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[創作]あれからとういうもの

「先生は、どれだけのことをやってこられたのですか。なぜここまでの位置に到達することができたのでしょうか。」

「あれからというもの、私は精神の開発を40年間続けてきた。それは私が嫉妬深いからですな笑」

「40年ですか、その時にやめたいとは思わなかったのですか?」

「やめようもなにも、一度身についてしまったものはなかなか取れなくてな。そんで、最初の方は自殺の危険もあったのだけれど、そのうちに圧力というものの中でも勝手が分かってきたんだ。」

「圧力、という表現をされましたが、圧力には一体どんな効用があるのでしょうか。」

「圧力は文字通り、自身にプレッシャーをかけることを意味する。筋力トレーニングと同じだよ。その圧力をググッと自身にかけることによって、言葉に力がこもってくるんだ。これはかけすぎるといけないのだけど、この圧力をかけた状態で生み出した言葉は、人々の心を魅了することが多い。」

「なるほど、しかしなぜ圧力をかけただけで、人々の心を魅了するのでしょう。それがまだ経験にもなってないというのに。」

「これはおそらくだが、圧力には未来を擬似的に体験する性質が組み込まれるのだと思う。ある種一つの未来予知とでも言うか、高められた質量は未来という仮想空間に一旦押し込まれる。そしてそれが来たる現在になった時に爆発的なエネルギーで発散される。おそらくこの"溜め"に、未来を擬似的に経験する力がある。だから人の心を魅了する。」

「なるほど、ではもしその"溜め"がある状態で、実際に経験を積んだ場合は、もっと好ましい現象が現れると?」

「おそらくだがそうだ。私はフィクションに生きる人間であるから、そこのところはいまいちわからないのだが、負荷と現実を陰陽混じった経験にすることができた人間は、おそらく母性性がとても強い人になる。」

「なるほど、母性性と言いますのは?」

「母性性というのは、"人を受け入れる力"のことである。人を受け入れ、伸ばし、育む。母なる愛を持った人間が母性性が強いと表現される。」

「なるほど...では、最も負荷が強かった人間、つまりは父性が強かった人間が、望ましい経験を経ることで最も母性性が強い人間に生まれ変わる、といったことでしょうか。」

「うむ。そうと言える。ただここで気をつけておかなければならないのは、父性、つまり不満が何に対する不満なのかをしっかりと見極めておかなければならない。ここでいう不満とは、己の運命に対する不満である。そして己の運命、不当に扱ってくる理不尽に対しての怒りである。運命と人生に対し、あるいはその自己に対する不満であり、そこに他者は含まれない。」

「ほう、他者が含まれるとどうなってしまうのです?」

「他者に対しての不満になってしまうと、おそらくその人物はずっと父性的なままである。父性的なまま人生を終える。それは他者を責めているからである。責任転嫁し、自身と向き合っていないからである。そういう人物は、結局惰性に落ち着いて、恵まれた死後を迎えることはできない。」

「なるほど、あくまで怒りは自己に向けてであり、あるいは壮大な運命に向けてのものがいいのですね。」

「うむ。あまりに怒りが大きいと、ノイローゼになってしまうこともあるが、しかしその期間を乗り越えた自身に怒る者は、もっと鮮明な精神を獲得するだろう。そうして自身への怒り、負荷、そしてそれが成す成長を経験則として知るので、自身を追い込むということが始めて可能になるのだ。」

「なるほど、負荷にも慣れがあるということですね。」

「何故かは分からない。しかし負荷にも慣れがある。そして最初は行きすぎた負荷が、自身の体調の悪化などによってリセットされ、理に適った負荷を保てるようになると、その人物は現実世界で成功し続けるようになる。」

「なるほど、なんとなく分かってきました。そして先生は40年間その負荷を継続されたということですね。」

「あまり声を大にして言うことではないが、そういうことだ。今世の人が向き合っている事象は、だいたい3年目から4年目あたりのとこで答えを出している。」

「なるほど、それはすごいですね。私もそうなれるよう、日々精進いたします。」

「くれぐれも体調には気をつけて。その中で暴れ馬の操縦を掴んだのなら、思いっきり邁進してくれ。私なんかが霞んで見えなくなるくらいに。」

「いや、私にはそれほどの力は..。ありがとうございます。できるだけやってみようと思います。もしその先の世界を見ることができたのなら、先生をお礼の旅行に連れて行こうと思います。」

「ああ、楽しみに待っているよ。」

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