょっとテキストに記述してあることと、図の中身が合致していないように見えるのですが、私の知識が足りないだけでしょうか? あるいは英語の能力が?

ともあれ、テキストには200個の雌の胚で観察されるミトコンドリアにおける遺伝子発現状況を主成分分析した結果は高脂肪食群と低脂肪食群は均質で一つのクラスターになると書かれています。でも。実際のFig.3bには、これら二つの群は分かれているように見えます。で、雄の胚ではどうかというと、高脂肪食群の雄マウス由来の雄の胚ではミトコンドリアのRNA転写が高まっている杯がいくつかあったということです。確かに、Fig.3cでは色分けhがなされていて、高脂肪食群の雄マウス由来の胚では二つのグループに分かれているような示され方です。でも、Fig.3bFig.3cを見比べて、この記述があっているのかどうかはよくわかりません。でも。そういうように理解するしかないのでしょうね。

ただ、このFig.3bFig.3cには点線があるので、この点線を境にして同じか違うかということであれば、Fig.3bでは高脂肪食群由来と低脂肪食群由来では全体では遺伝子発現状況は異なるようだけれども、高脂肪食群内、低脂肪食群内では同様かも、というように読むのかもしれません。そうするとFig.3cのグループ分けがそれに沿って理解することはできそうです。

ちょっと謎ですね。さらなる勉強が必要なようです。

まあ、ここでは、とにかく高脂肪食群の雄マウス精子由来の胚に観察できたミトコンドリア転写がどのように制御されたかについて、雄マウス精子に含まれているミトコンドリア転写のsncRNAの遺伝子配列を調べて明らかに使用としています。

ちょっと、言葉が連なりすぎてわかりにくくなっていますが、まあ厳密に書いてみるとそうなるので、しょうがないですかねえ。

で、Fig.3aのところで書きましたが、雄性の遺伝子配列と雌性の遺伝子配列には点変異、SNPがいくつかあり、ここでは416個のSNPだそうですが、そのSNPを調べてどうなっているかを確認しようとしています。

その結果が示されているのが、Fig.3defです。細かいところはとりあえず置いておくとして、Fig.3dについて、できれば拡大してみていただきたいのですが、やはり、高脂肪食群由来の胚のうち、ミトコンドリア転写量が大きくなっている杯では、とにかく、ヘテロプラスミー(胚における変異ミトコンドリアDNAの存在が確認できる状況)の程度が上がっています。このことは、高脂肪食群の雄マウス由来精子に腹案れているsncRNAが受精卵に移動していて、何らかの作用をしているということになるのです。

この点は、非常に新しい観察だと思いました。

最後に、Fig.3gですが、このヘテロプラスミーの状況を一つの図として示しています。

雌性の胚と雄性の胚でどの程度のヘテロプラスミーが観察されたのかの集計といってもよいと思います。この図では、ミトコンドリア転写のリボソームRNA(mt-rRNA)やミトコンドリアの遺伝子自体については、ヘテロプラスミーは観察されていませんが、ミトコンドリア転写のtRNA(mt-tRNA)では大きく違いがあるように思われます。

ということで、本日はFig.3でした。一番大きな話は高脂肪食群の雄マウス由来の精子に含まれるミトコンドリア転写のRNAが受精卵に移入されて、それが雄性の胚におけるミトコンドリア内の遺伝子発現、特に、mt-tRNAの発現状況に影響を与えているということが示唆されました。

面白そうです。本当に、私が今の時代に若い研究者であったならば、こういった面白い研究をやっている研究室にポスドクとかで所属して、研究に没頭できそうだなと、本当にうらやましく思いました。

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