第227回:毎週「Nature」誌から一つ、論文のabstract(日本語要約)を選んで、解説しながら紹介するとどんな風になるか? の46回目

またまた、週が明け、本日も別の大学での講義日になってしまいました。本日の講義内容は、ちょっと試験的かつ挑戦的な内容となっています、あの学生の皆様たちは反応してくれるでしょうか? 楽しみです。

ということで、今週のNature誌(Volume 631 Number 8019)にはどのような記事が掲載されていたのでしょうか?

私たちの研究室では、遺伝子組み換え技術によって、様々な研究をしていますので、やはり、技術面での興味というのは非常にあります。ですから、「構造生物学:プライムエディターによるpegRNA依存性逆転写の構造基盤」については、興味がありますが、こちらでその内容をいろいろという前に、現在読んでいる論文の解説が終われば、こちらの論文をその次に解説する論文として挙げておきたいと思いました。

で、最近の私の一つの興味というのは世代を超えたエピジェネティクスな子孫への伝承(というか遺伝)です。特に父型の遺伝形質について、エピジェネティクス、つまり遺伝子配列の変更を伴わない、アジャストメントのような遺伝子発現状況の変更が子孫に伝わるという現象は非常に興味を引いています。これは実際の社会問題ともなっている子供ができない問題ともやや関連する内容だし、ストレスがかかっているときに、お子様ができにくいというようなこととも関係があるのかもしれません。

これまで、会社や大学に所属してきてよく通説のように言われることは、「家を建てると転勤がきまる」とか、「学位をとるまで子供ができない」とか、なんかそれらしい(家を建てることは関係ないけれど)感じの観察もありました。

この論文「発生生物学:ヒト生殖細胞系列におけるエピジェネティックな再プログラム化のin vitro再構築」は日本語抄録を読むと、科学的な面ばかりが書かれているので、だまされそうですが、生殖医療(お金儲け?)とも密接に関係がありそうな気配もあります。エピジェネティックな染色体の修飾(ここではメチル化を想定しているようですが)は遺伝子発現を抑制することが多いので、生殖細胞、例えば、卵とか精子を作るときに、必要な遺伝子が十分に発現できていないと、正しく健康な卵や精子を作り出すことができません。

そこで、この論文で研究しているように、精子形成や卵形成に関係している遺伝子のエピジェネティクスな変異をリセットすることができれば、上に書いたような不妊の問題ももしかすると解消する一つの方法が提示されるのかもしれません。

ただ、個人的にはヒトという種がある意味選択されていく過程なのかもしれず、生物のすべての機能を100%開放していくことが正義というわけなのかどうなのかは難しい議論になると思います。また、倫理の面でも実際には遺伝子を編集したりする技術は確立されているので、完全にデザインされたヒトも作出できそうです。書いていて怖くなりますが、技術的には可能といってもよいレベルまで来ているのではないかと思います。現状何とか「倫理」というブレーキで押しとどまっているだけです。

この点はAIと同じような議論になっていくのではないでしょうか。科学技術は人のためですが、人の顕在的な能力を超えたと思われるような状況、あるいは、顕在的な能力をさらに増強できるような修飾が可能な状況というのがどれほど望ましいのかどうかを考える時期に来ているのではないかと思うわけです。

この辺りは、言葉を選んで書いても、全く不適切な感じも致しますね。

ということで、Nature誌なのですから、「進化学:古代のマラリア原虫ゲノムから明らかになったヒトマラリアの歴史」のような論文を読んで、生物学として楽しく興味を深めていくほうが望ましいのかもしれません。


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