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源氏物語 若紫の巻 概略8(唐突な求婚)

・ 尼君との対話(女房の取次)

気配が近いので、間仕切りの二枚の屏風の間を少しずらして扇を鳴らしてみます。
貴人の客に知らんふりもできぬこととて、女房が一人膝行してきます。

源氏は、「唐突なようですが、初草の若葉の如き人のお身の上を聞いてから、旅寝に泣き濡れておりますと、申し上げてください」
📖 初草の 若葉の上を 見つるより 旅寝の袖も 露ぞ乾かぬ

女房は、はて、恋のお相手になるような姫君などここにはいないのに、といぶかしがりながら、奥に行って尼君に伝えます。

尼君は、「まあ華やいだお話だこと」「姫をお年頃とお思いなのかしら」
「それにしても、あの子を若草にたとえたのをどうして御存じなのかしら」わけがわからず困惑しますが、お返事が遅れては見苦しいと思って、
「こちらは乾く間もない深山の苔でございます」「御旅先の一夜限りの御手持無沙汰をお慰めすることなどできません」

女房を介して遣り取りします。

「こんな急なご挨拶など無礼とは存じております」「でも、恐縮でございますが、この機会に真剣にお話しさせていただきたいのです」

「何かお間違えなのでは?」「妙なことをおっしゃいますこと」「お返事もできませんわ」
女房達は、貴人に対して無礼があってはならないと、そのままでは取り次がずに、もっと御丁寧にと、尼君を諫めます。
「そうね」「丁寧におっしゃっているのだし、若い人達では難しいお相手かもしれないわね」
そう言って、尼君自ら、源氏の部屋の側に寄って来ます。

尼君「ひがこと聞きたまへるならむ」「いとむつかしき御けはひに 何ごとをかは答へきこえむ」
とのたまへば「はしたなうもこそ思せ」と人びと聞こゆ 
「げに 若やかなる人こそ うたてもあらめ」「まめやかにのたまふ かたじけなし」
とて ゐざり寄りたまへり

源氏が言います。
「唐突に思い付きの軽薄なことを申しているような状況ですが、決してそうではないのです」
「御仏の御前に近いこんなところで、徒や疎かなことを申すことはございません」
尼君の落ち着いた気配に気後れして、すぐには本題を言い出せません。
「姫君のお気の毒なお身の上を伺いました」
「私を亡くされた方の代わりとお思いくださいませんでしょうか」
「私も早くに親を亡くしまして心細い日々を過ごして参りました」「境遇の似ている同士、親しくさせていただきたいと真心から申し上げたかったのですが、機会もございませんで」
「こんな時にぶしつけとお思いでしょうが、お話しできる僥倖に、憚りながら申し上げる次第でございます」

「大変ありがたく伺うべきお話と思うのですが、何かお聞き間違いでもございましょう」「この年寄り一人を頼みにしている孫娘はおりますが、まだ本当のねんねでございます」「大目に見ていただけるほどにもなっておりませんのです」「とても承れるお話ではございません」

「すべて承知しているのです」「どうぞ窮屈にお考えにならず、私の衷心より申し上げている真心を御覧くださいませ」

尼君は、源氏が姫の幼さを知らずに言っているのだと思って、それ以上話を聞く気もない様子です。

いと似げなきことを さも知らでのたまふと思して 心解けたる御答へもなし


僧都が戻りました。

「まあ仕方がない」「お申込みいたしましたので、お返事を期待しております」
とだけ言って、源氏は屏風を閉てました。

・ 朝

明け方になりました。

暁方になりにければ 法華三昧行ふ堂の懺法の声 山おろしにつきて聞こえくる
いと尊く 滝の音に響きあひたり

山風に乗って下りて来るお堂の読誦の声がとても尊く滝の音と響き合っています。

目覚めた源氏が、「夢から覚めて涙の誘われる滝の音です」と詠みかけますが、僧都は、「はあ、私はもう耳慣れてしまいましたよ」と返します。

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                        眞斗通つぐ美

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