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【創作】真冬のその先にact.1



「あはは、今日もみんな元気だね〜。花の売れゆきも良いし、なによりみんなの笑顔が見れて幸せだな〜」
 そうニコニコ笑いながら語るのは、玲瓏黒猫れいろうくろねこの館で花を売る花屋の主、まふゆだ。
 閑静な住宅街のなかに、ドンッと、お伽話の世界から急に具現したような館と、広々とした、たくさんの花が咲く庭だ。まふゆは色白の肌に、肩まで伸びたゆるいウェーブの金糸の髪と、切れ長の澄んだ碧眼の美青年。殆ど毎日、金の刺繍が施された黒のシャツに、やはり金の刺繍が繊細に施された白のジャケット。それに黒のストレートパンツを履き、少しザラザラとした感触の、麻のエプロンを身に着け花の手入れをしている。だが、エプロンを外すと何処かの国の王子や貴公子のような気品があふれる容姿が露わになる。自分の容姿がまざまざと明るみに出るのを避けるために、意識してカモフラージュのように麻のエプロンを身に着けているのではなく、花屋の本分として、当たり前に花の手入れや作業をするためだった。麻のエプロンには、
『フローリスト・スノウ』と、花屋のロゴが貼り付いている。容姿こそ、一介の花屋ではなく、王都で貴族の娘たちのお相手をしているような、美しい所作も自然に身に着けているが、それ故に、花を買い求めに来る客より、まふゆ自身を、デートのお誘いに来る女性たちが絶えなかった。
「ねぇーまふゆ。花屋の仕事はもう良いから、あたしと何処かに行きましょうよ〜」
 今、王都で流行りのレッドヘアの若い娘が、まふゆの元へ近づき、身体をくねらせながら猫なで声で言う。
「すいません、お姉様。でも、僕にはまだ仕事があるので…」
 笑顔で、返答するまふゆにレッドヘアの娘は、頬を膨らませて、身に纏う黒のドレスを両手でズンズンとたくし上げながら、ツンとそっぽを向く。
「まふゆくんはアンタと違って、真面目くんなの。でもさ、ほらまふゆくん、アタシ白バラを買ったの。だ・か・ら・少しアタシとだけお話しましょう。ね?いいでしょう?」
 まふゆは、後から会話に入り込んだ群青色のドレスを纏った娘にニコニコ笑みを浮かべたまま、
「お姉様、白バラの花言葉をご存知ですか?」
そっと娘の手元から白バラを引き抜き、花びらにくちづけると、娘は顔を真っ赤にしてぶんぶんと首を振る。
「…白バラの花言葉は、尊敬や憧れという意味が込められています。どうか、僕のことを真面目と捉えて頂けるなら、花言葉のように、僕の貴重な時間を差し上げることが出来ないことを、お察し下さい」
 碧眼で見つめられながら、優しく語るまふゆに、群青色のドレスの娘はコクコクと頷く。
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
「い、良いのよ…別に。そ、そうよね、今のまふゆくんには花屋の仕事が恋人だものね。尊敬しているわ、が、頑張って頂戴」
 群青色のドレスの娘も林檎のように赤く染まった顔を伏せて、震える声音で言う。
「感謝します。お姉様」
 この、普通の花屋にはない、美しい容姿に負けない位の誠実で、紳士的な対応も娘たちにとって、惹かれる一因だった。
「ち、ちょっと、何良い子ぶっているのよ。あたしだって、ちゃんとまふゆを理解しているわよ!その…まふゆが花売りワゴンから離れたから、その…ちょっと…き、気分転換になるんじゃないかと思っただけよ」
 毎日の恒例の如く、まふゆをめぐり、娘たちが言い争いを始める。まふゆは、笑顔のままふたりを見守っていると、艷やかな娘たちの間を縫って、おずおずとまふゆに近づく足音が聞こえてきた。
「…あの…ブーケをひとつ欲しいのですが…」
 そのか弱げな声に、まふゆの心臓がドクンと大きく波打つ。
「…ァ…アァ…」
 まふゆはその場に崩れるかたちで、倒れそうになるが、なんとか自力で、硬い地面に手のひらをつき、うずくまる。
「ちょっと…まふゆ、ど〜しちゃったの?具合いでも悪いの?」
 レッドヘアの娘が、心配そうにまふゆの表情を伺う。群青色のドレスの娘も、まふゆの異変に気づき、
「ごめん、まふゆくん。アタシ達がいけないのよね、淑女の身を忘れて取っ組み合いをしちゃったから…」
 慌てて、娘たちがオロオロ取り乱すと、まふゆは、首を振り、
「すみません、お姉様方。ちょっと…目眩がするもので…今日はもう店じまいをします。…よければまた改めて来て下さい…お待ちしています」
「え〜。じゃあ、アタシたちが、介抱してあげる。具合もすぐ良くなるわよぉ〜」
 娘たちの愉しむ声の中に、小さく踵を返す足音がした。
「あ…待って!そこの…白銀の髪のお嬢さん。きみは、ここに残って…お願い」
 足を止め、振り向く白銀の髪の少女は、思慮深くまふゆを見つめると、小さくこくんと頷き、そっとまふゆに歩み寄る。
 白銀の少女は、そっとまふゆの背中をさすり、
「大丈夫…ですか?」
と、気遣う。
「…ッ」
 まふゆは麻のエプロンの上から胸元をグッと握りしめ、息を荒くしながらも、少女を安心させるため、笑おうとしたが、何故か涙が込み上げてきて、少女の細い身体を掻き抱いた。
「ごめん。すこし…ほんのすこしでいいから…このままで、居させて…」
 まふゆが、恐る恐る少女の顔を見上げると、少女は、はにかんだ笑みを浮かべ、まふゆの金糸を小さなその手で、手櫛で梳いた。
 その間、ふたりを傍観していた娘たちは、肩をすくめ、
「もうっ。まふゆったら、ロリコンだったの?…ちょっと幻滅〜」
「違うわよ。まふゆくんはどの女にも、等しく優しいから、こんなみすぼらしい小娘にも優しいのよ」
 二人の娘は、その後まふゆをめぐり言い争っていたにも関わらず、今は、変に意気投合し合って、昔からの親友のように腕を組みながらその場を離れた。残されたふたりは、
顔を見合わせ、吹き出してしまった。
「きみ、名前は?」
 少しずつ、呼吸が穏やかになってきたら、まふゆが白銀の少女に訊く。少女はくちびるを一瞬すぼめたが、小さな声で、
「…まりん」
と、名乗る。
 まふゆは…口の中でまりんと呟き、晴れ晴れとした笑みを浮かべる。
「…まりん。きみの眸と同じ色なんだね」
 そう言って、まふゆは、まりんの、目元が隠れるぐらい長い前髪をかき上げて、淡いアクアマリンのような美しい眸を見つめる。
「…やっと、出逢えた…」
 意味深な言葉を呟き、ほろほろと涙を流しながら、まふゆはまりんの身体を、壊れ物を扱うようにぎゅっと抱きしめた。 

真冬のその先にact.2へ続く


《後書き》
初めましての方、改めましての方、こんにちは。
ふありの書斎です。
ここまで読んで下さり有難うございます。
この作品は、ある障害を抱えた美青年くんのまふゆくんを主人公に、ヒロインの可憐な少女、まりんちゃんとの恋愛を絡めた作品です。物語の都合上、どうしてもR15的な要素が含まれていますが、わたしの愛弟は、『そんな制限かける必要ないよ』
と、アドバイスをくれたのですが、act.1はそうでも…次作からそういう雰囲気も醸し出されるので、保身のためにも注意書きさせて頂きました。

最後に、まふゆくんを美麗なイラストで具現したような…(というかわたしの勝手な一目惚れ)月猫ゆめや様、貴重なイラストをお貸しして頂き、この場で改めてお礼を言わせて下さい。月猫様の美麗イラストに恥じない作品を目指します。どうか、今後とも、よろしくお願いします。
【休養宣言】しましたが、生き甲斐である創作活動は、ちょこちょこと発表していきますと記した通り、我慢できず、もう投稿してしまいました💦
どうか皆さま、あたたかい目で見守って頂けると、感謝です。
又、次作の発表も、いつになるか、見通しがついていませんが、どうか、この先、まふゆくんと、まりんちゃんがどうなっていくのか、色々想像などして楽しんで下さいませ。

それでは、失礼いたします。

2024.1
ふありの書斎

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