わたしとニユニユ

 打ち間違いではない。
 からかっているのでもない。
 わたしは確かに「ニユニユ」というコンテンツを視聴したのだ。
 履歴が残っていないので正確な時刻は不明だが、深夜三時過ぎだったと思う。いつものようにログインして、いつものように視聴していたのだが、いつもと何か違う。
 いつもと違うのはコメントの表示方法だった。横スクロールが波打っているのだ。コメントの文字表示は歪んで見えた。画像認証の数字みたいだった。ずっと見ていると眩暈が起きそうだ、と感じた。
「新機能かな? それにしては見にくいな」
 いつもの表示に戻せないかと色々やってみたが、上手くいかない。そのうち左右のスクロールではなく、立体的な表示に変わった。画面の奥から画面の外つまり、こちら側に向かって文字が飛んでくるようになった。
 こうなるとコメントを読むのは困難を極める。その割に意味が分かるから不思議だ。目の奥が次第にチリチリしてきた。網膜に文字が弾丸となって突き刺さる感じだ。こういうのが本物の弾幕なのかもしれないと、そのとき思った。本物の弾幕が、どういうものか知らないけれど。
「何だこれ? おかしくね?」
 ふと見れば画面の隅に「presented by ニユニユ」の表示があった。
「ニコニコに見えるけど、ちょっと違うよな?」
 強い不安に襲われる。もしかして、これは偽物? 詐欺サイトか! と思い、すぐに切断する。そしてウイルススキャンでチェックする。詐欺サイトという確証は得られなかったが、怪しさいっぱいであることは疑うべくもない。
「これはあれだ、さっさと寝ろってことだ」
 そんな独り言を呟いて、パソコンの電源を落とし、床に就く。
 翌朝、履歴を見てみた。それらしい記録が見当たらない。ニコニコ動画にログインする。普段通りに視聴できたし、コメントのスクロールは右から左へまっすぐに進み、うねることはない。こちらへコメントが向かってくることもなかった。従って、文字情報が直接この目に弾丸となって突き刺さるような感覚に襲われることもなかった。
 それっきり「ニユニユ」を見る機会がないまま、現在に至る。
 ニユニユ動画というものが詐欺サイトではなく、私の目の錯覚だったのかもしれない、と今は考えている。検索では引っ掛からなかったからだ。だが、幻ではなく実在していた可能性も捨てきれない。今は消えてしまったサイトなのだ。そうだとしても検索したら、それらしい情報がピックアップされると思うが……正直、分からない。
 わたしが見た「ニユニユ」の話は、これで終わる。
 この投稿がきっかけとなって「ニユニユ」について何らかの情報が得られたら、と期待している。
 それより期待しているのはAmazonギフト券1万円分が当たることだが、これは簡単なことではない。この公募は良い作品ではなく抽選で選ばれるからだ。亡くなった曾祖父と「ニコニコ」の楽しい思い出を綴った、これほどまでに感動的なエピソードであっても大賞を受賞しない恐れがあるのだ。
 世の中は歪んでいると、心の底から思う。
 しかし、そこまで悲観しなくても良いだろう。
 たとえ「ニコニコ」の抽選で外れても「ニユニユ」は何かくれると思う。
 それがどんな贈り物なのか、今から楽しみだ。

#わたしとニコニコ


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