見出し画像

中学生というあやふやな季節

病院での採血で、自分の血が赤く鮮やかであった。正直採血は苦手で、血が抜かれるとこをみるのが目眩を起こす。おそらくそれは5年前自ら命を絶とうとした時の反動で、もし死んでいたらこの血が流れたのだという強迫的な観念に捉われたところから派生している。現に私以外の人たちは採血をしても平気で、その採血が気持ちいいとまで言う人がいる。けれど決まってそこに共通するのは、本人たちが生き生きしているということ。

血が赤いのなら、私の体内の方が生命だと思った。外の世界よりも私の血の方が生き生きしていた。なんだ私は、生まれた時から野生だったんじゃん、そう思った。

精神科医が代診だった。いつもは硬いマニュアルに沿った院長なのだけれど、今日は少し若めの社会人、って感じの人だった。「最近調子はどうですか」と聞かれ、「いつも通りです」と答えた。夏休みなんですねと言われたから「大学には悪いですが、大学に入ってよかったのは夏休みが長いことです」と言ったらその人は爆笑していた。ああ、社会反抗的な言論に爆笑できる懐の深い人だ、そう思った。それと同時にすべての大学生活が報われた気がした。

米津玄師の一つ一つの曲の成り立ちを、母に話しながら帰った。病院は母がいつも連れて行ってくれるから(車で 自分は免許持ってない)、帰りは妹が購入した米津玄師のロストコーナーをかけていた。その一つ一つの曲の成り立ちを自然な流れに沿って説明することになった。

私の母はそんなに思慮深い方ではない。ごく一般の母だと思う。また思いが伝わることはきっとないことが明白だけれど、それでも私を分かろうとしてくれていることだけは少しは感じる。

採血の際に以前看護カウンセリングでお世話になった看護師の方がいて、おそらく私を覚えてくれていた。というのも、看護カウンセリングで命を救われたんだということを前に私の方からその方に伝えていたからだ。その方は年配の看護師さんなのだけれど、鋭い目つきなのに性格が底知れなく優しい。私は人間というものの深みを感じさせられる。

看護カウンセリングはカウンセリングが埋まっているので、相応の訓練を受けた看護師さんがカウンセリングをしてくれる仕組みである。私は3年前に強烈な希死念慮に襲われていたが、それなのに正当なカウンセラーはつかなかった。しかしながらその看護カウンセリングが自分にとってはとてもよかったのだ。

おそらく何がよかったかというのは、「話を聞いてもらえた」そのことだけだったのだと思う。先ほどの大学の夏休みで爆笑してくれた医師の方も今言った看護師の方も「話を聞いてくれた」ということがどうも共通している。

もしかしたら私たちは理論なんてものはどうでもよくて、ただ話を聞いてくれる人なのであればそれでいいのかもしれない。また私はそれを螺旋として、塾でのあの愉快な少年たちに、話を聞いてあげることをしたいなと思った。それも別にわざわざ話を聞こうとしてするものじゃない。ただ彼らの話に興味があるから、私は面白おかしく聞くのだ。

中3の男の子と塾でお話をしていた。どうやら地元の高校ではなく都会の高校に行けとおばあちゃんに言われている、ということだった。その理由が「マックのシェイクを飲めるんだぞ」ということだったのはとても可愛らしかった。

一つ興味深かったのは、そのマックはじゃんまけで友人と奢り合いをするんだよ、と私が言った時、その中3の男の子が「え、そんな道もあるんか⁉︎」という驚愕と、それと同時に実に嬉しそうな、楽しそうな愉快な顔をしていたことだ。そう、そうなんだ。本来高校というものは、その轟く友愛のためにあるのだ。私は塾での勉強より"いい勉強"をその子に伝えてあげれたと思った。これこそが塾に来た意味とすら思った。

中学という時代は、私には不可解である。高校、大学と、それでさえあまりにも青いのに、中学なんていう極中間の、非常にあいまいな期間は、青年少女の自我の芽生えと、背伸びと、一つの理不尽の季節であると思う。

私の中学時代は非常に劣等感の強いものだった。実にそれから解き放たれるまでは10年かかった。生を越え死を見据え、そうして私は中学の時代を一つの愛と、今は感じている。

これからだ。すべてはこれからだ。

君たちはこれからパチパチとした花火のように散っては消え、散っては消えを繰り返して、そこから一つの不信と一つの厭世とに陥って、人生への疑問を感じることになるだろう。それは大切なことなんだ。またそしてそれを援助できる大人がありあまるいることを私は願う。また私の仕事はそういう大人を深めるところにある。

人生は深い。だからあなたの恋愛は意味がある。

私は何かの因縁と気恥ずかしい青春に彼らの夢に夢を重ねて夢を見る。

「僕たちは若い。だから僕たちの春はまだ青い。」

きっといつまでも大丈夫だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?