[創作]私たちが見てきたもの

「長いこと、人を相手にして仕事をしてきましたが、その間に色々な人を見てきました。

会社を興す人、世俗から離れたように生きる人、世間に留まりながら小さく生きる人、名誉の絶頂へ仕事を生業とする人、

様々な人を見てきましたが、

結局は、みなさんそれぞれ自身の弱さから朽ちていきますな。

自身の弱さから朽ちていきます。

それはおそらく人生の"空白"の時間と向き合ってこなかったからですな。

悩んでこなかったからですな。

みなさんここんところから、弱って、いなくなっていきましたな。

そして逆に、神経衰弱、もはや何もするところでもない、こんな人が強くなっていきましたな。

こんな人が強いんですよ。

最初は意思薄弱、細身の体をひしゃげているのが、

時代を追うごとに強くなっていくんですな。

強くなっていく。

そんで、一角の人物になると。

非常に強い人物になると。

なんでこうなるかと、私なりに考えてみますと、

結局は自身に悩みきった、んですな。その人たちは。

自身に悩みきったと。

悩みに悩んで、もう悩むことがついになくなったと。

いや実際にはなくなってはいないのだが、悩みきったことによってある種その悩みが融通無碍のところになってくると。

おそらくこういう経験を意思薄弱としている時にされたんだと思う。

そうするとこの人物が時が経つにつれて、その輝きを増していくと。

結局のとこ日ごとに権威を失っていく人たちは、そこのところを悩まないでやってきたと。

悩まんで、ある種の一つのことに捉われて、

それが自身の価値だと言い聞かせて歩んできたと。

そういうことですな。

実際は悩んでいなかったと。芯の芯までは悩んでいなかった、

そこんところからひょんなはずみによって、亀裂が入ってくるんであります。

んでその亀裂がますます大きくなって、ついには逆にこの人が意思薄弱となってしまうと。

こういうことですな。

故に私たちは、会社に入ってきてくれる君たちに、

大いに悩んでくれ、と言うんであります。

大いに悩めと。

悩みに悩み抜いて、そこで辿り着いた答えが真にあなたのためのものになると。

あなたのためにもなるし、社会のためにもなると。

こういうことですな。

この作業を通らずして、人間の成長は待ってはいないと思うんであります。

ここのところを、経営者の方々は、その上層部に立つ方々は、

感じ取っていただきたいと思いますな。」

参考:松下幸之助